民主法律時報

西谷敏先生の『労働組合法 第3版』を読む

弁護士 出 田 健 一

 第2版刊行後6年を経て、昨年12月に西谷敏先生の『労働組合法第3版』(有斐閣)が出版されました。
 同書の「はしがき」にもあるとおり、主な改訂箇所は労組法上の「労働者」概念に関する部分(同書77頁以下)と「使用者」概念に関する部分(149頁以下)です。いずれも当協会の会員が取り組んだ事件に関係しますが、前者は三つの最高裁判決が出て判例命令の前進面が顕著です。これにつき、「新たな最高裁判決の結論そのものは広く支持されているが、判決がいずれも事例判断にとどまっていることもあって、理論的な決着にはほど遠い状況である」として、著者は労組法3条の「労働者」は憲法28条の「勤労者」と基本的に同義で、「その意味内容と範囲は、基本的には憲法28条の趣旨から導かれるべきである」として、全逓中郵事件の最高裁大法廷の判旨も引用しながら、「使用者(労務供給の相手方)との関係で社会的経済的に従属的な地位にあり、そのために労働基本権の保障を必要とする者」と定義し、最高裁判決や労使関係研究会報告を批判的に検討されています。これは「経済的従属性」を基準とする説です(先生の『労働法』459頁も参照)。
 一方、「使用者」概念についての判例命令は複雑です。派遣・下請関係や偽装解散・事業譲渡の場合には相当の前進面が見られますが、関西航業事件・大阪証券取引所事件や近年の高見澤電機製作所事件のような支配企業の使用者性をめぐる判例命令は、派遣・下請型に関する朝日放送事件最高裁判決の判断方法を形式的にあてはめて、支配企業が従属企業の労働条件等の具体的決定に関与することを求めています。先生は、「支配企業が、株式所有、役員派遣その他を通じて従属企業の経営全体に支配的な影響を及ぼしている場合には、・・・支配企業が従属企業と重畳的に使用者となることを認めるべきである」といわれます。ここは旧版にあった「間接的」「実質的」影響という文言がないので一瞬無限定ではないかと感じましたが、代わりに、158頁で義務的団交事項や「誠実」交渉の程度は支配の内容、程度に応じて異なると限定されているので、この相関関係に注意して読む必要があると思います(この理解は本書注29引用の竹内(奥野)氏の論文129頁を参照しました)。なお、経営協議会を利用した複数組合間差別の例として本書でも引用していただいたNTT西日本事件は、種々の理由で被申立人としなかった持株会社が主導し、東西NTTが同席する東京で開かれた中央経営協議会が舞台で、持株会社の使用者性が隠れた、しかし重要な論点でした。その経験で申しますと、理論とは別に弁護団・労働組合の証拠収集・立証の工夫の問題もあります。理論・実践の両面にわたってここを突破するのが次の大きな課題です。
 本書では国家公務員労働関係法案等、公務員の労働基本権の展望(73頁)や大阪市に見られる公務員と不当労働行為に関する記述の補充もされています(158頁)。その際、「行政改革」・民営化と国鉄・電電公社を含む官公労働者への攻撃(35頁)の箇所はもちろん、是非とも第1章全部を読まれることをお勧めします。
 これは何も公務員の問題に限られません。本書初版の「はしがき」に書かれたように、本書の基本的特徴は、①労働組合法体系の頂点に位置する憲法28条の労働三権を重視していること、②労働基本権の理解において、その自由権的性格をふまえつつ、全体としてそれを労働者の関与権として位置づけていること、③労働者個人の自由意思を尊重する立場から、そうした自由意思が制限される場合にその根拠(正統性)の明確化が要求されるという点にこだわっていることにあります(③は組合民主主義と統制処分の根拠、労働協約の不利益変更とその限界、ユニオンショップ等の諸問題の考察の際に関連)。その真髄を把握するには第1章をよく理解することが必須です。
 「憲法28条は『労働組合法』のアルファでありオメガである」(第1節)。それを知るには内外の長い歴史を振り返る必要があるとして、第2節・第3節で詳述されています。北港観光バス事件異議審で強力なヒント・確信になったのもワイマール憲法118条1項(263頁)から説き起こす著者の鋭い論述でしたが、今回正月に読み返して改めて感銘を受けたのは、第3節の大正デモクラシーと労農運動の高揚→戦前の農商務省・内務省・政府の労働組合法案と末弘厳太郎博士らのワイマール・ドイツ労働法の研究→戦後の労働改革と終戦の年の年末に早くも自らの力量で作成できた旧労組法→憲法28条の作成という一連の歴史過程の人的担い手・内容面の連続性・発展性の指摘です(旧労組法までの条文の資料として、さしあたり東大労働法研究会『注釈労働組合法』上巻参照)。その後の占領政策の転換による公務員に関する諸法の制定と労組法改正・・・とずっと続いて現在の情勢と法現象に至る訳です。これは他に類を見ない日本国憲法の労働条項の優れた教科書でもありますし、「GHQ押し付け論」に対する雄弁な反論です。憲法問題を考える際にも必読文献だと思います。
 現行労組法制定時には55.8%の労働組合組織率がいまや20%を切り、争議行為件数85件、半日以上の同盟罷業(ストライキ)が年間38件?!、労働組合がある事業所で労使協議機関を設置するのが 83.3%という困難な状況下で(すべて本書に統計資料が引用されていますのでお探し下さい)、著者は「労働組合とは何のために存在するのか、憲法28条はなにゆえにすべての勤労者に労働基本権を保障したのかを問い続け」ます。それは憲法前文、11条、97条等が強調する、過去現在未来にわたって「侵すことのできない永久の権利」の呼びかけです。多くの方々が本書を学習し、明日の糧にしていただきたいと思います。

 有斐閣2012年12月発行
 A5判並製カバー付536ページ
 定価 4,305円
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