民主法律時報

《書籍紹介》『過労死 過重労働・ハラスメントによる人間破壊』過労死弁護団全国連絡会議 編

弁護士 上 出 恭 子

本書は、日本の過労死問題について、世界の人々の理解を広げるために出版をされたものです。同時に同名の英語版の書籍が発行されています。

1991年に英語版「KAROSHI」が発行され30年余りが経過する中、依然として過労死が後を断たず、日本のみならず世界的にも同様の現象が生じている中で、この間の救済の取組み及び研究をまとめたものです。
「第1部 過労死と過労自殺の事例」では、日本を代表する企業であるトヨタの過労死・過労自殺の3つの事例について担当した弁護士による紹介と、遺族よる4つの事例紹介がされています。トヨタの事例はいずれも、行政段階では労災とは認められず、行政訴訟によって労災と認められたというもので(そのうちの一つは地裁では認められず高裁でようやく認定)、厚労省の定める労災認定基準のハードルの高さが痛感されます。

また、「遺族は語る」では、突然、仕事で大切な家族を奪われ遺された家族の痛切な思いがリアルに伝わるとともに、過労死はあってはならないことだとの思いを改めて強くしました。

「第2部 過労死と過労自殺の分析」では、医師、弁護士による過労死問題を分析した論文で、なぜ過労死が起きるのか、解決の道筋が提言されています。中でも「国際人権の視点から見た過労死と過労自殺の問題」、「ジェンダーの視点から過労死を考える」といった、今日的な視点で過労死問題の分析がされている点が、注目されます。

むすびでは、川人博弁護士が過労死をなくすために10の項目を整理されており、「ノーモアカロウシ」に向けての具体的取組みを検討する上で参考になります。

民法協会員である松丸正弁護士が「過労死110番の歩みと過労死防止の課題」の中で、「過労死等を生じる事業場は、比喩的に言えば門前に『労基法立入禁止』と立札がある、労基法を無視した働き方をさせる事業場だからこそ過労死等は生まれるのである」との指摘は、過労死問題の生じる原因を端的に表したものです。

本書は134ページと比較的コンパクトな分量で、過労死の実例にふれ、これまでの取組みと過労死をなくすための今後の課題が整理されており、手に取りやすい内容となっています。是非、お読み下さい。

旬報社
【日本語版】定価:本体1300円+税
【英語版】定価:本体1500円+税

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