決議・声明・意見書

決議

労働時間規制緩和の方針に断固反対する決議

 高市首相は、2025年10月4日、自民党総裁に選出された直後に、「もう全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます。私自身も『ワークライフバランス』という言葉を捨てます。」と発言した。この発言に対して、当会も同月14日に「ワークライフバランスの実現を推進する政治を求める談話」を公表して、ワークライフバランスの実現に後ろ向きな発言であることを強く批判した。高市首相は、この発言について自身の決意を述べたものであり、労働者に対して長時間労働を求める趣旨ではない旨を弁明するものの、自民党総裁選の公約に「労働時間規制につき、心身の健康維持と従業者の選択を前提に緩和します。」と掲げ、首相就任直後、上野賢一郎厚生労働大臣に対し「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和」を検討するよう指示した。

さらに、高市首相は、同年11月5日の衆議院本会議や同月14日の参議院予算委員会において、働き方改革により企業側が過度に残業を抑制しているとの認識のもと、残業代が出ないことにより届出のない副業を行い、健康を損ねる労働者が存在することへの懸念を示し、「多様な働き方」のもと労働者の選択を前提とした労働時間規制緩和の方針を示している。

 しかし、実際の労働現場では労働者の命と健康を確保するために労働時間規制が実質的に機能しているとは到底言えず、高市首相の認識は労働現場の実態から乖離している。2019年4月に働き方改革関連法が施行されてから5年以上が経過したが、そもそも同法における残業時間の上限規制それ自体、単月100時間、複数月平均で80時間という、いわゆる「過労死ライン」に設定している時点で、労働者の命と健康を確保する観点では不十分な規制である。また、働き方改革による労働時間の実態は、労働者全体の年間総実労働時間数は減少傾向にあるものの、その要因としてはパート労働者などの非正規雇用、フリーランスが増加したことも挙げられており、必ずしも労働時間規制のみの効果ではない。

現実に、昨年当会加盟の労働組合に対してヒアリングを行ったところ、使用者が時間外労働の申請を妨げる例、使用者が自己研鑽として労働時間であることを否定する例や、要件を満たさないまま変形労働時間制を悪用して割増賃金未払いとなる例が報告されるなど、中小企業の労働現場において十分に労働時間規制が行き届いていない実態が報告されている。さらに、脳心臓疾患、精神障害ともに労災請求件数・労災認定件数は例年増加しており、労働現場において、命と健康を確保するために労働時間規制が実質的に機能していない課題が浮き彫りとなっている。

 高市首相は、労働者本人の選択を重視して「多様な働き方」を実現する方針であることを示すが、これも労働者の実態から乖離する認識と言わざるを得ない。2025年1月8日付で「労働基準関係法制研究会報告書」が公表され、同報告書において、労使コミュニケーションのもとで労使合意に基づいて、法定の最低基準の調整・代替を行うことを可能とすることが述べられた。しかし、これは2024年1月16日付で経団連が発表した「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」における「労働時間規制のデロゲーションの範囲を拡大する」ことに沿う内容である。労働時間規制の緩和は、人材不足を背景に労働力の確保を求める経済界の要望であり、必ずしも労働者側から発信されたニーズに応えるものではない。

労働時間規制は、労使間の力の格差を前提に、労働者の命と健康を確保するための最低限の歯止めである。上記のとおり、現行の労働時間規制も過労死ラインに相当する不十分な内容であり、長時間労働の是正に至らない現場も相当数存在する。また、労働者の生活と健康を守るためには、残業をしなくても生活費が維持できるように賃上げすることが根本的な解決策である。にもかかわらず、労働時間規制の緩和に固執し、労使間の力の格差を無視して、労働者本人の選択という理由で安易に労働時間規制の歯止めをなくすことは許されない。

 現行の労働時間規制ですら労働者の心身の健康確保とワークライフバランスを守るのに不十分であるにもかかわらず、高市首相は上記のとおり、労働者・労働現場の実態と乖離した認識をもとに安易に労働時間規制の緩和を押し進めようとしている。民主法律協会は、現場の課題に逆行し、労働時間規制を緩和する動きに断固反対し、労働者の命と健康を最優先し、労働者の権利擁護に向けて、声を上げ続けていくことを宣言する。

2026年2月14日
民主法律協会 2026年権利討論集会

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