民主法律時報

日本労働弁護団第56回全国総会報告

弁護士 増 田   尚

 2012年11月9日・10日の両日にわたり、福島・穴原温泉の旅館・吉川屋にて、日本労働弁護団の総会が開催されました。
冒頭、宮里邦雄会長のあいさつ、来賓あいさつに続き、水口洋介幹事長より、今年度の活動方針案の報告がありました。

水口幹事長は、労働契約法の改正により法定された有期労働契約規制について、入り口規制が見送られるなど要求した水準には及ばなかったものの、雇い止め規制や無期転換については、おおいに活用すべきと訴えました。特に、無期転換について、5年になる前に首切りが横行するとの懸念が言われるが、そのような雇い止めは、改正法の趣旨に反するもので無効であり、便乗解雇を許さない事前の闘争で反撃をすべきであると指摘しました。他方で、使用者側が無期転換後の労働条件に関する「別段の定め」(改正労働契約法18条)に関し、労働条件切り下げのための就業規則変更・制定の準備をすすめており、これを許さない運動を労働組合とともに進めることが重要であると述べました。また、いわゆる不更新条項についても、契約の反復更新の可能性を排除するもので不合理であるとする明石書店事件・東京地裁平成21年12月21日判決などを活用し、法廷内外で突破を図ることを呼びかけました。また、不合理な差別の禁止(改正労働契約法20条)についても、国会答弁で私法的効力があると明言されていることから、差別是正のとりくみを労働組合との共同で進めることを訴えました。その上で、来年3月7日に行う全国いっせいホットラインを有期労働者の権利を守り向上させる活動と位置づけ、マニュアルを整備するとともに、実態調査や集団提訴なども視野に入れた運動を提起されました。
このほか、パート法改正、民法(債権法)改正、労働審判・労働裁判改革や、JAL不当判決などの問題を取り上げ、公務員の労働問題に関して、大阪市における職員・職員組合への攻撃は全国的な課題であると位置づけ、各支部でも取り上げることを提起しました。

次に、原発訴訟を数多く手がける海渡雄一弁護士による原発労働者の実態を告発する講演が行われました。海渡弁護士は、東京電力福島第一原子力発電所における過酷事故において、下請・孫請の労働者に被爆が集中していること、多重下請構造の中でピンハネが横行し、「線量隠し」の押しつけなど、下請労働者の生命の安全が脅かされている実態を明らかにしました。偽りの収束宣言で、安全性を強調して再稼働を推し進めようとしながら、実際には、その危険を最も立場の弱い労働者に押しつけている欺瞞的・非人道的な政府・電力資本の横暴に対する怒りを新たにすることができました。

続いて、古川景一弁護士から、各地で取り組みが進む公契約条例についての講演がありました。古川弁護士は、野田市などでのご自身の経験も踏まえつつ、公契約条例による労務報酬の適正化を通じて、労働者の生活保障を図ることができることはもちろん、事業者にとっても、ダンピング防止効果など、その営業を守る効果があることを指摘されました。また、大阪府でも黒田革新府政の当時に、不当労働行為と認定された企業について入札参加停止等の処置を講ずることを可能にしたことを紹介し(大阪府入札参加停止要綱)、労働分野における不正義をはたらく企業への効果的な制裁として機能していると指摘されました。公契約条例をめぐっては、日弁連でのとりくみや、札幌、神奈川県(川崎、相模原、厚木)、京都からも発言がなされました。

2日目は、大阪市問題についての集中討論がありました。在間秀和弁護士から、大阪市をめぐる労使紛争についての概略の報告があり、労使関係条例において便宜供与を一律全面禁止することと、組合事務所の使用許可処分や労働委員会による原状回復命令との関係について、城塚健之弁護士や宮里会長などからも、示唆に富んだ議論が展開されました。
また、労働組合に対する攻撃について、ストライキや組合ホームページの記述をめぐって損害賠償請求が提起されていることが紹介され、前代未聞の「ストライキ禁止仮処分」を受けた当該のユニオンみえ鈴鹿さくら病院分会からも報告があり、労働基本権に対する無理解や、労働組合活動への偏見を有する裁判官をどう説得し、理解させるかについて議論がなされました。
最後に、役員改選があり、今期をもって宮里会長が勇退され、新たに鵜飼良昭弁護士が会長に選任されました。
雇用をめぐる情勢はなお厳しく、使用者側の横暴な規制緩和要求が強まりつつある中、労働者の権利を守り、その地位の向上にとりくむ法律家の役割の重要性が増していることを実感できた総会でした。

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