決議・声明・意見書

声明

裁量労働制の適用対象拡大の動きに反対する緊急声明

 厚生労働省の「これからの労働時間制度に関する検討会」は2022年7月15日、議論をとりまとめた「報告書」を公表した。裁量労働制の適用対象の拡大に関する議論が大詰めを迎えており、厚労省は、年内には一定の結論を出したい意向であると伝えられている。

しかし、安易な裁量労働制の適用拡大は絶対に認めることはできない。同制度については対象業務の範囲の限定、手続の厳格化、労働者の健康確保こそが急務である。


 働き方改革関連法の制定過程において、当時の安倍首相が、裁量労働制で働く人の労働時間が「一般労働者より短いというデータもある」と答弁したが、厚労省の調査に大量の異常データが発覚し、裁量労働制が法案から削除に追い込まれた経緯がある。

厚労省は、2021年6月25日に「裁量労働制実態調査」を公表したが、安倍元首相の上記答弁とは真逆の実態が明らかになった。同調査によると、1日の平均労働時間は、裁量労働制が適用されている労働者が9時間であるのに対し、適用されていない労働者は8時間39分であり、週60時間以上の勤務している労働者は、適用されている者のうち8.4%、適用されていない者では4.6%であった。加えて、裁量労働制が適用されている労働者のうち、深夜労働が「よくある」労働者が9.4%も存在した。

裁量労働制は長時間労働を助長する制度であることが端的に示されている。


 上記調査によれば、裁量労働制が適用される労働者のうち、自己の「みなし労働時間」を認識していない割合は、専門型では40.1%、企画型では27.4%であった。また、「みなし労働時間」は1日平均7時間38分であったが、実労働時間は平均9時間であった。要するに、実際の労働時間よりも短い「みなし労働時間」が定められ、それを認識していない労働者が少なくない。

裁量労働制が「定額働かせ放題」の制度であると厳しく批判されるのは、実態と乖離した「みなし時間」を前提とした賃金で働かされる労働者が存在するからである。


 裁量労働制の適用に関して、柔軟な働き方に対するニーズが強調されているが、時間配分について労働者に自律的・主体的判断を委ねる「フレックスタイム制」の導入により、かかるニーズに応えることも可能である。

労働者側には裁量労働制の適用対象拡大や規制緩和を求めるニーズはない。


 労働基準法は、実労働時間による厳格な労働時間管理を大原則とする。しかし、裁量労働制はその原則を大幅に緩和するものであり、制度の適用対象の拡大により、長時間労働をさらに助長し、不適切運用のリスクが高まる。

民主法律協会は、裁量労働制の適用対象拡大に断固として反対するとともに、不適切な裁量労働制の運用がなされぬように手続・要件を厳格化し、労働者の健康確保措置を講ずることを強く求める。

2022年12月6日
民 主 法 律 協 会
会長 豊川 義明

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