民主法律時報

《書籍紹介》手軽に読める労働法入門書  北出 茂 著『労働NPOの事件簿~仕事をめぐる「名もなき人たち」のたたかい』

弁護士 西 川 翔 大

本書は、著者の北出茂さんが常任理事兼相談員を務める、NPO法人働き方ASU―NETの労働相談を題材として、小説(物語)形式で進められていきます。

働く皆さんにとって誰でも起こりうる労働問題。「解雇された」、「給料が支払われない」、「内定を取り消された」「有給休暇を使わせてもらえない」など、自分には関係ないと思っていた労働問題が突然起こったとき、どのように対処したらよいのでしょうか。

一般の方からすれば、「解雇で仕事がなくなり生活ができなくなってしまうのではないか」といった不安や「会社に要求すればかえって嫌がらせにあうのではないか」といった不安に押しつぶされそうになり、ひとりで会社と闘うことは難しいのではないかと思います。

本書では、「泣き寝入りしようかと思ったけれども、労働者として、一人の人間としてこのままでは悔しい。けどどうすればよいか分からない」といった労働者の相談に親身になって耳を傾け、解決までの道筋を模索し、労働者と一緒になって闘う労働NPOの姿を描きながら、解決までに労働者がとりうる手段や労働問題に関する法律・ルールが分かりやすく説明されています。

労働者には会社に内容証明郵便を送ること、団体交渉を行うこと、労働局のあっせんを申請すること、労働審判や訴訟を行うことなど闘うための手段がいくつかあります。ですが、実際に使うとなると何をどのように使えばよいか分かりません。本書では、問題と向き合う労働者目線で、どのような法律が適用されて、どのような手段を採ることができるのかが具体的に解説され「これなら自分のケースにも使うことができる」と思わせてくれます。また、描かれる登場人物のキャラクターも個性的で面白く、テンポよく物語が進んでいくため、あっという間に読み進めていってしまいます。

本書は、常に労働者に寄り添い、温かく労働者の相談に耳を傾け、多くの労働問題を解決に導いた経験をもつ著者だからこそ描くことの出来るリアリティと身近な描写が数多く含まれています。これまで全く労働問題に関わることがなく、「職場でどうしたらいいか分からない」「まさか自分がこうなるなんて」と悩んでいる方にはぜひ手にとって読んでいただきたい一冊です。

花伝社 2023年2月刊
定価 1700円+税

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP