民主法律時報

《書籍紹介》大脇雅子 著『武力によらない平和を生きる』

弁護士 西   晃

1 反戦・護憲 年、現代への警鐘の一冊

著者の大脇雅子さんは1962年弁護士登録(14期)、実に60年を超えるキャリアの大ベテラン弁護士です。1992年からは二期12年にわたり参議院議員を務められました。本書は著者が反戦・非暴力・護憲を訴えたたかい続けた中で得られた確信を綴る渾身の一冊です。

「私の戦争の原体験から思う。戦争は残酷そのもの。戦争は突然に始まり、破滅するまで止まらない。だから戦争が近づいたら、事前に何としてでも止める。戦争準備には断固反対する。軍隊は信じない。熱狂には同調しない。『戦争は絶対に嫌だ』と思う私にとって『新しい憲法』特に憲法九条は未来の希望であった」(135頁)。

著者の平和への希求、その原点は国民学校1年生の時の日米開戦(1941年)の衝撃、そして1945年7月9日の岐阜大空襲で、逃げまどい、おびただしい死傷者を目の当たりにした原体験です。

2 本書は大きく3部構成になっています。

第Ⅰ部の「非暴力抵抗という闘い」では、著者の故郷岐阜での自由民権運動の歴史と教訓、司法修習生時代から弁護士登録の時期である60年安保闘争、そして戦前・戦後の沖縄の苦悩、そして不屈のたたかいと自身の思いが述べられています。著者が参議院議員時代に感じた無力感と無念の想い、そして「沖縄の怒りではない、私の怒り」として再び立つ決意のくだりは心を打ちます。

また、先ほど最高裁で勝訴(名古屋高裁判決)が確定した2016年(高江ヘリパッド)愛知県警機動隊派遣への公金支出違法を巡る住民訴訟でのたたかいの工夫の数々も。裁判官を説得し、勝ち切るために何が必要なのか、実務法曹としても大いに参考になります。

続く第Ⅱ部は「今こそ平和的生存権を」です。著者自身の戦争体験から導かれる確固たる信念がほとばしるところです。著者は参院議員時代、与党(自・社・さ政権)の一員として政権側についておられます。1997年「日米新ガイドライン」策定の時期には、与党訪米団にも参加。その時に感じた、アメリカの軍事戦略に巻き込まれながらも、「否」といい難い雰囲気や違和感・もどかしさが手に取るようにわかります。そんな体験も踏まえた「もう一つの安全保障の道を求めて」の試みと、平和的生存権保障基本法の立法構想が縦横に展開されています。また末尾には自民党改憲4項目批判、「自衛隊」を憲法に明記する案に関する危険性、緊急事態条項の持つ危険性をも訴えています。

そして第Ⅲ部が「国際連帯、非暴力抵抗の地下水脈を受け継ぐ」です。平和を求める人々の営みを「個人の権利」として位置づけた国連総会「平和への権利宣言採択(2016年)の画期的意義、そして日本における非暴力抵抗の水脈を、労働運動・平和運動の観点から素描します。何よりも著者自身が弁護士として現場でのたたかいを経験しリードした側であり、理念だけではなく実践に裏打ちされた英知と教訓がちりばめられています。暴力的に襲いかかる権力に対し、如何に非暴力で徹底抗戦するか、その要諦は机上の学習からだけでは絶対に得られないものであり、現場でのたたかいからしか獲得できないものだと思います。

3 本書を心よりお勧めします。

ロシアのウクライナ侵攻が長引く今、日本の社会にも確実に「怪しげな気配」が広がっています。そんな時だからこそ、多くの人に読んで欲しい一冊です。内容は豊富ですが、分量は250頁ほどであり、一気に読めます。

「軍事力・軍事的なるもの、暴力や差別、いじめに陶酔してはならない。同調圧力から生まれる熱狂に巻き込まれたり、流されたりしてはならない」(256頁)。

著者の末尾の一文を掲げ、私からのお願いといたします。

旬報社 2023年2月刊
定価 1800円+税

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