弁護士 南 部 秀一郎
現在会期中である通常国会では、労働者派遣法の改正法案が提出されています。この法案は、安倍内閣の矢継ぎ早の労働規制緩和のひとつとして出されているものです。この緩和はいずれも、労働者の権利を脅かすもので、危険なものですが、議論も乏しく拙速に法案化されたものです。労働者派遣法の改正も、常用代替防止という派遣制度の大前提が放逐され、危険性が明確でありつつも、内容について、深く分析されることはありませんでした。そこで、労働法研究会では、労働者派遣法改正を許さないという目標実現のため、「労働者派遣法改正法案」を検討しました。当日は、ゴールデンウイーク初日の午前中という時間にも関わらず、大阪弁護士会館の920号会議室が満員になるほど、多くの会員の出席をいただきました。
まず、研究会の最初では、中西基弁護士から、「労働者派遣法の制定経過」と題して、報告がなされました。そこでは、もともと違法である労働者供給事業を労働者派遣として解禁することから、派遣労働者の保護はもとより、労働者全体の雇用の安定と労働条件の維持、向上が損なわれることのないように配慮する必要があると、当時の労働省の審議会で報告がなされていることが、強調されました。
続いて、派遣法改正について議論してきた「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書について、河村学弁護士から報告がありました。この報告については、今年度の権利報告集会の第2分科会の報告でも、河村弁護士の詳しい分析がありますが、派遣契約に何らの縛りがない状況で、派遣元義務強化や、派遣元での派遣社員の無期化という、実態無視の実効性のない内容で、派遣制度が使いやすくなり常用代替がすすむことに対して、何らの意味もないとの批判がされました。
続いて、中西基弁護士から、法案について、労働政策審議会の建議と、実際に出された法案との違いを説明しつつ、法案の分析がされました。この建議については、その最後で、労働者側委員から、派遣元事業主が会議で多くの発言を行ったことについて、会議での議論のあり方の再検討を求める意見が出ているという異例のものです。建議では、派遣労働の期間制限の維持や、均等待遇についての踏み込んだ内容を求める労働者側委員の意見、逆に手続き違反の場合の労働契約申し込みみなし制度等の見直しを求める使用者側委員の意見が、対立したまま両論併記されています。
更に、この建議に基づいて提出されたはずの、改正法案においては、建議になかった内容が盛り込まれていると、中西弁護士は報告しました。まず、建議で登録型派遣・製造業派遣の派遣社員についての雇用安定措置が盛り込まれるとされているものが、改正法案にはありません。また、建議では派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限定することが原則とされていますが、改正法案では、これも抜け落ちています。また、期間終了後の派遣社員の雇用安定措置について、派遣元から派遣先への直接雇用の依頼という措置が、建議には示されていましたが、法案には欠けています。
加えて、期間制限について、個人単位にして、期間終了後の雇用安定措置が、派遣元に丸投げで不十分なままで、更に規制潜脱も派遣先の社内の構成を変えるだけで容易という制度設計になっています。まさに一生派遣社員であることを制度が後押ししているかの様相です。中西弁護士の報告に改めて参加者は派遣法改正法案の実情を知らされました。
最後に、報告を受けて参加者の討論が行われました。龍谷大学の脇田滋教授からは、今回の派遣法改正により、派遣業者が労働組合に代わり、外部労働市場の代表者として、会社と対峙する立場になることへの危惧が示されました。また、他の参加者からは、派遣法改正に対する運動への意見の提起もされました。
このニュースが出る2014年5月下旬時点では、国会は他の法案の審議等で時間不足となり、今会期中の派遣法改正は行われない可能性が高くなっています。しかし、秋の臨時国会では、また改正法案の審議が行われ、それに対抗する運動が必要です。民主法律協会では、今後とも派遣法改正ひいては、安倍内閣の狙う労働規制緩和を阻止すべく、様々な活動を行っていく所存です。