弁護士 西川 大史
1 はじめに
建交労関西ダンプ支部の組合員が合同会社UTSに対して、未払賃金や時間外手当の支払を求めたところ、会社は業務委託であることを理由に支払を拒んだため、組合員が提訴しました。大阪地裁第5民事部(小暮紀幸裁判官)は、2025年4月24日、組合員の労働者性を認め、会社に対して、未払賃金や時間外手当全額の支払を命じました。
2 事案の概要
会社は、ヤマト運輸から配送業務を受託しています。当時大学生であった組合員は、大学卒業までのアルバイトのつもりで就労し、同社から軽自動車を貸与され、同社からの指示のもと、1件あたり150円の対価で配送業務に従事してきました。組合員は、2023年11月には約94時間、同年12月には約152時間の時間外労働を強いられ、体調悪化により休業を余儀なくされました。会社は、組合員と会社との間で締結した契約は労働契約ではなく業務委託契約であったと主張するとともに、組合員が業務中に交通事故を起こして会社に損害を及ぼしたため損害賠償金と相殺するなどと主張して、賃金を一切支払わず、時間外手当も支払いませんでした。
3 労働者性を肯定した判決
判決は、労働者性の判断枠組みについて、使用従属性(労務提供の形態や報酬の労務対償性)によって実質的に判断するのが相当であると示しました。また、判決は、組合員は、契約締結当時、学生であり、配送業務について全くの未経験者であったところ、会社から配送業務に使用する軽貨物自動車を貸与され、これを利用して配送業務に従事していたのであり、自己の所有する車を持ち込んで運送業務に従事する者とは異なり、自己の危険と計算の下に業務に従事していたということはできないとも判示しています。
そのうえで、判決は、組合員は、会社が作成した勤務シフトに従って、会社が指定したヤマト運輸の営業所の配送業務に従事していたため、仕事の依頼や業務従事の指示に対する諸否の自由はなかったと判示しました。また、組合員は、指定された担当のエリア・コース内を巡回して荷物を配送していたほか、会社の指示により、配送業務の前後に荷物の仕分け作業や未配送の荷物を倉庫に戻し、配送個数を報告していたため、会社から業務中に個別具体的な業務上の指揮命令を受けていなかったとしても、業務遂行に関する裁量はほとんどなく、時間的、場所的な拘束の程度も相当程度強いと判示しています。さらに、報酬は配送件数に応じて算定されるもので、労務提供の時間に応じて算定されるものではないが、配送件数と会社の売上は比例しており、報酬額の合意は売上に応じた歩合給の合意とみることができるとも判示し、組合員の労働者性を肯定しました。会社からの控訴はありません。
4 会社代表者に対する請求は棄却
本件では、会社からの支払が困難と予想したため、会社代表者に対しても、会社法597条に基づき未払の歩合給及び時間外割増賃金に相当する損害金を請求しました。しかし、判決は、会社に対して割増賃金の支払を請求することができるため、組合員に賃金相当額の損害が発生したとは認められないとして、会社代表者への請求を棄却しました。かかる形式的な判断は妥当ではなく、この点について控訴をしています。
5 まとめ
本件は、その就労実態から労働者性は明らかなケースであり、会社は強行性を有する労働法規の適用回避や濫用を企てて業務委託としたと解するほかありません。判決は、組合員の就労の実態を実質的に捉えたものであり、明快です。昨今、大阪地裁のみならず全国で労働者性を否定する判決が相次いでいます(本件でも、弁論期日で裁判官から、「請負契約に基づく報酬請求はしないということを調書に残します。」と言われ、代理人・組合ともに狼狽しましたが、それは「原告は被告会社に対して賃金請求しかしておらず、賃金請求権に対する相殺は労働基準法24条に違反して無効である」との判断をするための求釈明のようでした。)。本件では労働者性についての適切妥当な判断がなされたことに安堵しています。