民主法律時報

日本放送協会事件(地位確認等請求事件)大阪地裁判決の報告

弁護士 西 澤 真 介

1 事案の概要及び争点

本件は、協会の地域スタッフ(受信料の取次・集金等を行うスタッフ)で構成される組合(全日本放送受信料労働組合堺支部。以下、「全受労」という。)の執行委員長であった原告が、被告である日本放送協会(NHK。以下、「協会」という。)から、休業期間中に契約の中途解約をされたことに関して、①契約上の権利を有する地位にあることの確認、②休業見舞金や解約日以降の事務費(実質的に給与である。)等の報酬等請求、③慰謝料請求をした事案です。
本件の争点は、(1)本件中途解約の有効性について、(2)本件契約更新の当否について、(3)「事務費」及び「給付」請求の当否について、(4)慰謝料請求の当否についての4点でした。
これらの争点を判断する前提として、地域スタッフが労働契約法上の労働者に当たるか、労働組合法上の労働者に当たるか、不当労働行為があったかどうかが問題となりました。

2 大阪地裁の判断

(1) 争点(1)について
大阪地裁平成27年11月30 日判決(菊井一夫裁判官)は、本件中途解約を無効であると判断しました。
地域スタッフは労働基準法及び労働契約法上の労働者であるということはできないとしながらも、地域スタッフは個人であること、本件契約は民法上の労務供給契約にあたること、地域スタッフは被告の業務従事地域の指示に対して諾否の自由を有しないことなどを根拠に、原告が労働契約法上の労働者に準じる程度に従属して労務を提供していたと評価できるとして、契約の継続および終了において原告を保護すべき必要性は労働契約法上の労働者とさほど異なるところはないとして、期間の定めのある本件契約の中途解約については、労働契約法17条1項を類推適用するのが相当であると判断しました。
その上で、労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由」はないと判断しました。

(2) 争点(2)について
大阪地裁は、本件契約に労働契約法19条の類推適用がありうることを認めたものの、原告の業績不良等を根拠に、被告の更新拒絶は、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であるとして,平成26 年3月31日に期間満了により終了したと判断しました。

(3) 争点(3)、(4)について
大阪地裁は、(3)は、被告が本件契約に基づき休業見舞金や通常の事務費等の事務費・給付の支払い義務があると判断しました。(4)は、慰謝料請求を否定しました。詳細は、紙面の都合上割愛致します。

3 本判決の持つ法的・実践的意義

(1) 先行する神戸事件について
先行する同種事案の神戸事件については、本年の9月11日に大阪高裁で逆転敗訴判決が出たところでした。神戸事件の高裁判決は、協会と地域スタッフの間の契約を労働契約ではないと判断しました。

(2) 本件について
本件は、地域スタッフの労働契約法上の労働者性に関して、地域スタッフの実情を詳細に検討したうえで、地域スタッフが労働契約法上の労働者に準じる程度に従属して労務を提供していたと評価することができるとして、契約の継続および終了において原告を保護すべき必要性は労働契約法上の労働者とさほど異なるところはないとし、期間の定めのある本件契約の中途解約については労働契約法17条1項を類推適用するのが相当であると判断した点に意義があります。
なお、類推適用という法律構成を許容した理由として、労働契約法は純然たる民事法であるから刑事法の性質を有する労働基準法とは異なると説明しています。
地域スタッフが労働契約法上の労働者に類するとの判断を得たことは、NHKで働く地域スタッフの労働者としての地位を勝ち取る上で大きな進歩といえます。この点で大きな法的・実践的な意義があるといえます。
他方で、更新拒絶を有効と判断されたことは、原告特有の事情を軽視した上で、原告の業績不良等の認定がされており、不満が残ります。

4 最後に

協会は本判決を不服として控訴しました。引き続く裁判等へのご支援を宜しくお願い致します。

(弁護団は、河村学、井上耕史、辰巳創史、西澤真介)

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