民主法律時報

社会保険庁職員の分限免職処分を取り消す!――人事院が初判定

弁護士 喜 田 崇 之

1 はじめに

 社会保険庁の解体・日本年金機構の設立に伴って、旧社会保険庁の職員525名が国家公務員法78条4号に基づき分限免職処分となっていた事件で、人事院は、平成25年4月5日、その内の一人である大島琢己さんに対する分限免職処分を取り消す判定を行った。

 この事件は、全厚生組合員39名が審査請求を行っており、うち大島さんを含めて19名が処分取消の行政訴訟も提訴している。同日、大島さん以外に秋田の3名に対する処分を承認した。残り35名の判定がいつ出されるかは現時点では不明である。なお、人事院の判定で国側が負けた場合、制度上、国側は人事院の判定を争うことができず、処分取消は確定した。
 本稿は、この事件を報告する。大阪弁護団は、伊賀興一弁護士、坂田宗彦弁護士、当職の3名である。

2 事案の概要

 政府は、平成16年頃、社会保険庁の年金福祉施設等への保険料の無駄使いや、いわゆる職員の年金未納情報のぞき見問題で3000名以上もの懲戒処分者が出たこと等の情勢のもと、公的年金制度の安定的な運営と国民の信頼回復を目的とすると称して、社会保険庁を解体する方針を決め、平成19年6月、公的法人である日本年金機構(以下、機構という。)が新たに公的年金業務を行う旨を内容とする日本年金機構法が成立した(かかる社会保険庁解体に何らの合理性がなく、極めて悪質なものであることについては本稿では省略する。)。

 さらに、平成20年7月には、機構の組織体制、職員採用の基本的な考え方等を取りまとめた基本計画を閣議決定した。かかる基本計画のもと、機構への職員採用、厚労省への配置転換、その他の処置等の取組がなされ、平成21年12月31日をもって社会保険庁は廃止され、同日までに配置転換先等がなかった職員525名が分限免職となった。

 大島さんは、機構への採用を希望せず、一貫して厚生労働省内その他の配置転換を希望し続けており、平成21年3月頃、大島さんに対する近畿厚生支局(要するに厚生労働省内の配置転換が認められるかどうか)の面接が行われたが、平成21年6月、配置転換の対象とならないことが伝えられた。その後、大島さんは、ハローワークへ行くように指示されただけで、具体的に何らの配置転換先も示されることなく分限免職処分となったものである。

 大島さんは、平成22年1月8日、分限免職処分に対する審査請求を申し立てた。3年以上にわたる人事院闘争は実に充実したものであったが、その内容は別の機会に譲るとして、判定の内容の詳細な報告を行うこととする。

3 判定の内容

(1) 分限回避努力義務を尽くすことを要請した
 判定は、年金機構法により社保庁が廃止されたことから、法78 条4号「官制の改廃により廃職を生じた場合」に該当するとしたが、同号に基づく分限免職処分を行う場合には、「分限免職回避に向けてできる限りの努力を行うことが求められるものと考えられる。そして、分限免職回避に向けた努力が不十分なまま処分が行われた場合には、当該処分は裁量権を濫用したものとなると解される」と述べ、処分者側に分限回避努力義務があることを認め、かかる回避努力が尽くされない場合には違法となる旨を述べた。

 また、分限回避努力義務の主体についても、処分権者である社会保険庁長官(実際には権限が委譲された貝塚社会保険事務局長)だけでなく、平成20年7月閣議決定において分限免職回避に向けてできる限りの努力を行う旨を決定したこと、公的年金事業の主任大臣であること等を理由として「厚生労働大臣も分限免職回避に向けての努力を行うことが求められる立場にあったものと認められる」と述べた。
 
(2) 分限回避が不十分であることを認定した
 以上を前提として、具体的な分限回避の取組については、①厚生労働省以外の他府省に対する職員の受け入れ要請がなされたが合計9人と限定的なものに留まっていること、②厚生労働省の新規採用の抑制が不十分であり、平成22年4月に新規採用が相当数行われていること、③社保庁解体後の残務整理を行う暫定定員枠と予算が確保されていながらそれらが活用されていないこと等の事実を認定し、各般の取組が不十分であると述べ、少なくとも、厚生労働省内で職員の受入を増加させることができる余地があったことを認めた。

 その上で、受入増加があれば厚生労働省内の配置転換(大島さんの場合には近畿厚生支局への配置転換)となっていた可能性があったと見るべき職員が具体的にどのような者であるかを検討し、「実際に転任候補者として選考された職員と同等以上の評価結果にありながら選考されるに至らなかった職員については、転任させることができたと見るのが相当」と述べた。

 大島さんについては、近畿厚生支局面接時の評価がCの上評価であったところ、Cの中評価でも選考されている者もおり、大島さんは厚労省内で転任させることができたと見るのが相当であり、それにもかかわらず大島さんを分限免職処分としたことは、「人事の公平性・公正性の観点から妥当性を欠き、取り消すことが相当と認められる」と結論付けたものである。

4 判定の意義

(1) 積極的な意義
 まず、本件判定は、国家公務員法78条4号に基づく分限免職事例において、人事院が分限免職を取り消した初めての事例であり、この点で大きな意義がある。この判定の考え方は、当然のことながら地方公務員にも当てはまるものであり、今後、公務員改革等に伴い公務員の分限免職が議論されるときには、国家公務員、地方公務員を問わず、この「大島判定」が一つの歯止めなり、運動の大きな柱になることは間違いない。

 また、判定の中身も、少なくとも厚生労働省も含めて分限免職回避義務を実質的に認定した上で、その取組が不十分だったこと(要するに分限回避努力義務を尽くしていないこと)を認定していることは十分な意義がある。基本計画を閣議決定して進めてきた政府の社保庁解体の取組が全く不十分であったと判断されているのであるから、政府はおおいに反省しなければならない。

 そして、分限回避努力が尽くされていれば少なくとも厚労省内で受入数を増加することが可能であったと認定し、また大島さんに対する分限免職処分も人事の公平性・公正性の観点から妥当性を欠くと明言していること等、十分に意義がある判定である。

(2) 残された課題・疑問点
 他方で、判定は、分限回避努力義務の主体について、政府全体が負うと明言しなかった。本来であれば、閣議決定を根拠としている以上、政府全体が分限回避努力を負うとされなければならないはずであり、この点は疑問が残る。ただ、現在、全国各地で係属している裁判の中で、国側が、分限回避努力を行うべき主体は処分権者たる社会保険庁長官に限られ、厚生労働大臣等の行為は「審理の対象とならない」旨の主張を展開しているのだが、それが完全に覆されたことについては今後の訴訟に十分に意義がある。

 また、判定は、「分限免職回避に向けた努力が不十分なまま処分が行われた場合には、当該処分は裁量権を濫用したものとなると解される」と明言し、その上で、分限回避努力が不十分である旨を認定しているのであるから、理論的には、全ての職員に対する分限免職処分が取り消されなければならないはずである。それにもかかわらず、受入増加があった場合に配置転換の対象となりえた者を、実際に厚労省内に配置転換の対象となった職員と同等以上の面接評価にありながら選考されるに至らなかった職員に限定しており、この点は先に述べた論理と整合しないし、救済の対象を不当に限定している。仮に同等以上の面接評価でなかったとしても分限回避を十分に尽くしていれば配置転換の対象となったはずであったのだから、「同等以上の評価」にあった職員に限定するのは不当である。

 しかも、配置転換の面接評価については、全国的な統一的な基準もなく、社保庁時代の勤務成績も反映されず、  分程度の面接で決まってしまうという極めて杜撰なものであり、かかる成績評価を前提として人事の公平性・公正性を論ずるのは、前提事実を誤っているという他ない。処分が承認された秋田3名の事案では、かかる面接評価が低い(もしくは面接そのものを受けていない)ことから、人事の公平性・公正性は問題ないとされたのだが、この点は裁判で覆せる余地が十分にあると思われる。
 判定は、このような問題点も孕んでいる。

5 今後
 現在、大島さんの早期の職場復帰を目指して、厚労省と交渉中である。大島さんが、希望通りに職場復帰できるように、引き続き全力を尽くす次第である。
 また、この事件は、単に、大島さんが職場に復帰すればよいという問題ではない。政府の取組が不十分だったと判断されたのであるから、少なくとも厚生労働大臣は大島さんに対する処分について謝罪しなければならない。弁護団としては、厚生労働大臣に対し、謝罪をさせるべく今後も取り組む予定である。
 そして、大島さんの他に全国で闘っている38名の組合員の闘争も続いており、大阪弁護団としても引き続き協力していく次第である。

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP