民主法律時報

書籍紹介 『これでいいのか 自治体アウトソーシング』城塚健之・尾林芳匡・森裕之・山口真美 編著

 弁護士 谷   真 介

 「公務の民間委託」や「指定管理者制度」といった自治体業務のアウトソーシング(外部化・民間化)に関する問題は、私たち民法協会員(自治体労働組合の方を除く)にとってすら、とっつきにくいとの印象を受ける分野であると思います。マスコミでは、「人件費が高く無駄の多い行政は民間を見習え」とばかりにこれを後押しする論調がほとんどです。負の側面については、「官製ワーキング・プア」として、その担い手の貧困化が単発的に取り上げられたくらいで、本体の自治体アウトソーシングそのものが、私たちの身近な暮らしに直結する問題であると認識するに至っていないのが、現状です。

 著者・編者の一人である城塚健之弁護士は、担当された「第一章 自治体アウトソーシングの現段階と自治体の課題」を次のように締めくくっています。「公務の市場化をめぐる問題は、自治体労働者や、福祉サービスを受けている人だけの問題ではありません。それは、私たちがどのような社会を築いていくのかという根幹に関わる問題なのです。」
 本書を読み進めるうち、その意味するところに、打ちのめされそうになります。

 本書では、私たちの暮らしそのものとして受けられるのが当たり前になっている、医療や保育、交通、水道、図書館、役所の窓口業務等のアウトソーシングが例にあげられています。例えば、お金のない人でも公平に医療を受けられること、どこに居住している人でも「足」として交通機関を利用できること、個人情報を侵されることなく安心して文化的な生活を送ることができること等、誰もが健やかに、また豊かに生きていくために、公平に受けられるべき行政サービスが、アウトソーシングという手法によって、企業の利潤追求の場として開放され、また拡大されようとしています。そこでは、企業の利潤が絶対的価値となり、住民の権利・生活は度外視されることになります。果たして、それでいいのでしょうか。「公共」「社会」とは、何でしょうか。

 いま安倍政権は、アベノミクス第三の矢として「成長戦略」を掲げ、「日本を世界一企業が活動しやすい国にする」と公言し、「岩盤」としてその妨げとなっているあらゆる規制を徹底的に緩和するとし、「国家戦略特区」を最大の目玉にすえるなど、これを加速度的に進めています。その一つとして、先ほどあげた医療や教育のほか、農業やその他の「公共」の分野を企業の利潤追求の場として開放し、誰もが公平に受けられるべき公共サービスを「商品化」しようとしているのです。

 本書では、安倍政権が加速度的にすすめている各政策について、全体に俯瞰して、またアウトソーシングし企業に開放しようとする分野ごとに、豊富なまた最新の情報を網羅し、これに的確な分析を加え、対峙する側が打ち出すべき方向性の示唆までなされています。この時期に、これだけ情報の質が高く、かつコンパクトにまとめられた著作は、ほかにないと断言できます。その意味でも、たくさんの方に、できるだけ早く手にとってお読みいただきたいです。また、本書を題材に、身近な暮らしの問題として「これでいいのか」と議論したり、また学習会を開催してほしいと思います。

 個人的には、(私のような)若手の弁護士にも、事件活動だけでなく(一生懸命事件活動に取り組むのは弁護士の基本ですが)、人権保障を具体化する「自治体」というものがどうあるべきかという、人権保障の最前線の問題として、この分野に一緒に取り組んでほしいと思います。そのきっかけとして、本書を手にとってもらえれば嬉しいです。どういう社会を築きたいかという問題として、ぜひ一緒に議論し、取り組んでみませんか。

2014年5月
自治体研究社
定価 1600円+税
民法協で少しお安くお求めいただけます。

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