民主法律時報

タイ国際航空解雇事件 ~コロナ禍の経営破綻・再建下で人員整理目的を隠し能力不足解雇した事案で解雇無効で和解

弁護士 安 原 邦 博

1 労働審判から訴訟に移行して、勝利和解

原告は、タイ国際航空において、1991年9月に入社して30年程、西日本地区(大阪支店)旅客営業部の営業職や事務職として従事し、組合の役員等も歴任してきた。2021年11月5日から原告の持病のことに触れて退職勧奨が始まり、同年12月7日にメールによる突然の解雇予告と解雇日迄の出勤停止命令がなされ、2022年1月7日付で解雇が強行された。

原告は2022年3月7日に労働審判を申し立て、労働審判委員会からは第1回期日から解雇無効前提の和解勧奨がされたが、タイ国際航空がそれに応じなかったため同年7月27日に地位確認及びバックペイの支払いを命ずる労働審判が出され、それに対し同社が異議申立てをしたため訴訟移行した。

2023年7月31日、解雇撤回と解決金支払いを内容とする勝利和解となった。

2 整理解雇の要件を満たさないため人員整理目的を糊塗した「能力不足」の主張

タイ国際航空は、コロナ禍の2020年に経営破綻し会社再生手続きを開始したが、2021年11月5日に原告への退職勧奨を開始する前に、全世界の従業員数を約1万4900名まで減らして会社更生計画を達成していた。しかし日本地区だけを見れば退職者が41名で削減目標の42名まで1名足りていなかったところ、原告に退職勧奨を開始し、それに応じなかった原告を解雇した。

このように、原告の解雇は明らかに人員整理目的であったが、整理解雇の要件を満たさず、さらに協約にも違反するため、タイ国際航空は、労働審判と訴訟を通じて、原告は能力不足であるなどという客観的事実に反する主張を繰り返していた。以下が、その経緯(労働審判及び訴訟における争いのない事実及び客観的証拠から認定できる事実)である。

① 勤続30年程の原告の人事考課は、常に、タイ国際航空で「良い」と評価される、5段階評価における評点「3」以上で、2016年以降、同社が原告に付した評点は上昇
② タイ国際航空が2020年にタイ本国において会社再生手続き開始
③ 2021年8月にタイ国際航空が日本地区での希望退職募集を発表(目標は42名)
④ 同年(以降、⑦まで、同様なので年の表記は略す) 10月14日付けで、タイ国際航空と労働組合が、希望退職応募者が会社の求める数に達しない場合、組合員への指名解雇を最大限避ける努力を行うこと等を規定した労働協約締結
⑤ 10月31日までにタイ国際航空日本地区で合計41名が退職、11月1日時点で全世界の従業員数は約1万4900名まで減って会社更生計画達成
⑥ 11月5日、タイ国際航空が原告とオンラインで面談し原告の持病のことに触れて原告に退職勧奨。希望退職募集と同じ条件を示唆する一方、原告の勤務成績については触れず
⑦ 12月7日に就業規則52条4項6号(経営上の都合)も挙げて解雇予告通知
⑧ 2022年1月4日付け解雇理由証明書で、「ROE52・4条1項(6) :会社の事業運営の縮小または中止、自然災害、または会社の事業運営におけるその他のやむを得ない事由(略)補償を提案しましたが、あなたは断りました。現在、会社にはあなたの雇用を終了する以外の選択肢はありません」とし、経営上の都合による解雇であることを明示

3 勝利和解

上記のとおりタイ国際航空の主張は客観的な事実経緯からして極めて大きな無理のあるものであるから、本来であれば労働審判を申し立てられる以前に自ら和解解決を原告に対し申し出るべきものであった。しかし同社が、労働審判と訴訟を通じて頑強に独自の主張をおこない続けるとともに、タイ本国の本社に決定権限があるなどという何の言い訳にもならぬ言い訳を繰り返して、労働審判申立時点からでも解決を1年5ヶ月も引き延ばしたことは、大変遺憾である。このような姿勢の者には、多くの社会的非難が寄せられるべきであろう。このような会社に対する闘いを、持病を持つ原告が闘いきることができたのは航空連の皆さんの支援のおかげである。

弁護団は豊川義明、谷真介及び安原邦博であり、担当裁判官は、労働審判は岩﨑雄亮裁判官、訴訟は山中洋美裁判官(当初は植村一仁裁判官)である。

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