書籍の紹介

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《書籍紹介》 『日本で働く 外国人労働者の視点から』伊藤泰郎・崔博憲 編書

弁護士 田中  俊

 本書は、人類学や社会学、アジアやラテンアメリカ、アフリカの地域研究などを専門とする研究者に、マイグラント研究会の事務局長として同会の運営を担っている四方久寛弁護士が加わった11人による共同研究の成果である。本書が発刊されたのは、2019年4月に、日本の外国人受け入れ政策の大きな転換とも言える「特定技能」が新たな在留資格として創設されたタイミングでの出版である。結果的に、コロナ禍以前の状況の総括とも言える充実した内容である。

本書では、第1部で「近年の外国人労働者をめぐる状況」が、統計的に、また入管法制の変遷、食料品製造業と建設業における実態を中心に論じられ、第2部では、外国人労働者のなかで最も大きな割合を占める「技能実習生」について、ベトナム人労働者とタイ人労働者の事例について紹介されている。第3部では「日系人」について触れ、滋賀県近江市甲津畑町にて地域社会と共生しながら運営がなされているブラジル人学校「ラチーノ学院」、広島で牡蠣の養殖に従事する日系3世のフィリピン人一家の事例を挙げている。第4部「さらなる周縁へ」では、外国人労働者が登場する前には、誰がどのようにして働いていたのかを輸送園芸(大都市消費市場への出荷を目的としてなされる地方での生鮮野菜の商業的生産)を題材に解明する、またガーナ、ナイジェリア、カメルーンなど在日アフリカ人の労働実態についての報告がなされている。

本書の最大の特徴は、受け入れ側である日本の状況の分析のみならず、外国人労働者の視点から、外国人労働者の問題を明らかにしようとしていることである、彼らが、なぜ日本を選び、日本に行くことになったのか、背景にある所属国の経済事情を明らかにし、来日の動機付けを明らかにしていることである。

2019年10月時点で、約166万人の外国人が日本国内で働いており、その大半を占めているのが日系人や技能実習生、留学生、日本人の配偶者をもつ女性たちである。国別に見ると、従前は、中国人、ブラジル人やフィリピン人が外国人労働者の主流を占めていたが、現在、主流はベトナム人に移行しており(全体の24.2%)、昨今飛躍的に増大したのがネパール人(5.5%)である。彼らの来日の究極の目的は、お金を稼ぐことに尽きる。にもかかわらず、受け入れる側の日本では、高齢化社会、少子化による深刻なまでの働き手の不足という事情があるのにもかかわらず、いまだ移民政策を頑なに拒否し、技能実習生を技能の習得、国際貢献という本来の制度の趣旨から離れて、もっぱら低賃金の労働力として彼ら/彼女らを利用してきた。しかも低賃金や時間外労働、労災隠しなど劣悪な労働環境のもとで、在留期間限定で家族滞在を認めないという建付である。

外国人も馬鹿ではない。このままでは、今後は、海外に出稼ぎに行く外国人労働者も、労働環境が劣悪で、外国人を管理の対象としてしか見ない日本でなく、海外からの移住労働者にとって環境と条件の良い他の外国での労働を選択することになることは目に見えている。

初めて日本政府が国内の人手不足を認め実態に即した外国人労働者の受け入れ政策として期待されて新設された在留資格である「特定技能」も期待は裏切られ、現在のところ申請数は少ない。今後は、日本が外国人の労働力に依拠するのであれば、移民の拒否など排外主義的政策を改め、外国人を管理の客体ではなく一人の人間として捉え、劣悪な労働環境を是正し、労働分野だけでなく子どもの教育、社会保障等についても充実させ、外国人労働者が日本で働くことに魅力を覚えるような社会にしていくことが重要であると改めて認識させられた。

松籟社 2021年3月25日発行
定価2860円

《書籍紹介》野口啓暁 編著 西谷敏 監修 『モデル条文でつくる 就業規則 作成マニュアル』

弁護士 足立 敦史

1 本書の特徴

就業規則は、使用者が統一的な労務管理のために作成されるものであるため、その内容は、使用者の利益に寄ったものになりがちです。他方、労働者の権利や利益に寄りすぎても、使用者は採用してくれません。そこで、本書は、就業規則の策定方法につき、労使の垣根を越えて、双方に有益なモデル条項を提示し解説することで、労働者の権利・利益を実現しながらも使用者、特に中小企業経営者に実際に採用してもらえる就業規則のモデルを目指していることが最大の特徴です。

そのような特徴を実現するために、著者の方々は、2014年春に神戸就業規則研究会を立ち上げて、労働者側弁護士、使用者側弁護士、労使双方を扱う弁護士ら5名、社会保険労務士ら7名と労働問題に携わる多様な実務家が集まり、6年間もの間、議論を尽くされました。

また、西谷敏大阪市立大学名誉教授が、同会の顧問を務められて「人間の尊厳」と「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の理念を尊重する観点から、本書を監修されました。

本書は、長期間をかけて作成されながらも、働き方改革、新型コロナ禍といった直近の社会情勢にまで対応しており、コロナ禍での休業対応やテレワーク規程を備えていることも大きな特徴です。

働き方改革への対応の一例として、年休の時季指定義務化に関する規定では、社員の事前申出による時季変更を認める工夫をするなど、労使のバランスを考慮したモデル規定が提案されています。

テレワーク規程では、厚労省のテレワークガイドラインが詳述していない、テレワークを実施するための具体的な手続きを規定し、テレワーク特有の「中抜け時間」(休憩時間以外で業務から離れる時間)の取り扱い、勤務内外の区別がつきにくく結果的に長時間勤務となってしまうリスクに対応する規定、在宅勤務手当の在り方等にも配慮されています。

具体的なモデル規程を見ていただきたいところですが、それは是非本書を手に取ってご覧ください。

2 書籍紹介の経緯

本書の編著者は、神戸の野口法律事務所の野口啓暁弁護士(元・北大阪総合法律事務所所属)です。私が野口法律事務所にて弁護修習中にお声がけいただき、神戸就業規則研究会にオブザーバーとして参加しました。私が参加した時は、本書の無期転換の規定を見直し作業中で、参加者の先生方が忌憚なく活発に議論されており、それを野口弁護士がその場でモデル条項にまとめ上げておられた過程を見ているため、本書の内容が質を伴うことを体感しております。

また、本書の著者には、民法協とも協力関係にある兵庫民法協の現会員で前事務局の今西雄介弁護士と現事務局の大田悠記弁護士が参加されています。
そんなご縁もあってご紹介させていただきます。

本書のモデル規程を多くの中小企業経営者に採用してもらい、労働者の働きやすい環境を整えることで、ディーセント・ワークを実現できるよう、是非手に取っていただき、多くの方にご紹介いただきたく存じます。

旬報社2020年 月9日発刊
A5版 576頁
定価 6000円+税

《書籍紹介》木下秀雄・吉永純・嶋田佳広 編 『判例 生活保護 わかる解説と判決全データ』

弁護士 喜田 崇之

1 本書の特徴

本書は、生活保護の実務上の論点につき、体系的に整理し、論点の解説が判例の紹介とともになされています。生活保護判例研究の集大成ともいえる一冊です。

本書の著者・編者は、社会保障問題に精力的に携わってこられた学者・弁護士ら(木下秀雄先生、嶋田佳広先生、高木佳世子先生、舟木浩先生、村田悠輔先生、吉永純先生)です。本書の「はじめに」でも記載されているのですが(また、著者・編者のラインナップから見てもお判りいただけますが)、単に実務的な知識を網羅しているだけでなく、実務的な問題を批判的に整理している点も特徴的です。

生活保護行政の細かい点は、いわゆる内部通達で規定されていますが、必ずしもその通達等が適法とは限りません。当該通達の解釈をめぐって法的論争となることもあって、その意味で判例の調査は不可欠です。この点、本書は、実に詳細に、裁判例が整理されて掲載されていて、実務的に非常に役に立ちます。とりわけ、生活保護行政の実務と対峙するときに行政側の通達の壁が大きく立ちはだかっていると感じることがありますが、それを突破することを考えたときに、批判的な観点で実務上の論点が整理されてまとめられていることは、大変助かります。

本書で整理されている生活保護に関する判例は、多くの弁護士・当事者らが、目的意識をもって取り組んできたものですが、それらの判例が網羅的に解説されているので、現在の判例の到達点や、残されている課題をすぐに理解することができます。

2 本書は民法協会員必携の書籍である

生活保護分野に関する知識は、単に生活保護行政に取り組む弁護士だけでなく、全ての民法協会員に求められる知識です。

例えば、非正規労働者の相談を聞くとき等、生活保護の利用が常に選択肢として頭になければならない(特に、コロナ渦下においては、生活保護の役割は非常に重要です)場面がありますが、本書では、生活保護の補足性に関する論点(稼働能力の活用・収入認定等)も網羅的に整理されているので、生活保護の利用に関する基本的な知識を習得することも可能です。

また、特に弁護士にとって、生活保護を利用されている方が逮捕・勾留された場合に生活保護はどうなるのかといった論点や、保護費の返還(法63条)・不正受給(法78条)に関する論点は、いずれも、刑事事件や破産事件等を処理する上で、間違うことのできない必須知識ですが、本書では、そのあたりの論点も、判例を交えて整理されています。

3 まとめ

以上のことから、本書は必携だと思います。著者・編者も、おそらく大変な労力をかけてまとめられたと思いますので、ぜひ、ご購入いただければと思います。

 

B5判 272頁
定価 5,500円+税
発行 山吹書店 2020年8月31日
発売 JRC

《書籍紹介》脇田滋 編著 『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』

弁護士 清水 亮宏

 脇田滋先生の編著『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』が学習の友社から出版されました。「ディスガイズド・エンプロイメント」は、直訳すると「偽装雇用」であり、現在話題になっている「名ばかり個人事業主」の問題を指す言葉です。

本書は、「名ばかり事業主」の問題に関する12の現場からの報告(第1部)と、脇田先生の論考「『雇用によらない働き方』に国際基準で立ち向かう」(第2部)の2部構成となっています。現場報告・論考ともに読み応えのある内容であることは間違いありませんが、現場報告から理論的検討・提言に繋げられている点で、脇田先生ならではの書籍であると感じました。

第1部の現場報告では、料理配達(ウーバーイーツ)・布団販売・電気計器工事・ホテル支配人・俳優など、様々な業種における「名ばかり個人事業主」問題について、12もの団体からの現場報告があります。ほとんどは労働組合からの報告ですが、NPOや協同組合からの報告もあり、大変興味深く読ませていただきました。いずれの報告も、名ばかり個人事業主の現状を切実に訴える内容でした。

不合理な報酬の計算方法、報酬の一方的減額(計算方法の変更)、一方的な経費負担、拘束時間に見合わない低報酬、報酬の不安定さ、事故等に対する不十分な補償など、個人事業主が直面する問題が具体的事例として挙げられており、改めて「雇用によらない働き方」の負の側面について考えさせられました。一方で、具体的な指揮命令を受けており裁量がなかったり、時間的・場所的な拘束を受けているなど、働き方の実態が労働者であるにもかかわらず、労働基準法等の労働関係法が適用されず(適用されない扱いを受け)、労働基準監督署に相談しても労働者でないことを理由にまともに対応してもらえないなど、「名ばかり」であるが故の問題も浮き彫りにされています。12もの報告を通じて、個人事業主としても労働者としても保護されない、法のはざまに置かれた労働者たちの実態が明らかにされています。

一方で、これに対抗するための労働組合・NPO・協同組合の取組みも多々報告されています。ウーバーイーツユニオン、ヤマハ英語講師ユニオン、ヨギーインストラクターユニオンなど、「雇用によらない働き方」が社会問題になる中で、自己の働き方に疑問を持ち、労働組合を結成して使用者と交渉を始めている労働組合の報告もあり、当事者たちがどのような思いで立ち上がったのか、どのような取組みを経て改善に繋げることができたのかを知ることができます。労働組合等を通じたアクションの重要性を再認識させられます。

第2部は、これらの現場報告を受けた脇田先生の論考です。日本での「労働者」概念を巡る議論の状況や、「雇用によらない働き方」が拡大した経緯などについて整理された上で、ILOの勧告を紹介され、脱法行為を許さない実態に即した「労働者」性の判断枠組みを取り入れるよう提言されています。また、ウーバーに代表されるプラットフォーム労働の拡大や構造的問題について整理され、諸外国において条例や法律での規制が広がっていることも指摘されています。アメリカでのプラットフォーム労働者の闘いや、韓国における「特殊雇用従事者」(日本での名ばかり個人事業主)の闘いについても触れられており、この問題を考える上で必要な要素が詰まっています。

脇田先生が最後に指摘されている「労働者が広く団結して、その集団的活動を通じて初めて、問題の正しく根本的な解決に通ずる道を切り開くことができる」という点については、強く共感します。この本をきっかけに、名ばかり個人事業主の団結・連帯が広がることを期待します。

「名ばかり事業主」問題は、「雇用によらない働き方」の一つの側面として知っておかなければならない問題です。日々労働相談を受ける労働組合や弁護士にはぜひ手に取っていただきたい一冊です。

※民法協にて割引きでお求めいた だけます。

《書籍紹介》 西谷敏『労働法[第3版]』(日本評論社2020年5月)

弁護士 城塚 健之

 西谷敏先生(以下、著者)が『労働法[第3版]』を上梓された。第2版(2013年)の刊行から7年。第2版と比べて約80頁増と、ボリュームも大幅に増えた。

これは、一つには、「働き方改革」関連法などの新たな労働立法のラッシュに対応するためである。この点、著者は、「労働法分野で悪しき意味での「法化」(legalization)が進んでいる」と批判しつつ、「労使自治」の機能不全をふまえれば国家法はますます重要な役割を果たさざるをえないのであり、問題は「国民が理解しにくい法令の氾濫」にあるとされる(第3版はしがき)。

もう一つは、働き方の変化、とりわけ、個人請負、フリーランサー、クラウドワーカーなどの「雇用によらない働き方」への対応である。これをどう保護するかは労働法上の大きな課題であるが、そこでは「労働者」概念の再検討が求められる。この点、著者は、「人的従属性」より「経済的従属性」を強調する立場を鮮明にしたうえで、第2版よりも明確に、労基法上の解雇制限、賃金保障などに関する規定の私法的側面は広く適用されるべきとの見解を示されている。

さらに、第2版以後のあまたの労働裁判の到達点と課題も紹介されている。著者の自己決定論に深くかかわる山梨信金事件最高裁判決や、大阪でもたたかわれている労契法 条裁判への言及が目を引くが、小さな論点についてもまんべんなく目配りがされている。これは全国の労働弁護士からさまざまな相談を受け、ともに議論をする中で理論的解明にあたってこられた著者の長年の研究活動の成果でもある。巻末の判例索引も第2版の36頁から第3版の41頁へと増えた。

ちなみに、著者は、第2版と第3版の間に『労働法の基礎構造』(法律文化社 2016年)を著された。これは、「歴史的に形成されてきた労働法の基礎構造を解明し、……基本的な価値と原則を確認すること……によって「改革」論を測る座標軸を確立する」ために執筆されたものであり(同書「はしがき」より)、本書でも随所でそれが引用されている。その具体的な紹介は私の手に余るが、何が基本的な価値であり原則であるかを押さえておくことは、些末な解釈論の迷路にとらわれないためにも重要である。

これだけボリュームが増え、クオリティもさらに上がったのに、第2版と比べて定価が100円しかアップしていない。これは日本評論社の意気込みを示すものであろう。著者と出版社の意気に感じ、ぜひ手近な本棚に常備していただきたいものである。

なお、『労働法の基礎構造』についていえば、2016年の民法協 周年記念行事の際の「お茶会」での発案による連載「弁護士が読む西谷敏『労働法の基礎構造』」(労旬1879+1880号~1892号)、そして、これに著者が応答された「『労働法の基礎構造』再論―弁護士諸氏による書評その他を読んで」(上・下)(労旬1897号・1898号)が懐かしく思い出される。それは、どうしても場当たり的になりがちな弁護士にとって、物事を少し深く考えるための貴重な機会となった。この大胆な企画を快く受け止めてくれた著者と「労働法律旬報」編集長の古賀一志氏に、改めて謝辞をお伝えするとともに、こちらの方も、とりわけ若い方には読んでいただきたく思う。
【日本評論社のサイト】https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8288.html

※民法協で少しお安くお求めいただけます。

《書籍紹介》『日韓比較労働法3 韓国労働法の展開』(旬報社)を読んで

弁護士 中村 和雄
(京都/市民共同法律事務所)

 民法協の会員であり民法協がもっとも頼りとする労働法学者の一人である脇田滋さんが編者の一人である『日韓比較労働法3 韓国労働法の展開』が旬報社から出版されました。この本は、2010年に始まった日韓の労働法研究者らの共同研究「日韓労働法フォーラム」での報告内容をまとめたものの第3弾です。2014年第7回以降のフォーラムの研究成果報告がまとめられています。フォーラムは毎回テーマを設定して日韓の報告が行われているのですが、本書では読者に理解しやすいように各回のテーマを並び替えています。第1章「朴政権下の労働市場改革と労働法の課題」、第2章「文政権下の労働法改革」、第3章「雇用平等法の現状と課題」、第4章「労働者派遣法の分析」、第5章「労働時間規制の現状と課題」、第6章「個別労働紛争の解決」となっています。

本書は全部で16節から構成されており、うち2節が脇田さんの報告、うち4節が韓国研究者の報告を脇田さんが翻訳したものです。ご承知のとおり、脇田さんはわが国の労働法学者の中で最も韓国労働法と労働運動を理解している学者です。1985年にわが国で派遣法が成立しました。多くの労働法学者がその有用性を指摘する中で、派遣法の適用対象は年々拡大し、もはや例外とは言えない存在になってしまいました。脇田さんは、成立前から派遣という働き方の危険性を指摘し、一貫して派遣の導入・拡大に反対してきました。韓国労働界がこうした脇田さんの研究や活動をネットで知り韓国での講演を依頼したことが、日韓の労働法研究交流の契機となっています。

韓国労働法も、他の法分野と同様に以前は日本法を見本としていました。しかし、その後欧州の進んだ法制を積極的に取り入れて制度改革をはかるなど、労働者の立場から見てわが国より進んだ法制が随所に見られます。労働時間規制や非正規の正規化などは大変参考になります。わが国と韓国の労使関係を始めとする労働環境はかなり近似しています。これまでわが国の労働法や労働運動の研究・交流はヨーロッパに偏重していましたが、韓国の法制度や労働運動はわが国の制度や運動の在り方を考えるにあたって、極めて学ぶことが多いのです。多くの皆さんが、本書をお読み頂き、わが国の制度改革や運動の在り方を考える参考にして頂ければ幸いです。そして、民法協でもさらに韓国との交流を深めていきましょう。

旬報社
2019年11月30日 発行
A5・300頁
定価 5000円+税

《書籍紹介》 石川元也弁護士の『創意』を編集して ―― 人権弁護士の先駆者、刑事弁護の創造

弁護士 岩田 研二郎

石川元也先生(元自由法曹団団長、元日弁連刑事法制委員会委員長、修習9期、88歳)が、2019年12月、ERCJ選書(刑事・少年司法研究センター)のシリーズとして、『創意――事実と道理に即して・刑事弁護六〇年余』日本評論社を出版されました。

私は斉藤豊治先生(甲南大学名誉教授、大阪弁護士会)とともにインタビューを担当し、石川先生の刑事事件に関する弁護活動と刑事法改革の取り組みをたどりました。

石川先生は、弁護士登録された昭和32年以降、戦後の新刑事訴訟法を憲法に基づき実質化していく実践活動に尽力され、証拠開示をはじめ数々の新判例を引き出されました。(松川事件、吹田事件、宮原操車場事件、全逓大阪中郵事件、大阪学芸大学事件、白山丸事件、徴税トラの巻事件、国労尼崎事件、大阪証券労組事件、都島民商事件など「無罪判決一覧表」に32の事件が掲載されています)

この本は、単なる思い出話ではなく、なぜその判例が獲得できたか、前著の「ともに世界を頒つ」で指摘された「裁判官との共感」を作り出すために、世論への働きかけとともに「事実と道理により裁判官を説得できる」ことを信ずるという大衆的裁判闘争の教訓も改めて指摘されています。

石川先生が若いときに、刑事弁護人のありかたの教えを受けた毛利与一弁護士(1901年生まれ、1982年1月30日没、人民戦線事件、第2次大本教事件、松川事件、砂川事件などの公安事件で弁護活動を行う。東京裁判では平沼騏一郎の補佐弁護人。1959年大阪弁護士会会長)のことも紹介されています。

私が印象に残ったのは、毛利弁護士が戦後の東京裁判に弁護人として参加して、アメリカ人弁護士の法廷での活気ある裁判官との口頭での弁論をみて、これが真の弁護人だと感得した言葉です。

毛利先生は「私の法廷態度を変化させたものは何よりも東京裁判の経験です。法廷は生き物で、闘争の場であることをつくづく経験しました。私が東京裁判で学んできたのは、弁護士としての『闘魂』ですね。『強情』と呼んでもいい。特定の弁護士じゃなくて、全体の法廷の雰囲気ですね。私はひそかに詠嘆したんです。軍事裁判にしてこれだけ活発にやれるのやと。法廷では裁判所はいばっていましたけれども弁護士も平気で裁判所に喰ってかかる。軍事法廷でも、アメリカの弁護士は、裁判長の発言抑制に対して、「今の裁判所の決定は、『アンデユー・インタフエアレンスだ(不当な干渉だ)』」と抗議する。裁判長が「取消せ」と弁護士に迫るが、弁護士は「取り消さん」、裁判官「今日は法廷から帰れ」(退廷命令だ)それで弁護士は帰るが、次の日ものこのこ出てくる。さすがの平沼騏一郎も「あの強情さは、尊いものだね、君」。「強情」という言葉を使いよった。「あの強情さはほしいな、弁護士に。」。これは、冷水三斗をあびせかけられた気持ちだった。あの時、私も、もう一つやらんけりゃいかんかった。私は「これを大阪へもって帰って、大阪の法廷でやってやるぞ」と、私の瞬発力の好きな性格と合わせて、私流にケースバイケースに間に合わせていった。『これが新刑訴だ、おれは東京裁判で見てきたんだ』」と。

この場面から、「たたかう弁護士」毛利与一が誕生した。このとき、毛利先生46歳でした。

このように先輩から学ばれた石川先生は、日野町再審事件でも今なお現役弁護団で活動されています。また私が今も活動をともにする日弁連刑事法制委員会では、本来証拠隠滅のおそれが低下するはずの起訴後勾留が何のチェックもなく自動的に更新される制度を批判し、「起訴後勾留の再審査制度」の導入を提唱されています。

石川先生が学生時代にメーデー事件で逮捕されたときの上田誠吉弁護士(元自由法曹団団長)の接見メモなども資料として掲載され、みなさんがご存じない石川元也青年の生い立ちもたどることができます。

石川先生の活動を振り返ると、第一に、人権と民主主義の擁護という戦後の弁護士の社会的活動の先頭を行かれた弁護士であるとともに、第二に、新刑事訴訟法を憲法に基づき実質化していく実践活動に尽力し数々の新判例を引き出した傑出した先駆者といえます。

また、個人の力だけではなく、弁護士会や自由法曹団という組織をリードして、社会的に大きな力をつくっていく活動に注力されたことがさらに大きな成果を生み出したことを実感します。

石川先生は、弁護団でも委員会でも理念的な論争には加わることなく、常に具体的な事実に則して、筋を通しながら、実践的な意見を述べられ、落ち着きどころを探られる。結論や先が早く見えすぎるという声も聞くが、歳をとられるにつれて、じっと聞いておられることも多くなったように思います。

石川先生が先輩から何を「継承」したか、そのうえに立って柔軟な発想で、何を「創意工夫」して、新しい判例を勝ち取ったかなどを考えながらの編集作業でした。

(岩田研二郎までお申し込みいただければ、送料込みで1600円で販売します。きづがわ共同法律事務所tel:06-6633-7621 fax:06-6633-0494)

岩波ブックレット 最低賃金』ご購読のお願い

弁護士 中村 和雄

 岩波書店より、日弁連貧困本部編集による岩波ブックレット『最低賃金』(580円+税)が発売されました。https://www.iwanami.co.jp/book/b482302.html

貧困の解消と格差の是正のために今取り組むべき重要政策が「最低賃金」の大幅引き上げです。そして、若者の地方からの流出をくい止め、地方経済を活性化するためには、地域別最低賃金の東京と地方との格差を是正していくことが不可欠です。そのために「全国一律最低賃金」制度の導入が考えられます。

今、世界の流れは「全国一律最低賃金」です。アメリカやブラジルなど国土のきわめて広い地域を除けば、ほとんどの国は最低賃金は全国共通です。わが国でも全国一律最低賃金をもとめる運動が高まっています。自民党の中にも「最低賃金の全国一元化推進議員連盟」が設置され活発に活動しています。全国一律最賃制を実現するためには、中小企業への支援策の充実が決定的に重要です。政府は最低賃金引き上げに伴う中小企業の賃金引き上げの支援策として、業務改善助成金制度を創設しました。しかし、支給要件とされる「生産性向上のための設備投資」などが達成困難であるために利用企業は少なく、全国で年間200件程度だけです。韓国では雇用者 人未満の事業主に対し、労災保険料、国民年金等の事業者負担部分を80%以上減額する制度を採用しています。韓国では、最低賃金の大幅な引上げによって月給15万円未満の若者が大幅に減少しました。

本書では「最低賃金」制度とはどのようなものなのか、なぜ、今、最低賃金の引き上げが必要なのか、世界各国の最低賃金制度はどうなっているのか、最低賃金引き上げのためには何が必要なのか、とりわけ中小零細企業に対してどのような支援策を講ずべきなのか、最低賃金引き上げや全国一律の実現のための運動はどうすれば良いのか、など最低賃金に関する重要な課題について、簡潔でわかりやすい本にしたつもりです。
多くの皆さんが購入頂き、最低賃金の大幅引き上げと全国一律最低賃金制度実現の運動にご理解・ご協力・ご支援をいただければ幸いです。

※民法協で少しお安くお買い求めいただけます。

《書籍紹介》岩波ブックレット 『過労死110番  働かせ方を問い続けて30年』森岡孝二・大阪過労死問題連絡会 編

弁護士 上出 恭子

1988年4月に全国にさきがけて大阪で初めて実施をされた、弁護士による過労死に関する無料相談「過労死110番」は、過労死救済に向けて大きな取組みとなりました。2018年4月に大阪過労死問題連絡会が行った「過労死110番30周年記念シンポジウム」の内容を一部加筆してまとめたものを、この度、岩波ブックレットとして発刊しました。

本ブックレット発行の発案者である、大阪過労死問題連絡会の会長であった森岡孝二先生は2018年8月1日に急逝しました。亡くなる当日も、本書の執筆を担当された方々に「なんとか実現をしたい」とブックレット発行に向けての強い思いが現れたメールを送られていました。折から国会で審議されていた働き方改革関連法案が出される中、その内容は過労死防止の流れに逆行するということへの切実な危機感が森岡先生を突き動かしていたように思われます。

そのような経緯でしたので、亡くなる直前まで森岡先生が手がけたこのブックレットの発行は、森岡先生から我々に託された「過労死をなくすための大切な取組」、いわば森岡先生からの遺言だと受け止めて、作業を進めてきました。

シンポジウムは、(1)大阪過労死問題連絡会森岡孝二会長(当時)による冒頭の挨拶、(2)過労死110番活動に当初から関わってきた松丸正弁護士による30年の歩みを振り返る基調報告、(3)過労死110番が1988年開始をした当時に製作された、「NHKドキュメンタリー『過労死・妻は告発する』のディレクターの織田柳太郎氏による講演、(4)3人の過労死・過労自殺遺族の報告、そして、岩城穣弁護士の司会によるこの3名の遺族によるリレートークで構成をされています。

過労死救済の30年の歩みが、過労死遺族の肉声とともにコンパクトに整理をされていることに加えて、織田さんのご講演の中では、過労死による被災者は、命を失った先にあった未来だけでなく、「亡くなった人、倒れた人、そしてその家族が死の前に、倒れる前にすでに人間らしい生き方、豊かな暮らしを奪われている」という過労死問題の本質が指摘されています。

過労死遺族が中心となって立法制定に向けて活動をした結果、2014年6月に過労死等防止対策推進法(通称「過労死防止法」)が、衆参両院の全会一致で可決され、その後、啓発事業等が進められています。しかし、その後も、過労死・過労自殺が減る兆しは見えません。そのような中、改めて過労死をなくすために、どういった取り組みが真に必要となるのか。

民法協にて、定価520円(消費税別途)のところ、税込み500円「ワンコイン」というお手頃価格で販売をしていますので、過労死防止の具体策を考える出発点として、是非、お買い求め下さい。

《書籍紹介》豊川義明著『労働における事実と法 ――基本権と法解釈の転回』(日本評論社)をどう読むか

弁護士 鎌田 幸夫

1 本書の特徴はどこにあるか

本書は、実務家の執筆した数少ない理論書である。学者の理論書との違いは、著者が自ら担当した数多くの事件を素材に、実務家の視点から労働法の基礎理論、解釈論、権利運動の課題を幅広く展開しているところにある。本書は、2つの特徴がある。

第1は、時代を反映した裁判闘争史という性格を持つことである。判決の字面だけでなく、どのような時代背景のもとに、当事者のどのような攻防を経て判決が導かれたのか、また、判決は雇用社会にどのような影響を与えたのかという観点も含めて洞察しなければ、その判決を本当に理解したとものはいえない。関電人権訴訟、東亜ペイント事件、朝日放送事件、松下PDP事件、ビクター・サービスエンジニアリング事件など著名な最高裁判決の意義と克服すべき課題、方向性を筆者は明瞭に提示している。事件を担当した著者だけに説得力がある。

第2は、根源的な視点から最高裁判例や通説に批判的なアプローチを展開していることである。実務家の書物は、判例、通説を整理し、事件をどう処理するか、最高裁判決があれば、その射程距離や考慮要素の分析を中心とするものが多い。目の前の裁判に勝つためには必要なことである。しかし、手軽なマニュアル本に頼らず、最高裁判決の前に思考停止にならず、基礎理論から自らの頭で批判的なアプローチを試みてこそ、個々の実務家の力量は上がり、トータルとして我が国の裁判理論、労働運動の進歩があると著者は考えているのである。

本書が取り上げるテーマは個別的労働関係から集団的労働関係法まで多岐にわたる。個々のテーマに立ち入る余裕はないので、本書のバックボーンである①基本権と法解釈の転回、②裁判における事実と法という根本問題に絞って本書の問うていることを紹介し、若干の私見を述べることをお許しいただきたい。

2 「基本権と法解釈の転回」とは何か

著者は基本権を「類的存在としての人間社会がよき社会の実現に向けて」「自らも他者とその集団である社会も、相互に歴史的に確認し合ってきたもの」とし、その土台に自由・平等・連帯という法原理と「人間の尊厳」という根本理念を据える。そして「自己決定論」は、他者との関係において価値ある内容を含むことはないと批判し、人間の尊厳を指導理念とした「対等共同決定論」を提示する。また、著者は、労働基本権を団交権中心に狭く捉える立場(菅野説等)を批判し、企業内の正規労働組合中心主義から脱却し、企業・産業の労働者全体の労働条件向上を実現する団体交渉権確立を説く。

そして、労働者の地位・待遇に影響を及ぼす地位にある産業別使用者団体も「当該要求に影響を及ぼすことができる地位にある」として団交応諾義務を肯定する。この見解は、労組法上の使用者概念の支配力説の発想に立って、産別使用者団体にまで使用者概念を拡張すると同時に義務的団交事項の概念も広げる試みである。本書のいう「基本権と法解釈の転回」とは、企業内組合の団交を中心とする企業内労使関係を、労働者(労働組合)集団と産業別使用者集団の共同対等決定の労使関係に180度転回させて、それに相応しい労働基本権を再構築しようとする試みとして理解できる。

わが国の企業内組合の組織率と役割の低下、存在意義の希薄化と、団体行動権(労働三権)を企業の所有権、施設管理権の劣位におくような最高裁判例の流れに鑑みると、著者の大胆な問題提起、構想は共感できる。もっとも、著者の法解釈が幅広く現実の基盤を持つためには、それに見合う産業別の運動の拡大と労働組合運動の活性化による労使関係の大転換が不可欠のように思われる。これは労働組合運動に向けられた提起でもある。

なお、西谷敏大阪市立大学名誉教授の自己決定論は、裸の自己決定ではなく、国家法や労働協約などの規制に支えられた自己決定を説く。また、自己のみに関わることに限らず自己にも他者にも関わることの決定も肯定し、連帯を媒介する労働者の関与権として労働基本権を構成する。他者とのかかわりのなかで真の自己決定を目指すものといえ、著者の立場と方向性は共通するようにも思える。

3 「労働における事実と法」の関係とは何か

著者は、法が第一に存在し、続いて事実があり、事実に対して法が適用されるという

法的三段論法をとらず、「法と事実の相互媒介」による法の選択・確定と事実の選択・確定を提起する。その意味するところは、当該事案において、複数の法規範のなかから適切なものを選択し、同時に多数の事実のなかから意味のあるものを選び出し、両者を照合し、適切な事実の認定・評価とそれに適する法の適用、解釈、さらには法創造をするということであろうか。そうであれば、大切なことは、事案の実態と正義に適った結論に導くために、裁判官の「法的三段論法」に我々としてどのように働きかけるのか、ということに帰着するのではないか。著者は、適用すべき法律の選択や権利義務の存否の確定にあたり、法曹としての経験と人間性を背景にした直感力を支える法解釈の基本原則に「人間の尊厳」があるとする。わかりやすく言えば、差別され、解雇された労働者の人格権や生存権、ひいては人間の尊厳が侵害されている実態を自ら感じ取り、それを具体的な事実として余すことなく裁判官に伝え、その良心を動かして、労働者を救済するための法適用、法解釈さらには法創造に至らせるということである。例えば、思想信条を理由とする人権無視の孤立化策による労働者の人格権侵害の実態を法廷に出しつくすことで「職場における自由な人間関係を形成する自由」が認められた関電人権訴訟、使用者の法適用を回避する脱法目的を許さず、法の趣旨と実態を重視した労働者概念が認められたビクター・サービスエンジニアリング事件などにおける闘いは、そのような文脈で理解できる。

4 さいごに

本書はこれから裁判闘争や労働組合運動を担う若い弁護士、組合活動家にとって是非一読すべき書といえる。本書と格闘することで、今後の裁判闘争や労働組合運動の糧にしていただきたい。

日本評論社2019年9月発行
A5版364頁
定価 5800円+税