民主法律時報

長時間労働でうつ病に、東大阪市立中学校教諭が提訴

弁護士 江 藤   深

東大阪市立中学校に勤務し、長時間労働により精神障害を発病した40代の男性教諭が、教員への服務監督権限を有する東大阪市、国家賠償法上の費用負担者である大阪府の責任を問う訴訟を3月14日、大阪地裁に提起した。民法協の会員弁護士3人(松丸正・田中俊・江藤深)が原告代理人を務める。

原告は2003年に大学を卒業後、東大阪市、柏原市の中学校で理科担当の教諭として勤務してきた。原告が発病した2021年度、1週間に担当していた授業数は、2、3年生の理科が計20時間、道徳、総合学習が各1時間であった。また3学年の学年主任、進路指導主事、学力向上委員の校務分掌を担ったほか、野球部の主顧問として部員の指導、育成にも携わった。原告によると、学年主任と進路指導主事の兼任は極めて異例の配置であり、他校の教員らに話すと「絶句される」のだという。

このような勤務をこなす中、原告は9月下旬ころより徐々に無気力感、食欲不振等にさいなまれ、校務の処理を進められなくなった。校長には2度にわたり「授業の担当時間数を減らすか、せめて進路指導主事の校務分掌を外してもらわないと限界だ」と訴えたが「君がふんばってくれ。代わりはいない」と回答されるのみで、具体的支援策はなかったという。11月に入ると、息苦しさや抑うつ感も加わり、原告は同月12日、心療内科で「適応障害、抑うつ状態」との診断を受ける。原告は病気休暇(12月~2022年1月)、復職、病気休暇・休職(同年4月~2023年3月)を経て現在、リワークプログラムの下で職場復帰を果たしている。なお、原告の疾病については、2022年7月以降はうつ病との診断がされた。

原告が発病に至る直前期の月当たりの時間外勤務は、最短でも約92時間半、最長であれば173時間超に上る。これは地方公務員災害補償基金の認定基準である「精神疾患等の公務災害の認定について」(2021年3月10日地基補第91号)や、厚生労働省の認定基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2020年5月29日基発0529第1号)において、公務、業務と発病との因果関係が肯定される水準を優に上回る。原告の長時間労働には、このような量的過重性の要素に加え、複数の重要ポストを担当させられるという質的過重性が加わっているのであり、司法の場でも、発病と公務との相当因果関係は疑いようがない。

原告は、国家賠償法1条の責任についての代理監督者であり、かつ安全配慮義務上の責任についての義務者である校長が、原告の常軌を逸した長時間労働を現認しながら、何らの軽減策を講じずに原告の発病を招いたとして、東大阪市及び大阪府に対し、慰謝料300万円等の損害賠償を請求した。

提訴後には、原告自ら大阪司法記者クラブで記者会見に臨み「時代が変化しているのに、教員の働き方は昔と変わらず限界が来ている」と訴えた。またコロナ禍においては「生徒の登校前に学校の窓を開けるように」との呼びかけがされ、自らの登校時間が早まったこと、発病直前、校長と市教委の双方に苦情を申し立てたのに、たらいまわしのような対応をされたことなども明かした。

原告代理人らにとっては、長時間労働によって精神疾患を発病した大阪府立高校の西本武史教諭を原告とする訴訟(府に対する損害賠償命令が一審で確定)に続き、あらためて学校現場での長時間労働を問う試みとなる。提訴前のある報道機関による取材の際、記者が「校長は対策を取るべきだったとして、どこまでのことができただろう」と口にした。この何気ない問いかけに、西本事件や本件が独り現場の管理職や東大阪市、大阪府のみの問題ではなく、国レベルで取り組まれるべき社会的課題であることが表れていると、私たちは思う。

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