弁護士 谷 真 介
1 はじめに
大阪市役所労働組合(市労組)・大阪市労働組合総連合(市労組連)が平成18年以来使用を継続してきた大阪市役所本庁舎地下1階の組合事務所について、平成24年度以降も引き続き使用許可申請をしたことに対し、大阪市がこれを不許可としたことは違法とし、不許可処分の取消し・使用許可の義務付け及び損害賠償を求めていた訴訟(なお大阪市側も明け渡し訴訟を提起。市労組は権利の濫用としてこれを争っていた)で、平成27年6月26日、大阪高裁(第1民事部・志田博文裁判長)は、組合側全面勝訴であった大阪地裁判決を変更し、大阪市の不許可処分について平成24年度のみの違法に留め、平成25年度・平成26年度について適法とし、市労組らに組合事務所の明け渡しを命ずる不当判決を言い渡した。
2 大阪地裁判決と高裁の審理
昨年9月10日の大阪地裁判決では、自治体労働組合が組合活動の拠点として組合事務所を庁舎内に設置する必要性があることを出発点とした判断枠組みを採用した上で、本件組合事務所の明け渡しにおける橋下市長の団結権侵害の意図の存在及びこれがその後も一貫して継続していたことを認定し、一連の使用不許可処分を全て違法と判断した。そして、明け渡し通告の後に市議会で成立した労使関係条例12条(労働組合に対する便宜供与の全面禁止)については、同条例が適用されなければ違法とされる大阪市の行為を適法化するために適用される限りにおいて、憲法28条又は労組法7条に違反して無効であるとして適用違憲の判断をし、組合を勝訴させた。
この地裁判決に対し、「地裁ごときの判断で市長の判断が覆されるべきではない」として、橋下市長は控訴。高裁で、大阪市側は、橋下市長は「健全かつ適正な労使関係」を志向しただけで団結権侵害意図はないという独自の主張に終始し、労使関係条例の違憲・違法性については、主張らしい主張はしなかった。目的外使用許可の違法性の判断枠組みの一般論に関して大阪大学の小嶌典明教授の意見書が提出されたが、組合側はがっぷり四つで論争を行い、3回の弁論で平成27年3月に高裁での審理が終結した。
判決直前の6月2日、同じく橋下市長から組合事務所の退去を求められ、退去しながら争っていた自治労・大阪市労連の事件で、大阪高裁14部(森義之裁判長)が地裁判決を変更し、平成24年度の違法に留める逆転判決を言い渡し、市労連・大阪市ともに上告せず確定していた。なりふり構わない大阪市は、同判決とその確定証明書を結審している市労組の事件に「上申書」に添付して提出するという暴挙に出た。組合側は、かかる大阪市の行為は裁判官の独立を侵害し、また民訴法上も違法である旨の意見書を提出し裁判官に面談を迫ったが、裁判官は判決言い渡しまでこれを無視するという、不穏な空気の下で高裁判決の日を迎えた。
3 大阪高裁判決
大阪高裁判決は、自治労・市労連の高裁判決と全く同じ結論(平成24年度のみ違法、25年度・26年度は適法)であり、言い渡し後の法廷には「不当判決!」の声が上がった。というのも、市労連と異なり、市労組らは組合事務所を明け渡さずに闘っていたのであるが、その組合事務所の明け渡しを命じるという、許し難い判決であったからである。またその判決理由も、大阪市の主張を丸呑みする(あるいはそれ以上の)酷い内容であった。
高裁判決は、①行政財産の目的外使用許可の裁量権行使の判断枠組みについて、市長に極めて広範な裁量権を認め、(違法行為であるはずの)不当労働行為が認められたとしても、それだけでは不許可の違法性は認められないとまで言い切った。また、②橋下市長の団結権侵害(支配介入)について、橋下市長は労働組合の活動を市民感覚に合うように是正改善していく方針であったことから、組合に対する支配介入の意思を有しているとまでは認められないとした。そして、③労使関係条例12条(便宜供与の一律全面禁止)の違憲・違法性について、憲法28条や労組法7条には違反せず適法であるとし、一方で同条例を前提にしても市長が議会から責任追及されることを覚悟で使用許可することも理論上は可能であるとしつつ、本件では市庁舎に行政スペースが不足していたという誤った事実認定を下に、平成25年度・26年度の各使用不許可処分を適法とした。なお、条例施行前の平成24年度の使用不許可処分に関しては、明け渡し通告が性急すぎたことのみを理由に違法とし、市労組らへ各11万円の損害賠償を命じている。
しかし上記判断のうち、①は、憲法28条の労働組合の団結権保障に基づいて庁舎内に継続的に組合事務所を使用してきたことの実態を全くみず、その重要性を市長の裁量権行使の考慮要素として著しく軽視するものである。また②は、団結権侵害(支配加入)は、使用者の行為が労働組合の活動に与える影響やその影響についての使用者の認識・意図、使用者の行為の必要性・相当性、労使関係の経緯などの事情から客観的に判断されるべきものであるにもかかわらず、橋下市長の言説の一言隻句をとらえて不当労働行為性を否定するという極めて非常識な判断である。また、仮に橋下市長の言説を前提にしたとしても、一方当事者である使用者が他方当事者を不適正と一方的に判断してその組織・活動に影響力を行使する行為は、自主性・独立性を奪う支配介入行為そのものであることを看過している。さらに、③は、労働組合の団結権保障に基づく組合事務所の使用を軽視するものであり、少なくとも継続的に供与をしてきた組合事務所を廃止する際に、便宜供与を一律全面禁止をしている同条例を理由に不許可処分を下すことは、団結権を保障した憲法28条や労組法7条3号に違反する結果となるはずである。
結局のところ、高裁判決には、「行政は悪をなさない」という強固な意思が貫徹されており、平成24年当初の橋下市長就任下での大阪市役所の異常な労働組合攻撃の実態を無視した、全く世間離れした判断といわざるをえない。
なお、この判決を言い渡した志田裁判長(修習34期)は、前週にも公務災害の遺族年金に関する男女格差の違憲性を問う裁判で、逆転合憲判決を言い渡していた。2週連続、大阪地裁第5民事部の違憲判決を覆して行政側を勝たせたわけであるが、何と本判決の5日後、定年まで数年を残したまま、突然依願退官している。
4 最高裁での逆転勝利に向けて
7月2日、市労組らは最高裁闘争でこの不当判決を絶対に覆す決意のもとで最高裁に上告した。すでに平成27年度の使用不許可処分を受けている苦しい状況下であるが、この点に関してももう一度何としても地裁でも勝利し、最高裁で上告を受理させるために弾みをつけなければならない。
この橋下維新による議会とも一体となった組合事務所攻撃は、すべての労働組合に向けられた攻撃である。市労組と大阪自治労連、弁護団は、さらに団結を強固にし、全国の労働者・労働組合と連帯を深め、この不当判決に屈さず、大阪市庁舎の組合事務所を守り抜く決意である。是非とも、皆様の知恵とお力をお貸しいただきたい。
(常任弁護団は、豊川義明、大江洋一、城塚健之、河村学、増田尚、中西基、谷真介、喜田崇之、宮本亜紀)