民主法律時報

堺学童事件東京高裁判決のご報告

弁護士 冨 田 真 平

1 堺学童保育指導員労働組合が、学童保育の管理運営業務を新たに受託した株式会社CLCが、組合員である主任指導員について、組合員であることを理由に継続雇用を拒否し、団交申入れも拒否したとして、不当労働行為救済申立を行った事件について、府労委・中労委が組合側の申立て(再審査申立)を棄却したことから、東京地裁・東京高裁において、中労委命令の取消訴訟を闘っている。
この訴訟において、2023年7月20日、東京高裁は、組合側敗訴の不当な一審判決を維持する判決を出した。

2 堺市では、長年公益財団法人であるスポーツ振興事業団に学童保育事業の管理運営業務が委託されてきたが、2017年度からいわゆるプロボーザル制度が採用され、堺市東区については、株式会社CLCが新たに受託することとなった。ところが、CLCは、継続勤務を希望する他の指導員を採用しながら、堺学童保育指導員労組の組合役員のみ採用を拒否し、組合からの団交申入れも拒否した。そこで、継続雇用の拒否が組合員であることを理由とする不利益取扱い(労組法7条1号)に該当し、団交拒否も正当な理由のないもの(労組法7条2号)であるとして、大阪府労委に不当労働行為救済申立を行った。

しかし、大阪府労委、中労委はいずれも不当労働行為に当たらないと判断して申立て(再審査申立て)を棄却した。(事案の詳細及び府労委・中労委命令の詳細は民主法律時報2020年 月11号を参照されたい)。

3 そこで、組合は東京地裁に取消訴訟を提起したが、東京地裁(第36民事部・小川理津子裁判長)は、2023年1月30日に組合側敗訴の判決を出した。東京地裁は、採用拒否について一般論としてJR北海道事件を引用し、特段の事情がない限り採用拒否は不利益取扱いに該当しない旨述べた上で、継続雇用について堺市とCLCとの間で合意がないことなどから特段の事情がないとして労組法7条1号該当性を否定し、傍論において不当労働行為意思も否定した。また、団交拒否についても使用者性を否定した。

4 これに対し、組合側が控訴したが、東京高裁(第21民事部・永谷典雄裁判長)は、同年7月20日、控訴を棄却する判決を出した。東京高裁は、地裁判決と同様にJR北海道事件の枠組みに基づきつつ、事業者が変更しても事業自体やその対象となる児童などがそのまま引き継がれること、希望者が継続勤務か可能となるよう運用されていたことなどから不当労働行為に基づく採用拒否と認められる場合にはJR北海道事件のいう「特段の事情」が認められるとした。しかし、東京高裁は、会社の不当労働行為意思を否定し、不当労働行為の成立を認めなかった。

5 高裁判決が、本件のような事案において不当労働行為意思に基づく採用拒否であると認められる場合には不利益取扱いが認められるとした点は、今後民間委託の委託事業者の変更に伴う新事業者への継続雇用の際などに活用できるものである。もっとも、会社代表者の不当労働行為意思を推認させる発言が記載された堺市の文書を証拠として提出したにも関わらずこれを無視し、会社代表者や堺市の文書作成に関与した職員の証人申請をも却下した上で不当労働行為意思を否定した点は不当と言わざるを得ない。

6 組合は、東京高裁判決に対し、上告を行い、今後闘いの舞台は最高裁に移ることとなる。今後も引き続き組合・弁護団・支援者が一体となって奮闘する所存であるので、会員の皆様のご支援をお願いする次第である。

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