民主法律時報

任天堂における紹介予定派遣のパワハラ・直接雇用拒否事件―京都地裁判決のご報告

弁護士 冨田 真平

紹介予定派遣での就労中に産業医からハラスメントを受け、その後同産業医と円滑な協力体制を構築できなかったことのみを理由に派遣先の任天堂から直接雇用を拒否された原告2名が地位確認や損害賠償請求を求めた事件で、2月27日、京都地裁第6民事部(裁判長齋藤聡)は、産業医によるパワハラを認めて任天堂と産業医に原告それぞれに10万円ずつの損害賠償を認める一方、地位確認や直接雇用拒否に関する損害賠償を認めない判決を出した。

1 事案の概要

原告らは、2018年4月に紹介予定派遣として採用され任天堂で就労を開始した。その採用過程において、任天堂で2度の面接(その内容・態様が採用面接と同様であった)を受け、任天堂から(紹介予定派遣についての)内定が出たとの連絡を派遣会社から受けた。原告らは、就労開始後、産業医から指示を受けて業務を行っていたが、同年6月15日のささいな出来事から産業医の態度が一変し、①仕事外しや②無視等のパワーハラスメントを受けた。原告らは任天堂の人事部に相談したが産業医に対する指導などは行われず、さらに同年9月に任天堂担当者から(原告らの業務能力・態度は問題ないが)産業医と円滑な協力体制が構築できなかったため直接雇用ができない旨告げられた。そこで、原告らは、①パワハラについて産業医と任天堂に対する損害賠償請求、②直接雇用拒否について㋐任天堂に対する地位確認及び賃金請求、㋑仮に地位確認が認められない場合の予備的請求として損害賠償請求を行った。

2 訴訟における原告の主張

訴訟において、派遣先との雇用契約の成立については、①原告らと派遣元との派遣労働契約において派遣先である任天堂が実質的な採用決定を行っており、労働者派遣の枠組みを超えていることから黙示の労働契約が成立すること、②仮に紹介予定派遣の枠組みの範囲内としても、合理的な意思解釈からすれば原告らと任天堂との間で雇用契約の成立(内定)が認められること、③仮に採用決定時点で労働契約が成立しないとしても、原告の合理的な期待に基づく雇用契約の成立が認められること、3つの主張を行った。また、予備的な主張として、期待権侵害を理由とする損害賠償請求を行った。

3 本判決の内容

本判決は、産業医が原告らとのミーティングを合理的な理由無く廃止した行為や業務に関する相談を無視した行為などいくつかの行為についてパワーハラスメントと認め、産業医の不法行為責任及び任天堂の使用者責任を認めた。しかし、他方で任天堂がパワハラに関する事実確認、調査、指導を行わなかったことを認めながら職場環境配慮義務違反を否定した。

また、直接雇用拒否について、原告の主張をいずれも退けて地位確認や損害賠償を認めなかった。このうち、合理的な期待については、「職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階に至ったとか、直接雇用をしない理由が不合理であるという特段の事情が存しない限り、直接雇用に向けての期待は法的保護に値しない」として、裏を返せば直接雇用をしない理由が不合理であるなどの特段の事情がある場合には直接雇用に向けた期待が保護されることを認めた。しかし、パワハラ以前から原告らが不満を募らせて人事部に対し産業医を指導するよう申入れをしていることなどを捉えて、協力体制の構築が叶わなかった原因の一端は原告側にもあるとし、それはパワハラがあっても異ならないとした上で、任天堂が産業医を優先して原告らを直接雇用しないのも合理的だとして、直接雇用をしない理由が不合理ではないとした。

4 大阪高裁での闘いに向けて

本判決において産業医のパワハラを認め、産業医及び任天堂の責任を認めた点は評価できる。しかし、パワハラを認めながら、事実確認、調査、指導をせずとも職場環境配慮義務に違反しないとした点は、パワハラ指針や従前の裁判例にも反する不当なものである。

また、直接雇用拒否について、一般論として上記のように直接雇用に向けた期待による救済の可能性を認めた点は今後活用しうるものである。しかし、そもそも、実質的な採用決定が行われているにもかかわらず紹介予定派遣においては何ら問題がないとし、さらに救済されるケースをかなり限定的に解した点は不当である。また、当てはめにおいても、原告らが業務についての意見を述べただけことを取り上げてパワハラ加害者との関係構築ができなかった責任を被害者に押しつけ、実質的にはハラスメントがあった際に加害者を優先して被害者を切ってもいいとの判断をしており、極めて不当である。

本判決に対して原告1名が控訴し(もう1名は個人的な事情により控訴せず)、闘いの舞台は大阪高裁にうつることとなった。控訴審においても、不当な一審判決を覆すべく原告・弁護団一同奮闘する所存であるので、引き続き皆様のご支援をお願いする次第である。

(弁護団は、豊川義明、中村和雄、岩城穣、佐久間ひろみ、足立敦史各弁護士と筆者)

 

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