民主法律時報

民法協 第67回定期総会のご報告

事務局長・弁護士 西 川 大 史

1 はじめに

2022年8月27日、第67回定期総会を開催しました。コロナが感染拡大する中でしたが、会場人数を制限するなど感染対策を徹底し、昨年同様、エル・おおさかとZoom併用で開催しました。参加者は計約100名(会場58名、オンライン約40名)でした。

冒頭、菅義人副会長から、労働法制の改悪、憲法改悪、カジノの強行などが企てられる中、労働者や市民の権利を守るために、研究者、弁護士、労働者が団結して闘うことが重要であるとの開会挨拶がありました。

2 萬井会長の記念講演

今年の総会では、萬井隆令会長から、「社会常識」と労働法解釈の在り方について―実態の把握、分析、法理論化―とのテーマで記念講演をいただきました。

萬井先生からは、大日本印刷採用内定取消事件、関西電力人権裁判、国鉄分割民営化採用拒否事件などの具体的事件を例として、萬井先生が現実を把握する拠り所は「社会常識」であったとお話しいただきました。また、「社会通念」は自然にできあがるものではなく、労働者の権利についていえば、労働運動の中で労働者が権利主張をして、それが社会的に受け入れられて「社会通念」として定着していくものだとして、権利獲得のための運動と理論の重要性をあらためて強調されました。緻密な理論ももちろん大切ですが、それに加えて、多くの人に納得される「社会常識」をもっと推し進めて運動の支えにすることの必要性などを学びました。

萬井先生は、ご自身の法解釈論が裁判所に受け入れられなかったとしても、けっして悲観することはありません。それは、萬井先生が、労働者の権利闘争を促し、労働者を励ますための法理論を構築するために、「社会常識」により現実を把握し、社会通念や条理に基づいて分析し法理論化するという立場で解釈論の構築を続けてこられたからであり、労働者の権利意識を喚起できる法解釈論や、権利闘争の発展により将来的に多数の理解を得られる法律論の追及が大切であると語られました。

最後に、萬井先生からは、弁護士に対する期待として、従来の判例や多数説に依拠するだけではなく、労働者の権利発展につながる説得的な主張を心掛け、新たな判例を創り出すべく裁判所に迫る気概が必要であるとの問題提起をいただきました。労働事件では裁判官に労働者の苦悩や「社会常識」がなかなか通じず、悔しい思いをすることは少なくありませんが、労働者の権利発展のために努力を惜しまず奮闘することの大切さをあらためて痛感しました。

3 議事・討論

2022年度の活動報告と2023年度の活動方針案の提案があり、それを受けて、①憲法平和、安倍元首相の国葬、②維新政治、③コロナと医療、④労働問題について討論しました。

まず①については、愛須勝也弁護士から、安倍元首相の国葬の最大の狙いはアベ政治を礼賛し、安倍氏の悲願であった憲法改正の実現であるとして、国葬反対・憲法改悪阻止に向けての問題提起がありました。また、大教組からも、大阪でも吹田や富田林で市教委が教育現場に半旗掲揚を要請して弔意を強制していたことなどの報告がありました。

②については、カジノに反対する大阪連絡会の事務局次長の中山直和さんから、カジノはギャンブル依存症によって成り立つ危険なものであり、経済の起爆剤となるものではなくバブル期のベイエリア開発の失敗の繰り返しだとして、国に認可させない運動強化の訴えがありました。

③については、大阪医労連の前原嘉人書記長から、医療崩壊の現場の実態や、救急搬送困難事案とは医療が確保されず生存権が保障されないことを意味すること、医療従事者は国民の命と暮らしや地域医療を守るために懸命に働いていることなどの報告がありました。

④については、教員の長時間労働について安全配慮義務違反を認めた大阪地裁判決(田中俊弁護士)、東大阪のセブン-イレブン事件についての大阪地裁の不当判決(原告の松本実敏さん)、近畿大学における不当労働行為との闘い(近畿大学教職員組合の藤巻和宏書記長)、労働者派遣法 条の6の適用を否定した日検事件の不当判決(全港湾名古屋支部の原告の上條清隆さん)、大阪食肉市場労働組合の闘い(大阪市食肉市場労組の副執行委員長)について、それぞれ特別報告をいただきました。

4 本多賞

2019年から始まった本多賞では、今年は、①東リ事件、②フジ住宅ヘイトハラスメント事件、③守口市学童保育指導員雇止め事件を表彰し、それぞれスピーチをいただきました。

本多賞の各スピーチについては、民主法律時報10月号に詳しく掲載する予定です。

5 決算予算、特別決議、役員の選出

その後、決算予算、会計監査についての報告があり、決算の承認、予算の採択がなされました。また、「安倍元首相の国葬に抗議し中止を求める決議」が採択されました。

今年度は、役員の大幅な入れ替わりがありました。2008年から 年にわたって会長として民法協活動を引っ張っていただきました萬井隆令会長、2004年から 年もの間副会長として民法協活動を支えていただきました副会長の大江洋一弁護士が今期をもって退任されることになりました。長きにわたり民法協活動を牽引していただき、ありがとうございました。今後とも民法協活動へのご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。また、幹事長の岩城穣弁護士、事務局次長の高橋早苗弁護士、事務局の西田陽子弁護士、川村遼平弁護士も退任となりました。

新役員には、豊川義明弁護士が会長に就任され、副会長には研究者の中島正雄先生、緒方桂子先生、城塚健之弁護士、鎌田幸夫弁護士、幹事長には村田浩治弁護士が就任されました。また、事務局次長に冨田真平弁護士、事務局に青木克也弁護士、吉留慧弁護士が新たに加わりました。

6 さいごに

2023年度も多くの課題が山積みです。コロナの収束がいまだ見通すことができず、雇用や生活への不安は高まるばかりです。政府に今までの政策を転換させて、労働者本位の労働法制を実現させるための取組みを強化することも不可欠です。憲法改悪阻止に向けた取組みや、府民の命と暮らしを守るための府政への転換なども重要な課題です。

フレッシュな新体制のもと、労働者の権利や市民の暮らしを守るために今後もいっそう尽力していきます。

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