弁護士 城塚 健之
西谷敏先生(以下、著者)が『労働法[第3版]』を上梓された。第2版(2013年)の刊行から7年。第2版と比べて約80頁増と、ボリュームも大幅に増えた。
これは、一つには、「働き方改革」関連法などの新たな労働立法のラッシュに対応するためである。この点、著者は、「労働法分野で悪しき意味での「法化」(legalization)が進んでいる」と批判しつつ、「労使自治」の機能不全をふまえれば国家法はますます重要な役割を果たさざるをえないのであり、問題は「国民が理解しにくい法令の氾濫」にあるとされる(第3版はしがき)。
もう一つは、働き方の変化、とりわけ、個人請負、フリーランサー、クラウドワーカーなどの「雇用によらない働き方」への対応である。これをどう保護するかは労働法上の大きな課題であるが、そこでは「労働者」概念の再検討が求められる。この点、著者は、「人的従属性」より「経済的従属性」を強調する立場を鮮明にしたうえで、第2版よりも明確に、労基法上の解雇制限、賃金保障などに関する規定の私法的側面は広く適用されるべきとの見解を示されている。
さらに、第2版以後のあまたの労働裁判の到達点と課題も紹介されている。著者の自己決定論に深くかかわる山梨信金事件最高裁判決や、大阪でもたたかわれている労契法 条裁判への言及が目を引くが、小さな論点についてもまんべんなく目配りがされている。これは全国の労働弁護士からさまざまな相談を受け、ともに議論をする中で理論的解明にあたってこられた著者の長年の研究活動の成果でもある。巻末の判例索引も第2版の36頁から第3版の41頁へと増えた。
ちなみに、著者は、第2版と第3版の間に『労働法の基礎構造』(法律文化社 2016年)を著された。これは、「歴史的に形成されてきた労働法の基礎構造を解明し、……基本的な価値と原則を確認すること……によって「改革」論を測る座標軸を確立する」ために執筆されたものであり(同書「はしがき」より)、本書でも随所でそれが引用されている。その具体的な紹介は私の手に余るが、何が基本的な価値であり原則であるかを押さえておくことは、些末な解釈論の迷路にとらわれないためにも重要である。
これだけボリュームが増え、クオリティもさらに上がったのに、第2版と比べて定価が100円しかアップしていない。これは日本評論社の意気込みを示すものであろう。著者と出版社の意気に感じ、ぜひ手近な本棚に常備していただきたいものである。
なお、『労働法の基礎構造』についていえば、2016年の民法協 周年記念行事の際の「お茶会」での発案による連載「弁護士が読む西谷敏『労働法の基礎構造』」(労旬1879+1880号~1892号)、そして、これに著者が応答された「『労働法の基礎構造』再論―弁護士諸氏による書評その他を読んで」(上・下)(労旬1897号・1898号)が懐かしく思い出される。それは、どうしても場当たり的になりがちな弁護士にとって、物事を少し深く考えるための貴重な機会となった。この大胆な企画を快く受け止めてくれた著者と「労働法律旬報」編集長の古賀一志氏に、改めて謝辞をお伝えするとともに、こちらの方も、とりわけ若い方には読んでいただきたく思う。
【日本評論社のサイト】https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8288.html
※民法協で少しお安くお求めいただけます。