民主法律時報

民法協 第65回定期総会のご報告

事務局長・弁護士 谷  真介

8月29日、エル・おおさかにおいて、第65回定期総会を開きました。

新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、総会の開催方法について幹事会においても議論がありましたが、今回はじめて実会場とweb会議(zoom)の併用で実施しました。参加者は実会場が53名、web参加が45名程度の合計約100名でした。

前日、安倍首相が体調の問題を理由に辞任を表明し、7年8か月続いた「安倍一強」体制が突然終わりを告げました。第一部は、この安倍首相辞任表明を受けた萬井隆令会長の開会の挨拶に始まり、基調講演として、立命館大学(政策科学部)の森裕之教授から「コロナ禍が暴く大阪都構想――11月住民投票は暴挙である」との演題でご講演頂きました。

森教授は、これまでも、専門である地方財政学の見地から、長い歴史があり政令都市として発展してきた大阪市を廃止・分割する「大阪都構想」について、市民にとって何のメリットもないことから批判されてきました。特に維新の会が強調する「二重行政廃止論」については、財政的な裏付けがまるでなく、大阪市を廃止・分割する論拠に全くなり得ないことを強調されてきました。また「都構想」では、大阪府、4つの特別区、167もの一部事務組合(これも地方自治体)、地域自治区という4層の奇怪な構造になることや、分割することそのもので経費が確実に増えること、そして都構想自体に241億円ものイニシャルコスト、毎年30億円ものランニングコストがかかること等から、住民サービスが確実に低下することを客観的な数字を元に丁寧に説明されてきました。それに加え、今回はコロナ禍の中で再度の住民投票が行われようとしています。住民税や固定資産税といった税収が軒並み下がり、逆に保健・医療体制の拡充や経済対策や生活保護の増大等で支出が爆発的に増えることが確実な中、維新の会はコロナの影響を「国から臨時交付金による相応な財政措置が想定される」という根拠もない理由で財政シミュレーションに盛り込まず、逆にコロナを理由に住民への十分な説明もせず、押し通そうとしています。この点について、森教授は「狂っているとしか言いようがない」、「笑うしかない」と強い口調で批判された上、住民投票では市民にとって何のメリットもないことを丁寧に伝え投票に行ってもらうことが大事だと訴えられました。質疑応答の後、大阪市をよくする会事務局次長の中山直和さん、自由法曹団大阪支部事務局長の岩佐賢次弁護士から、それぞれ都構想や住民投票に対峙する取組みについて報告と意見が述べられました。

第二部は、私から2020年度の活動報告と2021年度の活動方針を報告しました。2020年度の特に後半はコロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言による国民、労働者が受けた深刻な影響と、これに対応してきた民法協の活動・課題について重点的に報告しました。その後、①コロナウイルス問題、②非正規雇用等の2つのテーマについて討論しました。①コロナウイルス問題では、大阪医労連の前原嘉人書記長から、コロナ禍における病院職場の過酷な状況、そしてコロナの影響で病院自体が経済的に逼迫している深刻な状況が報告されました。次いで自交総連関西地連の庭和田裕之書記長からは、観光バスやタクシー事業の逼迫した状況、そして労働組合で雇用調整助成金等を活用させ解雇を阻止し生活を守ってきた取組みが報告されました。②非正規雇用等の問題では、西川大史弁護士よりコロナ禍で注目されていないパート有期法を活用した均等待遇の取組みと秋に最高裁で弁論・判決が予定されている旧労契法 条に関する日本郵便事件や大阪医科薬科大学事件の状況について、また加苅匠弁護士からウーバーイーツやヤマハ、コンビニフランチャイズや楽天出品者など「雇用によらない働き方」が広がる中、個人ではなくユニオンを作って連帯して企業に対峙する取組みも広がっていることの報告がなされました。

その後、特別報告として村田浩治弁護士から今年7月に大阪地裁堺支部で判決のあったフジ住宅ヘイトハラスメント事件について、また守口学童労組雇止め事件の原告団より同事件の裁判・労働委員会闘争について報告がありました。

昨年から始まった本多賞の表彰では、今回は2団体が受賞しました。一つは使用者から労働者として扱われず、相談にいった労働局で「あなたは労働者じゃない」と言われたところから始まり、雇用化を方針に掲げて勉強会の末に労働組合を結成し、粘り強い取組みの中で会社の雇用化方針を勝ち取ったヤマハ英語講師ユニオン、もう一つは、労働組合結成後に整理解雇されたことに対し、裁判・労委闘争で勝ち続け、最後には中労委で「現実に就労させなければならない」という画期的な命令を勝ち取り、これを武器に解雇された3名全員の職場復帰を勝ち取ったエミレーツ航空事件の労働組合・弁護団が受賞しました。受賞者のいずれのスピーチも、粘り強い取組みで権利と成果を勝ち取られたことを参加者一同で共有し、また労働組合の力を確信することができた感動的なものでした(本多賞については10月号に詳細を掲載します)。

最後に、決算・予算及び会計監査報告、そして総会の特別決議として、①今こそすべての働く者の権利擁護・生活保障のため連帯を呼びかける決議、②真に必要な規制や対策をしないままの副業・兼業の普及・促進に反対する決議、③コロナ禍での「大阪都構想」住民投票実施に反対し、府民を守る施策を求める決議を、各採択しました。

また新役員の人事案も承認されました。退任は事務局次長の辰巳創史弁護士と事務局の加苅匠弁護士、新任は事務局次長の高橋早苗弁護士と事務局の川村遼平弁護士と中西翔太郎弁護士です。最後に大江洋一副会長から閉会の挨拶をいただき、定期総会は終わりました。

2021年度も、新体制の下で、コロナウイルスによりますます打撃を受ける労働者やフリーランス、市民等を守る取組み、「大阪都構想」の住民投票、安倍首相辞任後に国民による政治を取り戻すたたかいなど、課題が山積しています。コロナ収束の見通しがたたない中で、権利討論集会を含め新たな形での運動を模索する必要があります。引き続きよろしくお願いします。

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