書籍の紹介

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宮里邦雄・川人博・井上章夫著『就活前に読む 会社の現実とワークルール』旬報社刊

推薦者・弁護士 河 村 武 信

 
 この書物を贈られ、サーッと目次に目を通す。こんな書物が欲しかったのだ。就活前に読んでほしいとの著者の願いはよくわかる。ただ、中・高生の教科書を読んで驚くべきは、労働法や労働組合などに関する記述がいかに少なく、且つ、社会教育の場でも労働者が労働法や労働契約、労働組合の基本的な知識や理解をすすめる機会は殆んど無いと言っていい状況にある。
 就活に際し、学生は充分な情報を得た上で、就職先を選択しているのだろうか。働く者の権利や労働条件に関するルール(ワークルール)の基本知識をもって、就活に入っているのだろうか。
 著者らはこのような実情や問題意識をもって、この書物を著している。だから有名企業で何が起こっているか。働く者の身を守るすべとしてのワークルールをリアルに、且つ平明に解き明かしている。
 日本労働弁護団を担っていると言っていい3人の弁護士の方々は、働く者の立場に立ちきって、その弁護活動をすすめてこられた。現実を、実際をよく知っているから、指摘されているポイントはまさに正鵠を射ている。読みながら、何度もうなづく。そうなんだ!!
 人間らしい働き方を実現すること。それには学習しなければならず、また、労働組合は新しい組合員を獲得し、教育しなければならない。この書は、新書版。150頁程度で読みやすく、値も987円と手頃。ガイダンスとして好著である。ご一読を乞う。
 注文は 旬報社 Tel 03-3943-9911 Fax 03-3943-8396
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中村和雄・脇田滋 共著 『「非正規」をなくす方法』


評者 萬井 隆令

1 『「非正規」をなくす方法』とは大胆な書名である。その書名を世に問うことのできる人は多くはあるまいが、本書はまさにそれをなし得る、実務と運動に密着しながら研究を進める脇田氏と理論家肌の実務家・中村弁護士による協同著作である。

2 本書冒頭に紹介される派遣と偽装請負の二つの実例は、企業が労働法上の「使用者」としての責任を免れようとして労働者にいかに酷い仕打ちをしているか、「非正規」の実態を鮮烈に描き出している。特に、派遣のシングルマザーの例は、派遣労働者に対する、考え得る差別・いじめのフルコースのようである。 
 偽装請負や派遣と並んで(というよりも、それらも有期雇用であることが多いのだが)非正規の大部分を占める有期雇用労働者は何人いるのか、政府統計を分析して、実体に近い数を指摘している。2か月、3か月といった短期の契約の更新を繰り返して5年も8年も働いている労働者は「非正規」ではないのか。そのような労働者たちが期間満了という理由で雇止めされることがあり得ることを考えれば、答えは明瞭なはずである。ところが、政府は短期契約の更新により1年以上継続して雇用されていれば、「常用」労働者だといい、そのような曖昧な表現を使うことによって期間の定めがある労働契約の根本的な問題から目を背け、不安定就業形態であることを直視しない。本書は、そのような態度から適切な有期雇用労働者政策が生まれるわけがないことを鋭く指摘する。

3 本書は扱う範囲も視野も広い。簡潔に要点を抑えた戦後労働法の歴史や労働運動史も紹介されている。
 パート問題にしても、企業内の労務政策だけでなく、通常の労働者に比べ労働時間が75%以下の短い労働者は社会保険に加入させなくてもよいという内部通達、年収130万円までは社会保険で被扶養者と認定する制度、年収103万円までは非課税とする所得税法、公的年金制度上の第3号被保険者に老齢基礎年金の権利保障などによって、他方で均等待遇原則を等閑にしたことと相まって、年収の低い被扶養者のまま就労する道に誘導する制度が形成されたことも鋭く指摘する。
 また、派遣の合法化は女性を派遣労働者化することにより差別的雇用管理を隠蔽することや企業別組合の弱点を突いて労働運動全体を弱体化させるものでもあったと指摘する。 最低賃金制を論じるときに、外国人研修生問題や個人請負や家内労働、さらには下請代金支払遅延防止法にも言及し、賃金収入の確保を広い視野から論じている。
 そういった視点を維持しながら、有期雇用、パート、派遣といった典型的な非正規労働者や請負契約により独立自営業者という形で就業している実質的な「労働者」についての問題だけではなく、最低賃金制、均等待遇の問題から官製ワーキング・プア問題についてそれぞれ一章を宛てた後、公契約条例問題、社会保障制度にまで及び、さらにデンマークと韓国の労働情勢から示唆を得ようとする。
 そういった丹念な分析を踏まえて、著者らは、近年の不安定雇用労働者の急増という「雇用社会の激変ともいえる状況は、政府が経済界の要望に応じて、政策・立法を通じて意識的に生み出してきた」と喝破する。個々の法律問題に取組む際にも常に念頭に置くべきことであろう。

4 本書は非正規と対比して、正規雇用を「あるべき雇用の形態」としつつ、それを①直接雇用、②期間の定めのない契約による安定雇用、③生活に必要な時間を確保できる労働時間制、④人間らしい生活を営み得る相当な賃金という4つの要件を満たした雇用と位置づけている。
 ただ、非正規が増える一方で、正規雇用労働者の25%程度は週60時間労働という過労死予備軍的な働き方をしているといった問題指摘があるように、従来、非正規(不安定就業形態)としては①、②を指し、そうでなければ、一応、正規雇用労働者だと見てきた。①、②だけでなく③、④をも要件とする労働とはいわゆるディーセント・ワークを指すものと理解されてきた。とすると、本書は実質的には『ディーセント・ワークを実現する方法』を説こうとしたものと考えられる。「羊頭狗肉」というが、本書は、看板以上に内容があるから「狗頭羊肉」とでもいうべきか。
 労働組合に対する鋭い批判もあるが、期待や提言も多い。ともあれ、日本の労働者の労働条件の底上げ、権利向上のために、大いに読まれ、利用されることが期待される。

  新日本出版社 2011年5月30日初版 定価1600円+税

西谷 敏 著『人権としてのディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)』

評者・弁護士  大江  洋一

西谷さんが一般向けの本を出版したことはこれまであまり知らない。一般にはこのような書物は肩肘を張らず、悪くいえばやや程度を落として書かれるものだろうという先入観を抱きつつ読み始めたが、読み進むにつれ、その予想は見事に外れた。本書の内容は専門書・体系書に全くひけをとらないものであり、むしろ学者の議論の冗長(!?)な部分をそぎ落とし、鮮明な問題意識をもとにそのエキスの部分を凝縮した密度の濃いものであった。
冒頭の第1章で、まず労働が人にとってどのような意味を持つのかというところから説き起こす。マルクスやフーコーなどを引用しつつ、「それは苦役なのか、生き甲斐なのか」と問いかけている。そして「労働には本来労働者に喜びを与える側面と苦痛を与える側面とが含まれており、条件次第でいずれかの側面がより強く意識される」としたうえで、「法と政策の課題は、労働ができるだけ多くの労働者に、できるだけ多くの喜びと生きがいを与えるような客観的な条件を作り上げることである」と結論付けている。
そう言えば、若いころ、労働法研究会の機会に西谷さんが「本来労働は人の喜びであるはずだ」と口にしていたことがあった。それ以後も、『労働法における個人と集団』や『規制が支える自己決定』などの労作をはじめとしてこのテーゼが一貫して追求されており、労働法学者としての根本的な問題意識がここにあったことをあらためて知った。
それとともに、この時期にこの書物にかける西谷さんの意気込みが痛いほどよくわかった(と勝手に思った)。
しかし、その西谷さんの思いは果たして今の社会において活かされているのだろうか。
本書を読み進む中で、私には、西谷さんの怒り、嘆きが痛いほど感じられた。西谷さんの議論の立て方は、いつも心憎いほど行き届いたもので、緻密で考え抜いた議論を展開し、異なる見解も公平に正面から取り上げたうえで、ディーセント(研究社の英和辞書では「穏当な、慎みのある、上品な」という意味が先ず記されている)な立場から丁寧な反論を加えるというもので、それ故にこそ立場を超えて幅広く受け入れられ、労働法学会をリードしてきたと言えるのだが、本書においてもそのディーセントな姿勢は貫かれていることはいうまでもないものの、その言葉の背後に、この現状への激しい怒りの焔を痛いほど感じたのである。
ディーセント・ワークの権利を保障した憲法から説き起こし、丹念に資料を拾いつつ、それが国と社会に求められる責務であったのに、特に平成期不況以後の状況は、戦後65年の歴史の中でも特別に複雑で困難な状況下に置かれており、今ほど憲法制定以来の課題であったディーセント・ワークが重要な意味を持つ時期はない、と断じている。
そのうえで、ディーセント・ワークの条件、という視点から、安定的な雇用と公正かつ適正な処遇という整理をしつつ、労働法の全体像についての西谷説を展開している。
ここでは、これまで学者として自らに課してきた法を取っ払って、思うところを自由に飛翔させているように感じられる。それぞれ実に内容豊かで心を打つ議論である。たとえば労働と人とモノの関係を論じる箇所である。労働を商品と捉えたことは、実は歴史的には進歩的側面からの議論であり、そのこと自体はまだ今日の日本では現実にも重要であることを押さえつつ、労働者は「労働は売っているが魂までは売っていない」ことを絶えず明確化することが不可欠だと指摘する。思考の幅と奥行きがあり、バランスが取れているのだ。
この本論部分は最新の判例や議論を踏まえており、コンパクトな労働法の教科書として充分に通用するものである。最近は労働事件もなく不勉強であったわが身にとって、いい勉強をさせてもらった。
読み終えると、本書は、西谷さんがこれまでの半生を捧げてきた労働法を切り口にして、学者というより一人の人間として、人生の総決算という熱い思いが込められたものだとの思いが一層強まった。たまたまご本人にお会いした時、「白鳥の歌ですね」と言ったら「俺を殺す気か」と返されたが、西谷さんの怒りと嘆きと、ともすれば諦めにも近い思いも漂わせつつ、しかしなおこの時代を生きざるを得ない若い人たちに、未来を切り拓く期待と希望を込めて手渡すものと言えば言いすぎであろうか。

出版社 旬報社
発行日 2011年1月20日
定 価 2100円
四六判上製/357頁

西谷敏・根本到編 『労働契約と法』

 

 出版社 旬報社
 定価4,200円
 発行日 2010年12月28日
 A5判上製/362頁