民主法律時報

《書籍紹介》脇田滋 編著 『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』

弁護士 清水 亮宏

 脇田滋先生の編著『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』が学習の友社から出版されました。「ディスガイズド・エンプロイメント」は、直訳すると「偽装雇用」であり、現在話題になっている「名ばかり個人事業主」の問題を指す言葉です。

本書は、「名ばかり事業主」の問題に関する12の現場からの報告(第1部)と、脇田先生の論考「『雇用によらない働き方』に国際基準で立ち向かう」(第2部)の2部構成となっています。現場報告・論考ともに読み応えのある内容であることは間違いありませんが、現場報告から理論的検討・提言に繋げられている点で、脇田先生ならではの書籍であると感じました。

第1部の現場報告では、料理配達(ウーバーイーツ)・布団販売・電気計器工事・ホテル支配人・俳優など、様々な業種における「名ばかり個人事業主」問題について、12もの団体からの現場報告があります。ほとんどは労働組合からの報告ですが、NPOや協同組合からの報告もあり、大変興味深く読ませていただきました。いずれの報告も、名ばかり個人事業主の現状を切実に訴える内容でした。

不合理な報酬の計算方法、報酬の一方的減額(計算方法の変更)、一方的な経費負担、拘束時間に見合わない低報酬、報酬の不安定さ、事故等に対する不十分な補償など、個人事業主が直面する問題が具体的事例として挙げられており、改めて「雇用によらない働き方」の負の側面について考えさせられました。一方で、具体的な指揮命令を受けており裁量がなかったり、時間的・場所的な拘束を受けているなど、働き方の実態が労働者であるにもかかわらず、労働基準法等の労働関係法が適用されず(適用されない扱いを受け)、労働基準監督署に相談しても労働者でないことを理由にまともに対応してもらえないなど、「名ばかり」であるが故の問題も浮き彫りにされています。12もの報告を通じて、個人事業主としても労働者としても保護されない、法のはざまに置かれた労働者たちの実態が明らかにされています。

一方で、これに対抗するための労働組合・NPO・協同組合の取組みも多々報告されています。ウーバーイーツユニオン、ヤマハ英語講師ユニオン、ヨギーインストラクターユニオンなど、「雇用によらない働き方」が社会問題になる中で、自己の働き方に疑問を持ち、労働組合を結成して使用者と交渉を始めている労働組合の報告もあり、当事者たちがどのような思いで立ち上がったのか、どのような取組みを経て改善に繋げることができたのかを知ることができます。労働組合等を通じたアクションの重要性を再認識させられます。

第2部は、これらの現場報告を受けた脇田先生の論考です。日本での「労働者」概念を巡る議論の状況や、「雇用によらない働き方」が拡大した経緯などについて整理された上で、ILOの勧告を紹介され、脱法行為を許さない実態に即した「労働者」性の判断枠組みを取り入れるよう提言されています。また、ウーバーに代表されるプラットフォーム労働の拡大や構造的問題について整理され、諸外国において条例や法律での規制が広がっていることも指摘されています。アメリカでのプラットフォーム労働者の闘いや、韓国における「特殊雇用従事者」(日本での名ばかり個人事業主)の闘いについても触れられており、この問題を考える上で必要な要素が詰まっています。

脇田先生が最後に指摘されている「労働者が広く団結して、その集団的活動を通じて初めて、問題の正しく根本的な解決に通ずる道を切り開くことができる」という点については、強く共感します。この本をきっかけに、名ばかり個人事業主の団結・連帯が広がることを期待します。

「名ばかり事業主」問題は、「雇用によらない働き方」の一つの側面として知っておかなければならない問題です。日々労働相談を受ける労働組合や弁護士にはぜひ手に取っていただきたい一冊です。

※民法協にて割引きでお求めいた だけます。

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