民主法律時報

2024年権利討論集会 分科会報告

第1分科会
裁判・労働委員会闘争の課題を展望する

 弁護士 原野 早知子
弁護士 片桐 誠二郎

 本年の第1分科会は、「裁判・労働委員会闘争の課題を展望する」と題して開催しました。分科会参加者は42名でした。

 第1部は「不当労働行為に立ち向かうために―経験から教訓を学ぼう」をテーマとし、建交労大阪合同支部の松澤伸樹書記長から、主に、①労働委員会の在り方、②労働委員会を活用する上での労働組合と労働者との関係、③労働組合の機能という3点についてお話を聞きました。

昨今大多数を占めている駆け込み寺的案件では団体交渉での解決が難しく、また、労働委員会の審理が長期間にわたること等により労働者の闘争意識が持続しないという現状の問題や、企業別組合の枠を超えて労働組合の機能を強めることが今後の課題であることを参加者との間で共有することができました。

また、そのような苦労がありながらも、労働組合の団結権という優位性を踏まえて、困っている方の相談は選別せずに受けるという松澤さんの姿勢には見習うべきものがありました。さらに、実際に相談を受けたことのみで解決した事例があることも参加者の今後の組合活動の糧になったと思います。

 第2部は元裁判官、元裁判所職員の方をゲストとして、「裁判所はどうなっている?―司法と労働裁判の現在」と題し、パネルディスカッションを行いました。裁判所(裁判官や職員)が労働組合などの争議支援運動をどのように見ているか、署名や傍聴には影響があるのか、人証採否や尋問時間の制限の背景事情、民事裁判IT化の現状、主張立証活動への裁判所からの注文など、普段はなかなか聞けない話(しかも事件活動にも参考になる)を聞くことができました。

大阪地裁の現状について、西川大史弁護士が、労働者が敗訴した判決が大半であること、人証の採否や期日指定など訴訟指揮に問題があること、和解時に必ず口外禁止条項を入れようとすること等の問題点を報告しました。今後、裁判府労委委員会で継続的に検討を行うことを確認しました。

 

第2分科会
働く人の平等を!なくそう非正規差別!

弁護士 吉村 友香

第2分科会では、「働く人の平等を!なくそう非正規差別!」をテーマに、今年も均等待遇を実現するための取り組みについて報告や議論を行いました。そして、今年は、おそらく「第2分科会初!」の試みとなるグループワークを行いました。参加者は、32名で、全体会で記念講演をいただいた黒澤幸一さんにも参加いただきました。

1 取り組み報告

各組合から、非正規差別の実態についての問題提起と均等待遇実現に向けた取組みについて報告がありました。

前半の報告では、郵政ユニオンから、20条裁判で勝ち取った成果とこれを足がかりにした職場内外での取り組みについて報告をいただき、20条裁判が格差是正の大きな動きを作ったことを改めて確認することができました。福祉保育労からは、非正規職員が増大している現場でもたらされる福祉の質の低下が深刻であるとの問題提起がされ、非正規雇用の問題は一非正規労働者の労働問題にとどまらず社会全体の問題であるということを改めて感じました。全港湾名古屋支部からは、労働局から会社に対し、何らかの指導を出させることで、均等待遇及び直接雇用を勝ち取る取り組みを行っているとの報告があり、均等待遇実現に向けたアプローチの仕方には裁判だけではなく様々な方法があるのだと知ることができ大変勉強になりました。

後半の報告では、大陽液送大田貨物事件、京都放送労働組合の「非正規をゼロにする」取組み、大阪大学非常勤講師雇止め争議、スキマバイト「タイミー(Timee)」に関する相談事例、会計年度任用職員制度の実態などについて報告があり、盛りだくさんな企画になりました。

2 グループワーク

グループワークでは、参加者は5班に分かれて、非正規社員Xさんの相談内容と会社の回答内容を読んだ上で、均等均衡待遇を実現するために組合としては会社とどのように交渉を行っていくかを議論しました。グループワークは初めての試みで、上手くいくのか不安でしたが、いざ始まると、参加者からは次から次に意見や質問が出され、大変な盛り上がりで、議論し足りないくらいでした。多くの参加者から、格差是正を実現するためには「まずは正社員化を要求すべき!」との意見が出てきたことには感心するとともに、正社員化なくして格差是正さらに雇用と生活の安定はないということを改めて確認することができました。

参加者全員から発言してもらえ、組合から様々な意見を聞くことができる取り組みで、非常に有意義な企画でした。

非正規差別の状況を変えるのは、当事者の声と運動しかなく、当事者をいかに組織するかということが大事であるということを改めて感じることができた分科会でした。

 

第3分科会
いのちと健康を守る

弁護士 吉留 慧

 第3分科会は、「いのちと健康を守る」をメインテーマに行いました。上出恭子弁護士の司会のもと、最初に、参加者全員が簡単に自己紹介をしてから、報告と議論に移りました。

 まず、松丸正弁護士に、本年に労働時間の上限規制の適用猶予が撤廃される医師の長時間労働の問題について、現状の問題点や適用されることになる上限規制の内容・その問題点などについて詳細な解説をしていただきました。

次に、波多野進弁護士に甲南医療センター過労自死事件について、これまでの経過や現状等について報告をいただきました。被災者だけでなく医師全体の超長時間労働の実態やその一因に「生存者バイアス」があることなどについても解説いただきました。

同事件については、被災者の母親である高島淳子さんにも報告をいただきました。高島さんからは生前の被災者の様子や、自死に至るまでの経過、被災者の自死後ご遺族がどのような思いで提訴に至ったかなどについて、ご遺族の方の生の声を聞かせていただきました。過労死の悲惨さについて改めて実感する機会となりました。

続いて、2023年に改正された精神障害の労災認定基準について、立野嘉英先生に解説していただきました。立野弁護士には、改正認定基準の内容とその問題点について非常にわかりやすくご説明いただきました。ご説明のなかでは実際の労災申請における注意点など実務的なお話もしていただき、理解が深まりました。

最後に、宝塚歌劇団団員死亡事件について、井上耕史弁護士にご報告いただきました。通常の事件では接することのない宝塚歌劇団の団員の生活実態(舞台の出演・稽古だけでない、関連する様々な業務実態)や、組織の特殊性についてご報告いただき、大変興味深い報告でした。

 第3分科会参加者は合計45名(内訳:会場27名、Zoom18名)で、法曹関係者や労働組合員、過労死事件の当事者を中心に、学生やマスコミ関係者など幅広く大勢の方々にご参加をいただきました。過労死を考える家族の会の方や支援者の方からもお話をいただき、活発な議論ができたのではないかと思います。参加者全員が、いのちと健康を守るための取組みを継続していこうとの決意を新たにして、分科会を終えました。

 

第4分科会
「雇用によらない働き方」トラブル解決の手引き

弁護士 西念 京佑

第4分科会は、「雇用によらない働き方」トラブル解決の手引きをテーマとしました。

冒頭に、東京からお越し頂いた平井康太弁護士に、フリーランスの労働者性についてご報告頂きました。平井弁護士は、配達員で構成されるウーバーイーツユニオンの弁護団として、令和4年10月に、東京都労委において配達員の労組法上の労働者性を認める団交応諾命令等を勝ち取られています。新技術を活用した特徴的な新しい働き方であるプラットフォームワーカーの事例について、実態を丁寧に示すことで労働者性を認めさせ、団交による環境改善を実現しようとする先駆的取組でした。併せてAmazon配達員の労災認定の事案も報告頂き、フリーランスと位置づけられていても、実態に応じた保護を求めていく取組として、大変参考になるものでした。

自交総連大阪地連の庭和田裕之書記長からは、ライドシェア解禁を巡る情勢と問題点について、力強いご報告を頂きました。解禁によって1番問題となるのは交通弱者です。タクシー事業者は、規制の下で、入念な安全確保や料金を維持し、乗車を拒まない地域公共交通機関としての役割を果たしています。これが、ライドシェアにとって代わられた場合、乗車拒否や高い料金設定等によって交通弱者の移動手段が失われてしまうと強調されました。

清水亮宏弁護士からは昨年4月に成立したフリーランス新法の解説を、この間の独禁法研究会による各事件の取組として、島袋博之弁護士から損保代理店ポイント制問題につき260名以上の代理店を申告者として公正取引委員会に独禁法違反の申告をしたことの報告がありました。東大阪セブンイレブンの松本実敏さんからは、裁判の状況や自身の問題提起が他のコンビニオーナーらに与えた影響について、ECCジュニアHTユニオンからは、組合員へのアンケート実施等の取組が報告され、最後は木村義和愛知大学教授から総括コメントを頂き、終了となりました。

午前の記念講演に引き続き、団結すること、横の繋がりを持つことが解決の重要な糸口となることが再確認された分科会となりました。

参加者は38名でした。

 

第5分科会
大阪の未来のために私たちが今できることを考えよう

弁護士 西川 翔大

第5分科会では、「大阪の未来のために私たちが今できることを考えよう」というテーマで開催しました。

 最初に、「杉並区における市民運動に学ぶ」というテーマで、杉並区長の岸本聡子事務所の内田聖子さんにご講演いただきました。過去20年間負け続けた杉並区長選挙で、原水爆禁止署名運動の発祥の地として住民運動の盛んな土地柄も背景に、地道な草の根の運動と「対話」で、現状への不安や不満の言語化を行なって政治的な要求に繋げ、生活者の声を政策に繋げることで、僅か187票差という劇的な勝利を得ることができた道筋をご報告いただきました。また、新自由主義により民営化が進む中で、ベルリン等の再公営化の例を踏まえて、公共の再生や地方自治・民主主義の活性化に繋げる動きをご紹介いただきました。

2 次に、「維新が進めた『改革』とは何だったのか~公務・教育・医療の現場から~」と題して大阪の各現場からご報告いただきました。

(1) 公務の現場からは大阪府職労の小松康則さんから、大阪府の職員が過酷な長時間労働のもと、自由に意見が言えない職場の現状をご報告いただきました。
(2) 教育の現場からは、大教組の山下弘毅さんから大阪の教育問題として学校の統廃合の問題点や教職員の過酷な働き方の現状等について、大私教の藤田隆介さんからは私立学校の無償化による問題点と取組みについて、金弁護士からは朝鮮学校の補助金不交付の問題点と取組みについてご報告いただきました。
(3) 医療の現場からは大阪民医連の粕谷光史さんからコロナ禍の医療崩壊の状況や現在の課題についてご報告いただいました。紙幅の関係で詳細は民主法律に譲りますが、いずれも喫緊かつ深刻な問題であると感じました。

3 さらに、「カジノや万博は大阪に必要なのか?」と題してカジノに反対する大阪連絡会事務局長の荒田功さんから、万博開催はカジノIR計画の隠れ蓑であり、膨張する建設費用、建設の遅れ、安全性の課題など問題だらけの万博を直ちに中止し、被害を最小限に抑えることが重要であることをご報告いただきました。

4 各報告を踏まえて、最後に会場の参加者で意見交換を行いました。維新政治による現状の課題や不満を政治的な要求に繋げ、選挙に勝利していくために、杉並区に学び、これからも地道な草の根の運動と対話が重要であることを再確認することができました。

参加者は35名でした。

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