民主法律時報

日本郵便株式会社営業部長は「管理監督者」にあたらないと労基署が判断

弁護士 村 田 浩 治

1 事件の顛末

大阪天満労働基準監督署は、2022年10月18日、大阪市内の郵便局に勤務していた30代の集配営業部長が「管理監督者」(労基法41条第2号)に該当するとして、日本郵便株式会社が営業部長に一切の残業代を支払ってこなかった行為が労働基準法24条違反であるとして、未払賃金220万円余りを支払うよう命じる是正勧告をしました。日本郵便は、同年12月28日に遅延損害金約27万円を合わせた250万円を支払いました。

2 日本郵便株式会社の「管理監督者」

当事者Aさんは30代の男性で子が誕生して間もない方です。Aさんは2021年4月から「集配営業部部長」に昇進してから、管理職だからと一切の残業代が支払われなくなりました。Aさんの年齢では月額7万円の部長職手当がその代わりでした。

勤務先の郵便局には、集配関係だけでも、部長職扱いの「管理監督者」は5名いましたが、出退勤時間は自由な裁量で決められません。勤務時間についても裁量はなく、年休はありますが早退する時ですら部分的な年休取得を求められていました。労働時間だけをみれば、残業手当分を含むと、収入が逆に減っていました。部下の査定は形だけで、基本的には上司と相談して決定し、人事権等があるともいえませんでした。

それどころか、部長副部長のメンバーが全員参加するライングループがあり、そこでは、午前6時でも「配達残はありません。よろしくお願いします」というメッセージが流れ、一分後に(上席の)部長から「了解」というメッセージが出されるような環境でした。さらに、深夜早朝のメッセージに本人が反応しなかったことに、当該部長が「寝ていて気がつきませんでしたで通るのか」等と叱責してくる状態でした。

3 退職を決意し申告

こうした職場環境で、同年秋、Aさんは体調不良となり、早退しようとした際、総務部長からは、早退した時間(3時間)について時間休(年休の時間単位での取得)をとるよう指示され「時間休を取得しないのであれば、欠勤として給与を控除するし、欠勤として懲戒処分をうける可能性がある」等と言われたのです。Aさんは、法律を守らない職場に愛想がつき退職を決意しました。さらに退職時の有休取得さえ制限されようとしました。

4 受任後

2022年3月に労働基準監督署に申告してもなかなか判断が出ません。そこで弁護士に相談することにしたのです。相談を聞くや「管理監督者」などに該当するはずがないので訴訟も検討しましたが、日本郵便もさすがに労働基準監督署が判断を示せば支払をするのではないかという気もしました。郵政関連の事件を手がける弁護士に事情を聞いても、過去に先例はないようでした。みなが違法だと思っても声を上げない職場なのだろうと推察されました。Aさんは、労働基準監督署に申告しているので、その結論を待って提訴を考えたいという意向でしたが、労働基準監督署の是正勧告がなかなか出ないので、申告から3ヶ月が経過した6月下旬に、Aさんと私は、そろって労働基準監督署を訪ねました。勧告が出ない理由を尋ね、早期に是正指導を求めました。対応した監督官の判断は私と同様でしたが、大阪労働局からは追加調査の指示があるため遅れ、この調査に日本郵便側がすぐに対応しないため、遅れていることが分かりました。そして申告から半年以上かかって10月18日に日本郵便に是正指導がされました。

5 裁量労働制に関連して

本件は、相談を聞いた時から「管理監督者」ではないことは明白でした。しかし「社内独自ルール」で支配され、労働者の権利意識が麻痺している会社では違法が横行しています。

たとえば、「管理職」の肩書きとは無関係に労働組合に加入できることは多少広まっていると思われます。しかし、「課長になったら労働組合を脱退することになっている」とか「課長なので、残業代は出ないことになっています」等という話を一般の労働相談の合間に聞くことも少なくありません。残業規制のための割増賃金制度を知らず、理解していても職場の雰囲気で問題提起するのは難しい状況にあるのかもしれません。しかし、割増賃金の不払いを放置している職場環境がいいはずがありません。

いま裁量労働制反対が大きな課題となっていますが、本件のような残業代の未払の場合ですら無関心な職場の状態では、労働時間規制も実効性を持ちません。そのような中では「裁量労働制反対」も運動にならないのではと感じます。

日本郵便の名ばかり「管理監督者」問題は、残業代の未払問題として知っていただき、管理監督者であっても「早退すらまともにさせない」ことが如何に問題なのかを知っていただきたいのです。残業したのに割増賃金すら支払わない状況では「裁量労働制反対」の声も出てこないように思います。

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