民主法律時報

《書籍紹介》野口啓暁 編著 西谷敏 監修 『モデル条文でつくる 就業規則 作成マニュアル』

弁護士 足立 敦史

1 本書の特徴

就業規則は、使用者が統一的な労務管理のために作成されるものであるため、その内容は、使用者の利益に寄ったものになりがちです。他方、労働者の権利や利益に寄りすぎても、使用者は採用してくれません。そこで、本書は、就業規則の策定方法につき、労使の垣根を越えて、双方に有益なモデル条項を提示し解説することで、労働者の権利・利益を実現しながらも使用者、特に中小企業経営者に実際に採用してもらえる就業規則のモデルを目指していることが最大の特徴です。

そのような特徴を実現するために、著者の方々は、2014年春に神戸就業規則研究会を立ち上げて、労働者側弁護士、使用者側弁護士、労使双方を扱う弁護士ら5名、社会保険労務士ら7名と労働問題に携わる多様な実務家が集まり、6年間もの間、議論を尽くされました。

また、西谷敏大阪市立大学名誉教授が、同会の顧問を務められて「人間の尊厳」と「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の理念を尊重する観点から、本書を監修されました。

本書は、長期間をかけて作成されながらも、働き方改革、新型コロナ禍といった直近の社会情勢にまで対応しており、コロナ禍での休業対応やテレワーク規程を備えていることも大きな特徴です。

働き方改革への対応の一例として、年休の時季指定義務化に関する規定では、社員の事前申出による時季変更を認める工夫をするなど、労使のバランスを考慮したモデル規定が提案されています。

テレワーク規程では、厚労省のテレワークガイドラインが詳述していない、テレワークを実施するための具体的な手続きを規定し、テレワーク特有の「中抜け時間」(休憩時間以外で業務から離れる時間)の取り扱い、勤務内外の区別がつきにくく結果的に長時間勤務となってしまうリスクに対応する規定、在宅勤務手当の在り方等にも配慮されています。

具体的なモデル規程を見ていただきたいところですが、それは是非本書を手に取ってご覧ください。

2 書籍紹介の経緯

本書の編著者は、神戸の野口法律事務所の野口啓暁弁護士(元・北大阪総合法律事務所所属)です。私が野口法律事務所にて弁護修習中にお声がけいただき、神戸就業規則研究会にオブザーバーとして参加しました。私が参加した時は、本書の無期転換の規定を見直し作業中で、参加者の先生方が忌憚なく活発に議論されており、それを野口弁護士がその場でモデル条項にまとめ上げておられた過程を見ているため、本書の内容が質を伴うことを体感しております。

また、本書の著者には、民法協とも協力関係にある兵庫民法協の現会員で前事務局の今西雄介弁護士と現事務局の大田悠記弁護士が参加されています。
そんなご縁もあってご紹介させていただきます。

本書のモデル規程を多くの中小企業経営者に採用してもらい、労働者の働きやすい環境を整えることで、ディーセント・ワークを実現できるよう、是非手に取っていただき、多くの方にご紹介いただきたく存じます。

旬報社2020年 月9日発刊
A5版 576頁
定価 6000円+税

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