決議・声明・意見書

声明

職員基本条例案の撤回を求める声明

 橋下徹・大阪府知事が代表を務める大阪維新の会は、9月21日、大阪府議会に、「職員基本条例案」(以下、「条例案」という。)を提出した。

 条例案は、都市間競争を勝ち抜くための新たな地域経営モデルに即応できる新たな公務員制度を確立し、「民」主体の社会を実現するために、公務員が地域の「民」のため全力を尽くす、優れた行政機関にすることを目的とするという(前文)。しかし、地方公共団体は、「住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」(地方自治法1条の2第1項)こととされ、地方公務員は、そのような地方公共団体の役割を果たすための仕事をすることが求められているのである。大阪府という地方公共団体は、他の地方公共団体と競争するものでもないし、まして他の地方公共団体を蹴落として、自らが勝ち抜くことを目ざすべきものでもない。条例案の描く自治体は住民の福祉の増進とはまったく無縁のものである。しかもこの間、公務の「民間開放」によって、住民が受けるべき公務サービスが民間営利企業による営利活動の場におとしめられ、そこでは、「官製ワーキングプア」というべき非正規で低賃金の公務労働者が生み出され、住民も非正規公務員も地域で生活することが困難になってきている。条例案は、このような、ゆがめられた地方自治をいっそう押し進めることをねらったものであり、到底容認できるものではない。

 条例案は、①幹部職員(準特別職)の公募制・任期制、②いわゆる成果主義人事評価の徹底、③懲戒・分限処分の基準と公開の基準の制定、④給与水準の切り下げ、⑤組織改廃や民営化等による分限免職の手順等の制定などを定めようとしている。しかし、それは、知事が「お気に入り」の幹部職員を民間から登用してイエスマンで固めるとともに、一般職員については、職務命令と厳罰で恫喝して有無を言わせず、大阪都構想などの自身の推進する政策を実行する部隊にしようとするものである。このような公務サービスの私物化と公務員の支配管理は、住民の福祉の増進のために勤務するという「全体の奉仕者」(憲法15条)としての公務員本来のあり方とはまったく異質のものである。

 加えて、条例案の多くの規定は地方公務員法の「精神」に真っ向から反する。
 上記①は特定の政治勢力による恣意的な登用を可能にするもので、地方公務員法15条に違反する。
 ②や④は民間でさえ失敗している成果主義を公務職場に押しつけ、住民本位の公務サービス提供をゆがめることになりかねない上、職員の給与は職務と責任に基づき、生計費等を考慮して定めるとする地方公務員法24条に違反する。
 また、③のように、機械的な懲戒・分限の基準を定めることは、任命権者の裁量を不当に拘束するものであり、地方公務員法28条・29条に違反する。同各条は、公務の能率の維持およびその適正な運営の確保の目的から処分権限を任命権者に認めるとともに、他方、公務員の身分保障の見地からその処分権限を発動しうる場合を限定したものであり、免職する場合には、特に厳密、慎重であることが要求されるのである(分限について最高裁昭和48年9月14日第二小法廷判決)。相対評価で2年連続して最低のDランク(5%)にされたものを分限免職の対象者とする条例案のもとでは、相対評価である以上は常に「5%」は存在するのであるから、能力や仕事の質に関わりなく、分限免職されることが可能となるわけで、民間であれば解雇権濫用として無効とされるべきものである(セガ・エンタープライゼス事件・東京地裁平成11年10月15日決定)。加えて、氏名等の公表などの見せしめともいうべき強権の発動によって、被処分者の権利を著しく侵害するものである。
 ⑤は整理解雇規制の法理の僭脱であり、地方公務員の身分保障を定める地方公務員法27条2項に反するものというべきである。

 以上のとおり、本来の役割・在り方とかけ離れた地方自治体を創り上げようとする条例案は地方自治を破壊するものであり、また、地方公務員法の「精神」に背いて同法5条1項但し書きにより無効である上、憲法が求める「全体の奉仕者」としての公務員のあり方を損なうものである。このような違法・違憲の条例案を成立させるべきではない。

 よって、大阪維新の会に対し、ただちに条例案の撤回を求めるとともに、広範な府民とともに、条例案の撤回・廃案を求めてたたかう決意を表明するものである。

2011年10月3日
民主法律協会
会長 萬井隆令

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