民主法律時報

2023年権利討論集会 分科会報告

第1分科会
激動する社会情勢と裁判・労働委員会闘争

     弁護士 原野早知子
     弁護士 片山 直弥

 第1分科会は、「激動する社会情勢と裁判・労働委員会闘争」をテーマにパネルディスカッション形式で2名の方からお話を聞きました。

 前半は「組合活動家に訊く――労働組合として争議支援にどう取り組むか」をテーマに、組合専従者である荻田智さん(全日本建設交運一般労働組合大阪府本部・書記長)をゲストに討論しました。

荻田さんが専従となった経緯に始まり、専従として行った争議支援についてお話いただきました。法律を全く知らなかったという荻田さんが、少しでも困った人の力になりたい、という思いで、本を買い、労基署の配布資料などで勉強したという姿勢には見習うべきものがあります。また、荻田さんの団交に臨む姿勢(例えば、交渉困難な相手からは裁判や労働委員会となった際に有利になるよう回答・資料等を引き出して記録化するなど)、団交以外の抗議宣伝等についての考えも大変参考になりました。

 後半は「組合の情宣活動と注意点」をテーマに、ジャーナリストの北健一さん(出版労連本部・書記次長)をゲストに討論しました。

組合・組合員の情宣活動や記者会見等での発言に対して、使用者企業から損害賠償請求されることがあります。裁判例を踏まえ、組合・組合員が注意すべき点を検討しました。基本として民事・刑事免責が得られる「労働組合の活動」として行うこと、内容は労使関係に関わる事実や要求であることを示すこと、使用者の立場に立って検討したり弁護団にも相談することなどが挙げられました。

和解時の口外禁止条項についても取り上げました。口外禁止条項がつくと、労働者の間で教訓を共有出来ないという決定的な問題があります。社会の関心を高め条項を盛り込ませないことが第一ですが、出来るだけ限定的にするため、口外禁止の対象から組合を除外することや、内容を限定することを追求すべき等の意見交換をしました。

 分科会参加者は 名(会場43名、Zoom12名)でした。初参加した争議の当事者の方が「こういう場があることを知らずに働いてきた。もっと早く知りたかった」と発言され、集会の意義を再確認しました。分科会で共有した内容を今後の闘いに活かしていきたいと考えています。

 

第2分科会
許すな雇止め! 目指せ均等待遇! 取り戻せ直接雇用!

     弁護士 西川 裕也
     弁護士 佐久間ひろみ

 第2分科会では「許すな雇止め! 目指せ均等待遇! 取り戻せ直接雇用!」をテーマに、大きく3つのテーマで事件報告や議論を行いました。参加者は46名(会場35名、Zoom11名)であり、全体会で記念講演をいただいた川村先生にも参加いただき、大変盛りだくさんな企画となりました。

2 雇止め問題に関する取組み
鎌田幸夫弁護士から、大阪高裁で逆転勝訴判決となった羽衣国際大学事件の報告を受けました。任期法関係の訴訟は、労働者に厳しい判断が続いていたこともあり、重要な意義を有することが確認されました。

次に、大阪大学事件について、中村和雄弁護士と新屋敷健さんからご報告をいただきました。大阪大学は、非常勤講師との契約は請負契約であるなどとして労働者性すらも争う姿勢を示しており、これから本格的な戦いが始まる状況です。

会計年度任用職員の問題について、大阪自治労連の坂田俊之さんから、大阪府下における公務員の雇用実態の調査結果が報告され、多くの自治体において会計年度任用職員の割合が高いこと等が明らかになりました。

3 均等待遇に向けた取組み
均等待遇に向けた取組みとして、西川裕也弁護士から、パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の結果について報告が行われ、不合理な格差の禁止や同一労働同一賃金の原則について、労働者に周知・説明することが大切であるとの報告がありました。

さらに村田浩治弁護士から、派遣特有の問題についての報告と、派遣研究会で取り組んでいる労使協定方式の場合に利用できる平均賃金計算エクセルシートの作成及び活用についての報告がありました。

4 直接雇用に向けた取組み~みなし制度~
最後に、派遣法40条の6の労働契約申込みみなし制度をテーマとして、事件報告を行いました。

全港湾日検事件について増田尚弁護士と当事者からの報告、竹中工務店ほか二重偽装請負事件について西川翔大弁護士からの報告、未だ職場復帰をさせない東リ偽装請負事件に関する安原邦博弁護士と当事者からの報告、派遣労働者を直用化する協定を締結する等しているKBS京都労働組合からの報告がなされました。

この間の派遣労働をめぐる弁護団活動と組合運動について活発な報告がなされたことにより今後の活動の目標と課題が明確になりました。


第3分科会

いのちと健康を守る

     弁護士 垣岡 彩英

第3分科会は、「いのちと健康を守る」をテーマに行いました。上出恭子弁護士の司会のもと、最初に、参加者全員が簡単に自己紹介をしてから、報告と議論に移りました。まず、松丸正弁護士に、労災認定に対する事業主の不服申立制度導入問題についての問題提起をいただきました。事業主の不服申立制度が導入されれば、労災支給処分そのものが争われかねないとして、遺族・労基署・労災防止措置が委縮してしまうとの問題意識を、力強く語っていただきました。次に、川村遼平弁護士に労災認定上の労働時間概念について、水町教授の論文を解説いただきました。労働基準法上の労働時間と、労災認定上の労働時間について、水町教授の論文をわかりやすくコンパクトにまとめて解説いただき、労働時間についての理解が深まりました。次に、改定される改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)について、中西翔太郎弁護士に解説していただきました。中西翔太郎弁護士には、パワーポイントで図などを示しながら、改善基準告示の内容と問題点を非常にわかりやすくご説明いただき、また、改定された改善基準告示の問題点も鋭くご指摘いただきました。そして、自交総連大阪地連書記長の庭和田裕之さんに、運輸業界のリアルな現場の実態を力強くお話いたただきました。改善基準告示が改定される経過のお話もお聞きすることで、労使のせめぎ合いがありつつも、厚労省の無責任と言わざるを得ない対応について、活発な議論ができました。

第3分科会参加者は合計33名(内訳:会場16名、Zoom17名)で、法曹関係者や労働組合員、過労死事件の当事者を中心に、学生やマスコミ関係者など幅広い方にご参加いただきました。過労死を考える家族の会の方や支援者の方からもお話をいただき、活発な議論ができたのではないかと思います。参加者全員が、いのちと健康を守るための取組みを継続して行こうとの決意を新たにして、分科会を終えました。


第4分科会

中小企業・フリーランス保護のこれから

      弁護士 西念 京祐

第4分科会は、「中小企業・フリーランス保護のこれから」をテーマとしました。

まず、労働政策研究・研修機構(JILPT)の呉学殊さんから「フリーランスの就業実態と政策課題」について基調報告を頂きました。労働者性という視点から3つの事例を取り上げて頂きましたが、中でも、ホテル支配人の業務委託の事例について、実態は明らかに雇用であるのに、契約書上の位置づけによって、フリーランスと偽装され、労働法上の保護が及ばないものと扱われている問題(名ばかり事業主)の深刻さがよく伝わりました。

その後、清水亮宏弁護士からフリーランス新法を巡る情勢と問題点について報告されました。同法を巡る国会情勢が大きく動いている最中でしたが、下請法の制限を取り払うなど、若干の進歩はありつつも、課題の残る新法になりそうで、今後も注視していく必要があることが確認されました。

続いて、この間の独禁法研究会の関与する各事件の取り組みが報告されました。

松浦章さんからは、損保代理店のポイント制問題について院内集会の新聞記事を配布しての報告があり、この問題を知らなかった参加者らに一方的なルール変更について驚きが広がりました。ECCジュニアホームティーチャーユニオンから、ユニオン設立の経緯や広がり、本部が契約書の一斉変更を進めようとしたことに抵抗し、一定の成果をあげたことについて報告がありました。東大阪セブンイレブンの松本実敏さんからは、裁判の状況や他のコンビニオーナーの苦境についての報告、ヤマハ音楽講師ユニオンからのメッセージや、同英語講師ユニオンからの経過報告もなされ、この1年の間に、様々な取組みが積み重ねられていたことがよく感じられました。

これらの当事者からの報告に対して、木村義和愛知大学教授や、伍賀一道金沢大学名誉教授からの総括コメントも頂き、法に基づくカテゴリーが違うことがあっても、生活のために働く者たちの共通する利益のために、引き続き取り組んでいくことの必要性が確認されたよい企画となりました。

参加者は33名(会場24名、Zoom9名)でした。


第5分科会

ケースで学ぼう! ハラスメント問題

                      弁護士 藤井 恭子

ハラスメントは、民法協の労働相談ホットラインなどにおいても、近年、最も数多く相談が寄せられている問題です。一方、相談者の立場からすると、ハラスメントと言えるものなのかを判断することが難しく、相談者に対してどのような対応を取ることを助言するのか悩むことも少なくありません。

第5分科会では、目玉として、グループディスカッションを行い、参加者に積極的に議論をしてもらいました。

前半は、パワハラ及びセクハラ・マタハラをテーマに、指針の解説や事件報告をしてもらった後、架空の相談事例を題材に、グループディスカッションを実施しました。

参加者は、相談内容を読んだ上で、①追加でどのようなことを質問するか、②パワハラ・セクハラにあたると思われるのは、どのような事実か、③今後どのように対応するべきか、について 分間議論をしました。

私が参加したグループでは、①や②について、参加者の経験に基づく様々な意見が出され、今後、ハラスメントの相談に対応する際の参考になる議論となりました。
一方、③の検討においては、相談者に対してどのような助言をするべきか、答えが出ないグループもあり、ハラスメント相談の難しさを改めて感じました。

後半では、コロナハラスメント(コロハラ)訴訟当事者による事件報告があり、ハラスメントを受けたときの気持ちや、訴訟の感想、解決したときの気持ちなどを率直に語っていただきました。

コロハラをテーマにしたグループディスカッションでは、事業所が、コロナに関する知識を可能な限り取り入れた上で、休業や出勤の基準等を定め、従業員に示しておくことが重要であり、前提としての、会社と従業員のコミュニケーションの重要性を感じました。

分科会は時間が限られており、もう少し長く、議論と到達点の報告を行う時間を取って、ハラスメント相談やハラスメント対応について深めたかったと感じましたが、ハラスメントの判断や、相談時の聞き取りについては、参加者から様々な意見を聞くことができ、意義のある分科会となりました。

参加者は36名(会場31名、Zoom5名)でした。

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