弁護士 加苅 匠
1 はじめに
本件は、セブン-イレブン本部が、時短営業に踏み切ったり、元旦休業を予告するなど、コンビニオーナーの窮状を世論に訴える取組みをしていたセブン-イレブン東大阪南上小阪店(以下、「本件店舗」といいます。)オーナーの松本実敏さんとの間の加盟店基本契約(以下、「加盟店契約」といいます。)を、2019年12月31日付けで解除したことで発生した事件です。
セブン-イレブン本部は、2020年1月17日、松本さんに対して、加盟店契約の解除が有効であることを前提に、店舗及び土地の引渡し、加盟店契約解除の約定損害賠償額約1450万円の支払い、店舗が引き渡されないことによる損害の支払いを求めて大阪地裁に提訴しました。
これに対し、松本さんは、2020年2月12日、セブン-イレブン本部に対して、加盟店契約の解除は無効であるとして、加盟店契約上の当事者としての地位の確認、取引拒絶の排除等を、取引拒絶による逸失利益の支払いを求めて大阪地裁に提訴しました。
現在、両事件は大阪地裁第25民事部に係属し、併合審理されています。
従前は民法協会員でない弁護士が代理人を務めていましたが、本件の仮処分事件が一段落した9月初旬、松本さんの意向で新たに民法協会員弁護士による弁護団が結成され、本事件に取り組むこととなりました。
2 訴訟の争点、事案の概要
(1) 本件訴訟の争点は、本部による加盟店契約解除の有効性です。
本部は、①松本さんの「異常な顧客対応」、②松本さんによるツイッターを使った「本部及び経営陣に対する誹謗中傷」が加盟店契約に違反するため契約上の解除事由に該当し、加盟店契約の継続が困難な程度まで信頼関係が破壊されたと主張しています。特に主張①「異常な顧客対応」について、本件店舗に寄せられていた苦情の問題が大問題であったかのように主張し、苦情に関する大量の書証を提出しています。
(2) しかし、本件事案を時系列に沿って整理すると、解除事由①は、本部が松本さんとの契約を解除するための口実にすぎないことは明らかです。
すなわち、松本さんが経営を開始した2012年から深刻な人手不足を理由に本部の反対を押し切って時短営業に踏み切った2019年2月1日までの約7年間において、本部が松本さんの顧客対応や寄せられていた苦情について契約解除を示唆したり強く指導したりすることは一度もなく、それどころか現場対応の苦労に理解を示すことが多々ありました。
ところが、松本さんが2019年2月1日に人手不足を理由に時短営業に踏み切ると、本部はこれまでの態度を一変させ、時短営業を理由に契約解除を示唆する通知を行いました。また、突然、松本さんの顧客対応についても問題視し始め、是正を求めだしました。
時短営業を理由とする契約解除については、この問題が大きく報道され、契約解除を主張する本部への批判が強まった結果、同年3月11日に撤回されました。
その後、本部は、松本さんとの間で引き続き日曜営業や加盟店契約の見直しについて協議を重ねていたのですが、その裏では、本件店舗への苦情に着目して、本件店舗を隠し撮りするなど内密に証拠集めを重ねていました。
2019年10月28日、松本さんは2020年1月1日を休業したいとの意向を公表し、元旦休業を後押しする世論が形成され、本件店舗の動向について注目が集まっていました。
そんな中、本部は、12月20日になって突然、これまで内密に集めてきた証拠をつきつけ、「10日以内に破綻した信頼関係を回復する所要の措置を取ること」を催告し、措置を執らなかった場合には同年12月31日をもって解除すると通告しました。松本さんは、わずか10日間の催告期間は短すぎると延長を求めましたが、「契約書に書いてある」の一本槍で聞く耳を持ちませんでした。松本さんは、ツイッターアカウントを削除し、顧客対応を改める旨の誓約書を提出するなど信頼関係回復のために努力しましたが、相手にして貰えず、そのまま契約の解除が強行されてしまいました。
本件店舗への苦情があれば、その度に松本さんに伝え、苦情が出ないよう改善を求めるのが筋です。それをせず内密に証拠集めをしていたのは、世論に訴える形でコンビニオーナーの権利を擁護する取組みをしていた松本さんとの契約を解除するための口実が必要であったからと考えるのが自然です。また、短すぎる催告期間を設定して年末までの解除に固執したのは、何としても元旦休業は阻止したいという考えが背景にあったものと思われます。
(3) また、松本さんのツイッター投稿について、本部は投稿の一部を切り取って誹謗中傷だと主張していますが、これらの投稿は世論の支持を背景にしなければ本部と対等に交渉することはできないと判断して行われたものです。上記経過・交渉過程に鑑みれば、松本さんが世論を味方につけるために表現の自由の範囲内で行ったものにすぎません。
(4) 今後の裁判では、以上のような経過でなされた契約解除には理由がなく、優越的地位の濫用にもあたり無効であることを主張立証していく所存です。
3 松本さんだけでなく全国のコンビニオーナーの問題です!
本件は、松本さんの店舗だけの問題ではなく、コンビニ会計問題や人員不足問題に悩み、長時間労働を強いられている全国のコンビニオーナーに共通する問題です。コンビニオーナーの権利擁護・働き方の改善のために声を上げた松本さんが弾圧されるようなことはあってはなりません。
ぜひ、松本さんの裁判にご支援・ご協力をお願いいたします。「セブンイレブン・松本さんを支援する会」も発足されましたので、関心のある方はHPをご覧下さい。
(弁護団は、大川真郎、坂本団、西念京祐、喜田崇之、加苅匠)