民主法律時報

山下よしきゼロ票事件 高裁判決を受けて

弁護士 西 口 加史仁

1 事件の概要

原告ら(11名)は堺市美原区の住民であるところ、いずれも、2019年7月21日に施行された第25回参議院議員通常選挙の比例代表選出議員選挙(本件選挙)において、堺市美原区内の投票所で、山下よしき候補(日本共産党の比例代表候補。本件選挙において当選した。)に投票した。ところが、美原区における山下よしき候補の得票数は0票とされた。

原告らが堺市美原区選挙管理委員会に対し、本件選挙の開票結果の誤りを指摘して投票用紙の調査を求めたが、同選管は調査を拒否した。

そこで、2020年3月、原告らは、堺市を被告として、「自己の投票が投票した候補者の得票として計上される権利」が侵害されたことを理由に、1人あたり6万円(慰謝料5万円+弁護士費用1万円)の損害賠償を求めて、大阪地裁堺支部に提訴した。

2 地裁判決と高裁控訴審の争点

(1) 大阪地裁堺支部は、2022年3月22日、原告らの請求をいずれも棄却した。地裁判決は、「『候補者の当落にかかわらず自らの投票が正確に得票に計上される権利』は認められず、仮に選管職員に原告らの主張する行為(誤って同姓の別候補者の得票に計上した等)があったとしても、国賠法上違法とならない」と判断したものであった。

(2) 原告らのうち10名が大阪高裁に控訴した。主な争点は、個々の選挙人に「自らの投票が正確に得票に計上される権利」が認められるか否か、である。原告らは、倉田玲(あきら)立命館大学教授(憲法学)の意見書を提出するなどして、原告らの権利が認められることを主張立証した。

3 高裁判決

(1) 大阪高等裁判所は、2023年1月25日、原判決を維持し、原告らの控訴(請求)をいずれも棄却するとの判決を下した。

(2) 大阪高裁は、「選挙権の保障には、投票が適正に取り扱われることを求める権利の保障も含まれている」と認めたものの、「投票が適正に取り扱われることを求める権利は、現行の選挙制度の開票事務においては、投票用紙で表明された選挙人の意思を正確に把握するための適正かつ合理的な開票事務の手順等が定められ、開票管理者や開票事務従事者がそれに従って誠実に開票事務を行うことでもって実現されることを要請するものの、それを超えて開票事務における人為的な誤りを完全に排斥することの保障までは求め得ないと解するのが相当である。」「開票管理者や開票事務従事者は、控訴人らとの関係で、上記手順などを遵守すべき職務上の法的義務を負うものの、人為的な誤りによって、特定の投票につき、結果として、投票用紙に記載された候補者と異なる候補者に対する投票等と扱われることを完全に排除すべき法的義務があったとはいえない。」「そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件選挙の開票は、本件手引に従って行われたことが認められる。」「そうすると、控訴人らがした投票については、人為的な誤りによって、結果として、控訴人らが投票用紙に記載した候補者と異なる候補者に対する投票と扱われるなどしたことは否定できないものの、上記に検討したところによれば、それをもって控訴人らの権利が侵害されたものとまではいえない」と判断した。

(3) 上記の通り、高裁判決は、「投票を適正に取り扱われる権利」は認めたものの、「正確に得票に計上される権利」までの保障は認めなかった。「『候補者の当落にかかわらず自らの投票が正確に得票に計上される権利又は法律上保護された利益』は認められず、これを侵害するものとして、国賠法上違法なものとなる余地はない。」とだけ述べる地裁判決よりは前進したと評価できるが、不当判決であることは明らかである。

4 今後の進行
原告らは、前記高裁判決を受け、最高裁に上告及び上告受理申立てをした。最高裁において、公正な判断がなされることを望むものである。

(弁護団は、井上耕史弁護士、辰巳創史弁護士、西口加史仁)

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