民主法律時報

NEC懲戒解雇事件 判決報告

弁護士 西 川 翔 大

 NECソリューションイノベータで勤務する50代男性(原告)は、会社(被告)に対して、家庭事情に配慮することなく強行された配転命令、及びこれに従わないことを理由に行われた懲戒解雇が無効であることを前提に労働契約上の地位確認等を求める訴訟を行っていましたが、2021年11月29日、大阪地裁第5民事部(中山誠一裁判長、安西儀晃裁判官、佐々木隆憲裁判官)は、原告の請求を全面的に棄却する不当判決を言い渡しました。

原告は、当時被告からNEC関連会社の間接部門(事務作業)を引き受けるNECマネジメントパートナー(NECMP)に出向していました。ところが、NECグループが3000人のリストラを遂行するためにNEC関西ビル(大阪市中央区所在)内の間接部門を玉川事業場(神奈川県川崎市所在)に拠点統合することになったため、原告は大阪から神奈川県へ転勤するか、早期退職者優遇制度を利用して退職するかの選択を迫られました。

原告は、自家中毒(発症すると激しい頭痛と嘔吐症状が現れる病気)と小児喘息を患っている当時10歳の長男と、低体温症を患い精神的に不安定な当時75歳の母親と岸和田市内で同居していました。長男が学校で自家中毒を発症した場合には、原告や原告の母親が学校まで迎えに行き、病院に連れて行く必要があり、原告は会社を早退して長男の症状が落ち着くまで病院で付添う必要がありました。母親は低体温症や精神不安定により月に数回寝込むことがあり、母親だけでは長男の介護・育児は困難であるため、原告が単身赴任により玉川事業場へ転勤することできませんでした。また、家族帯同での転勤も、生活・学習環境の変化によるストレスで長男の自家中毒の症状が悪化する恐れがあり、高齢で持病のある母親が見ず知らずの土地に転居することができないことから困難でした。

原告はこれらの家庭事情について、直属の上司に相談し会社を早退することがあったため、職場内で当然のように認識され、社内の休暇制度の申請理由にも長男の自家中毒により早退する旨を記載しており、転勤を打診した事業部長に対してもそのことを前提に原告の家庭事情について説明しました。

これに対して、本判決は、原告が複数回行われた事業部長との面談において長男の自家中毒について具体的な説明を行わなかったという誤った認定をもとに、原告が退職勧奨を警戒して本社人事担当者との面談に応じなかった点を捉えて、「自ら説明の機会を放棄した」と評価しました。そして、本件配転命令発出時点において被告あるいはNECMPが認識していた事情によっては、本件配転命令が権利の濫用になることを基礎づける特段の事情があるとは言えないと判断しました。

また、原告が訴訟内で提出した長男の主治医の意見書や診療録等の各資料を考慮しても、原告の母親が要介護状態ではないこと、原告の長男の病院への通院状況や発症頻度、原告が有給休暇や社内休暇制度の範囲内で対応できた点から、本件配転命令により原告が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負うものではないと認定し、本件配転命令を有効と判断しました。

しかしながら、本判決は、原告が強行に3000人リストラを推し進めようとする会社の姿勢に抗議することに着目して企業秩序を乱す人材と決めつけ、原告が提出した関係証拠を軽視した誤った事実認定を前提になされたものであり、「ワーク・ライフ・バランス」の社会的要請も高まっている中で、明らかに時代に逆行する不当なものです。原告、弁護団は、原告の家庭事情を無視し原告の生活を追い詰める本判決に対して、徹底的に抗議し、最後まで闘い抜く所存です。

(弁護団は鎌田幸夫、坂東大士、西川翔大)

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