弁護士 牧 亮太
シャープに対する大阪府・堺市の公金支出差止(10年間にわたり、大阪府は補助金262億円を支出し、堺市は184億円の減税を行うことへの差止を求める)訴訟は、2009年7月の訴訟提訴から6年以上が経過しました。2016年1月に尋問を終え、佳境を迎えています。
このタイミングで、シャープへの公金支出差止の住民訴訟と運動を記したブックレット『企業誘致の闇』が発行されました。ブックレットでは、この6年に及ぶ訴訟の内容のみならず、シャープ工場誘致が決まった当時の各地域での多額の補助金を使った誘致合戦とその失敗の模様や、地域経済の発展を大企業誘致に頼ることの誤りが明らかになった今でも総合型リゾート(IR、カジノ)を誘致しようとする大阪の問題にも言及しています。
ブックレットを手にしていただく前に、この住民訴訟の特徴についてお伝えさせていただきます。
本訴訟の最大の特色は、2009年7月の提訴(住民監査請求は2009年4月)以降、シャープ工場誘致を正当化する根拠としての「公益上の必要性」がなかったことが次々と明らかになったことです。
この6年間のシャープの凋落は、改めて述べるまでもなく、多額の公金が流れている「シャープ工場」も今や、実質的には台湾資本である鴻海の所有となっています。また、大阪府も堺市も企業を立地するための条例を改正し(大阪府は、補助金の交付対象を1企業ではなく、1地域に変更。堺市は、減税期間を 年から5年に制限。)、企業誘致に多額の税金をつぎ込んだ自治体(三重県亀山市、兵庫県尼崎市・姫路市)では工場閉鎖が相次ぎ、企業が自治体に補助金を返還する事態も起きています。
そして、最も重要なことは、大阪府・堺市が多額の公金を支出する根拠として掲げた「経済的波及効果(シャープを誘致すれば、府民・市民にも経済的な効果が及び、それが公益に資するという意味)」が全く明らかにされていないことです。シャープ工場は訴訟をしている6年間も稼働し続けているわけですから、液晶パネルを作成するための労働者の雇用、材料の仕入れ、パネルの出荷等、どのように地元の企業に恩恵があり、府民・市民が経済的に恩恵を受けたのか、本来であれば明らかにできるはずです。
しかし、訴訟がはじまり6年以上経過した今も全く明らかにされていません。
上記で述べた明らかになった事実は、決して結果論ではありません。私たちは、一企業に膨大な税金をつぎこみ、優遇することの危険性を6年前から指摘しており、その指摘が正しかったことが時の経過とともに明らかとなったのです。
訴訟の内容を知り、結果にご期待いただくとともに、今後の地域経済やまちづくり、企業誘致のあり方を改めて考えるという意味でも、是非、本ブックレットを読んで下さい
ブックレットは、定価600円ですが、民法協会員の方は500円で購入していただけます。購入希望をされる方は、堺総合法律事務所までご連絡ください(電話:072―221―0016) 。