民主法律時報

任天堂紹介予定派遣直接雇用拒否事件 提訴

弁護士 足立 敦史

第1 本件事案

1 請求内容

2020年9月8日、任天堂株式会社にて産業保健師として紹介予定派遣で就労してきた 代から 代の女性二人が、任天堂株式会社及び同社の産業医に対し、①労働者としての地位確認請求(直接雇用拒否等による)、②賃金請求(予備的に損害賠償請求)、③産業医のパワハラ及び任天堂の対応懈怠に基づく慰謝料としての損害賠償請求を求める訴えを提起しました。

2 事案の概要

原告らは、2018年4月に紹介予定派遣として採用され、任天堂で就労を開始しました。その採用過程において、原告らは、任天堂に履歴書及び職務経歴書を提出し、任天堂の人事担当に会って、正社員採用と変わらない採用面接を2度受け、任天堂から内定が出たとの連絡を派遣会社から受けました。これは任天堂による実質的な採用行為といえます。

原告らは、就労開始後、人事から産業医の指示を受けるよう言われて、産業医から指示を受けて業務を行っていました。ところが、同年6月15日の内々定時健康診断のチェックでの行き違いから産業医の態度が一変し、原告らは、①カルテ整理以外の業務内容について指示されない、②今まで担当していた業務についても担当しなくてよいと言われる、③声かけ、呼びかけを無視されるなどのパワーハラスメントを受けました。

原告らが任天堂の人事部に相談するも産業医に対する指導は行われず放置されました。その後、同年9月6日、13日に任天堂の人事担当者との面談で、原告らは、同担当者から、原告らの業務能力・態度に問題はないが、産業医と円滑な協力体制が構築できなかったことのみを理由に直接雇用ができない旨を告げられ、直接雇用を拒否されました。

3 提訴当日

当日は、京都地裁で入廷行動と司法記者クラブで記者会見が行われました。記者会見では、原告二人が、「納得のできない不当な理由で直接雇用を拒否された。パワハラや不当な扱いをされただけでなく履歴書にまで泥を塗られたことは絶対に許すことができない。」「任天堂はパワハラをした産業医を指導せずに、雇用を拒否された。採用する側は、人の人生をなんだと思っているのか。」と訴えました。紹介予定派遣での直接雇用拒否を争うことは、全国初ということでマスコミの関心は高く、記者会見にはNHK、民放各社及び新聞社各社が多数参加して、ニュースや新聞で幅広く報道されました。

第2 本件の理論的な問題点と提訴の意義

1 本件の理論的な問題点

紹介予定派遣では「特定」行為が許されますが、労働者派遣である以上、採用決定を行うのは派遣元であり、派遣先が採用決定を行うことは許されません。そして、任天堂は前述したように実質的な採用行為を行った以上、この時点で、原告らと任天堂の間に黙示の労働契約が成立しているのではないかを問題にしました。また、仮に黙示の労働契約が成立したとはいえなくても、原告らには直接雇用の合理的な期待が生じているため、解雇権濫用法理の趣旨が及ぶのではないか。そうであるならば、産業医との関係構築ができなかったという理由(原因は任天堂のパワハラ放置)のみで直接雇用を拒否することができないのではないか等が問題となります。

2 提訴の意義

紹介予定派遣は、当初、正規雇用を促進するための制度と言われていましたが、結局は本件のように労働者の不利に運用されています。本裁判は、いったん実質的な採用行為を行いながら、不当な理由で直接雇用を拒否した任天堂の責任を追及し、今後、紹介予定派遣制度を悪用した不当な労働者の切り捨てを防ぐ重要な意義を有します。

初回期日は、2020年12月15日となりました。この度、弁護団に豊川義明弁護士、京都の中村和雄弁護士に加入いただきました。先生方と議論を尽くして訴訟追行いたします。

(弁護団 岩城穣、豊川義明、中村和雄、冨田真平、佐久間ひろみ、足立敦史)

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