民主法律時報

トラックドライバーの過労死事件(損害賠償請求事件)提訴

弁護士 川 村 遼 平

1 はじめに
2023年5月11日、長時間労働等によって50代のトラックドライバーが運送中に心筋梗塞を発症して2019年に死亡したとして、遺族である被災者の母が大阪地裁に提訴しました。被告は、大阪府内に本店を置く運送会社と同社代表取締役です。なお、被告会社は、経済産業省が設計する「健康経営優良法人認定制度」により、2021年度、中小規模法人部門の認定を受けている法人です。

提訴後、大阪地方裁判所司法記者クラブにて記者会見を行い、複数のメディアに報道していただきました。

2 過重労働
この事件で特徴的なのは著しい長時間労働です。労働基準監督署の調査により認定された限度でも、被災者の時間外労働は発症直前1か月で124時間、同2か月で191時間、同3か月で107時間、同4か月で163時間、同5か月で199時間、同6か月で173時間超に上ります。6か月の平均で約160時間もの時間外労働をしていたことになります。

また、勤務間インターバル(1日の仕事を終えてから次の仕事を開始するまでの休息期間)についても、労働基準監督署の調査によると、8時間を下回る日が複数回存在し、短いときには1時間を下回るような状況でした。脳・心臓疾患の労災認定基準は、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務を不規則な勤務の典型例として掲げ、質的に見て高負荷の労働であると評価しています。この点からも、被災者の方が過酷な業務に従事していたことが伝わります。

3 ご遺族のコメント
記者会見では、原告に加え、被災者の弟のコメントを代読しました。その一部をご紹介します(適宜加除修正しています。)。

「息子は実家を離れていましたが、毎月、仕送りをしてくれていました。ゆくゆくは、私を迎えてもらって、一緒に暮らそうという話もしていました。息子に先立たれるとは夢にも思っていませんでしたので、いまもつらい気持ちでいっぱいです。」(原告となった被災者の母)

「私も母も、突然兄がいなくなったことに今も苦しんでいます。会社には、長時間労働のせいで兄の命が失われたことにきちんと向き合い、兄と私たち遺族に対して謝罪してほしいと願っています。」(被災者の弟)

4 改善基準告示の紹介
記者会見では、勤務間インターバル規制を定めた改善基準告示(平成元年労働省告示第7号「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」)について紹介し、労働者の健康のみならず、交通の安全を守る上でも、改善基準告示をより良いものにしていくことや使用者にきちんと守らせていくことが必要であると紹介しました。

改善基準告示に違反すると車両使用停止処分などの行政処分を受けることがあるものの、なかなかそれだけでは長時間労働の解消に至っていないのが実情です。今回のように取り返しのつかない事態が生じる前に、長時間労働を是正して労働者と通行者の安全を確保することが重要だということも記者のみなさんに伝えました。

5 おわりに
昨年来、民主法律協会では幹事会や権利討論集会などいくつかの場面で改善基準告示関連の学習会が開催されており、私自身も参加して勉強する機会がありました。
そこで学習したことも活かしながら、ご遺族の気持ちに少しでも沿うような解決ができるよう最善を尽くしてまいります。

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