民主法律時報

フリーランス保護新法を巡って

弁護士 清 水 亮 宏

1 法案を巡る動き

2023年2月24日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)が閣議決定されました。いわゆるフリーランス保護新法として内閣官房・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・厚生労働省で検討されてきたものです。

2023年4月5日に衆議院内閣委員会で採決されており、参議院内閣委員会、衆参両院で審議される予定です(4月6日時点の情報です。)。

2 法案の概要

法案の内容は、2022年9月に公表された「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」とほぼ同じであり、ポイントは次のとおりです。

(業務委託時の書面交付義務)
事業者がフリーランスに対して業務を委託する際に、業務委託の内容や報酬額等を記載した書面を交付(又は電磁的記録を提供)する。

(中途解約・不更新時の義務)
契約を中途解約・不更新とする際には、原則として30日前までに予告する。フリーランスからの求めに応じて終了理由を開示する。

(募集時の義務)
広く募集を行う際に、虚偽の表示・誤解をさせる表示をしない。募集に応じた者に対して、前記の業務委託時の書面記載事項に準じた事項を明示する。

(報酬の支払いに関する義務)
事業者は、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払う。

(ハラスメント対策等)
ハラスメント被害に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じる。出産・育児・介護との両立のために必要な配慮をする。

(フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為)
フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為として以下のものを定める(下請法において定められていた事業者の禁止事項と共通するものです。)。
①受領拒否、②報酬減額、③返品、④著しく低い報酬額を不当に定める、⑤正当な理由なく指定する物の購入等を強制、⑥自己のために経済上の利益を提供させる、⑦給付内容を変更・やり直させる(①②③⑦については、「フリーランスの責めに帰すべき理由なく」との限定があり)。

(違反があった場合の対応等)
公正取引委員会等は、違反行為について助言、指導、報告徴収、立入検査、勧告、公表、命令をすることができる(命令違反・検査拒否等に対して50万円以下の罰金刑に処する。)。

(相談対応)
国は相談対応等の必要な体制の整備等を行う。

3 救済の一歩にはなるが不十分な点も

実質的に保護法が存在しなかったフリーランスについて、救済につながる法律を制定すること自体は歓迎すべきことであり、フリーランスが声を上げた結果と捉えて良いと思います。

もっとも、法案に「取引適正化」とあるように、あくまで取引の適正化に重点が置かれています。フリーランスが求めている社会保障の拡充には手が付けられていませんし、働き方の実態が労働者であると疑われるにもかかわらず、契約形態が請負・委任等にされている「偽装雇用」「偽装フリーランス」の問題についても対策が講じられていません。近年の課題であるプラットフォーム事業者への規制もありません。集団的交渉の実現に向けた議論もありません。フリーランスの保護としては不十分と言わざるを得ないでしょう。国会での議論に引き続き注視し、継続して意見を発していくことが重要です。

(なお、2023年4月5日に衆議院内閣委員会で採決された際には、インボイスの登録をしないフリーランスに不利益取扱いをしないこと等を含む18項目の付帯決議がなされました。)

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