決議・声明・意見書

声明

思想・良心の自由、労働基本権を踏みにじる調査の即時中止等を求める声明

 橋下徹大阪市長は、9日、野村修也市特別顧問に「労使関係についての調査」を指示するとともに、全職員に対し、アンケートによる同調査に回答するよう職務命令を発した。同調査の目的は、「市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動、組合活動などについて、次々に問題が露呈して」いることから、「労使関係の適正化」を図るためであるという。市の職員が地方公務員法などの関係諸法令に定められた服務規律を遵守すべきことは当然であるが、同調査については、以下に指摘するような重大な憲法上ないし法律上の問題がある。
 すなわち、同調査の調査項目には、勤務時間の内外を問わずに街頭宣伝に誘われたり参加したことがあるか、他の職員から投票依頼を受けたことがあるかなど、職員個人の内心にわたる事項が含まれており、職員のプライバシー権を侵害し、思想・良心の自由(憲法19条)を侵害する思想調査に他ならない。また、組合への加入や組合活動への参加の有無から始まり、組合加入のメリットや不利益、組合に対する評価などを回答させて職員と組合の相互不信を煽ることまで含まれており、組合への支配介入をたくらむ明白な不当労働行為であって、労働基本権(憲法28条)を著しく侵害するものである。同調査は、ひとつひとつ質問項目に答えなければ先に進むことができないシステムが採られた「アンケートサイト」による回答が命じられており、これらの違法な質問項目についてまで回答を強要している。また、職務上の命令として回答が命じられており、回答するか否かによって市長への忠誠さを試す「踏み絵」まがいの調査であり、憲法21条1項に違反する。
 橋下市長は、「市長の業務命令」により調査への回答を要求している。しかし、職務上の命令(地方公務員法32条)は職務に関連したものでなければならない。職員や組合の政治活動は職務に関しないものである上、高度なプライバシー性を有する事項であって、これらを詮索することは市長としての職務権限を大きく逸脱し、明白に違法である。
 橋下市長は、「市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動、組合活動」が発覚したことを調査の契機と指摘する。しかし、違法ないし不適法な行為について調査を行う必要があるとしても、このような職員のプライバシーや政治活動の自由、思想・良心の自由を土足で踏みにじる方法による調査が正当化される余地はない。地方公務員は、地方公務員法36条に定める政治的行為について制約されるほかは、自由に政治活動を行うことができるし、職員組合として、首長選挙において特定の候補者を支援し、政治活動や投票を呼びかけることは、正当な権利行使であって、違法のそしりを受けるいわれはない。ましてや、「不適切」と評して、適法な政治活動を制約する調査を正当化する理由には到底なり得ない。
 このように職務に関連せず、明白に違憲・違法な調査には、職員として応答すべき職務上の義務はないことは明らかであり、回答しなかったことを理由に懲戒処分をすることは許されない。
 同調査は、職員の思想・良心の自由、労働基本権を侵害し、職員組合に支配介入をねらう不当労働行為であることは明らかであり、直ちに中止するよう求める。また、違法な調査に対する回答によって取得したデータをただちに廃棄することを求める。

2012年2月13日
民 主 法 律 協 会
会 長 萬井  隆令

(アンケート調査原文はこちら

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP