民主法律時報

労働相談懇談会 「骨抜きにされた労働者派遣法をどのように活用するか」学習会

弁護士 中 村 里 香 

 6月8日、国労会館において、労働相談懇談会が行われた。

 初めに、地域からの相談事例として、雇われ店長かフランチャイジーかという労働者性に関わる問題と、パワハラ・退職強要に関する問題が提起された。

 次いで、西川大史弁護士より、「最近の労働裁判に見られる特徴」として労働情勢の報告がなされた。
 昨今の労働裁判といえば、まず目を引くのは何と言っても、「大阪市問題」の関係である。
 3月の動きとしては、14日には、市庁舎内事務所の退去問題について、事務所の継続利用を求め、市労組が大阪市を提訴、16日には同じ問題で市労連が府労委に救済申立て、29日に市労組が救済申立てを行っている。また、同月23日には、大阪教育合同労組が、教職員に君が代の斉唱を義務づける市条例に関する団交を市が拒否したことについて、府労委に救済申立てを行っている。
 また、4月の動きとしては、6日には、事務所退去問題につき市が団交を拒否したこと、16日には、大阪市がチェックオフを廃止することをそれぞれ不当労働行為として、市労連が府労委に救済申立てを行った。
 さらに、19日には、事務所退去問題について、市労連が損害賠償を求めて大阪市を提訴、24日には、同じく市労連が、アンケート問題で大阪市と野村修也弁護士(元大阪市特別顧問)を提訴している。
 これに対し、5月10日、大阪市が事務所の明渡しを求めて2労組を提訴しており、労組側は現在も大阪法務局に使用料を供託した上で、事務所を使用して闘っている。
 大阪市問題については、このように時系列にしてみると、改めて紛争の多さを実感する。刻一刻と変わる情勢について、時機を失することなくフォローしていきたい。
 これ以外では、3月28日の泉南アスベスト2陣訴訟の判決及び一連の対企業アスベスト事件、3月29日・30日のJAL不当判決などが目を引く。
 また、5月25 日に提訴された、公務員給与を削減する臨時特例法が違憲であるとして、国家公務員約240人が国に対し給与減額分の支払い等を請求している事件(東京地裁)などを始め、公務労働関連の動きも比較的多くみられる。

 次に、大西克彦弁護士、村田浩治弁護士より、「骨抜きにされた労働者派遣法をどのように活用するか」と題して講演が行われた。
 「骨抜き」とはいえ、確実に前進した点もみられ、今後活用できそうな部分に注目していくと、まずは、1条で「目的」として「派遣労働者の保護」という字句が加わったことは重要であろう。これは、派遣法が、職安法とあいまって労働者を保護する法律であるという位置づけを明確にしたものであり、派遣法違反から私法上の効力や損害賠償請求権が導きやすくなると考えられる。
 また、29条の2において、派遣先都合による労働者派遣契約の解除にあたって派遣先が講ずべき措置が明文化されたこと(特に、休業手当の負担について具体化されたこと)も、一定の意義を有する。この点については、派遣先の団交応諾義務も否定できなくなるであろう。但し、契約期間満了による終了の場合には、この規制が働かないと解釈されるおそれもあり、注意が必要である。
 このほか、労働者派遣の料金額についても、派遣労働者に明示することが定められ、派遣元のマージン率が明らかにされることになる。
 そして、最大の改正点はやはり、限界があるとはいえ、40条の6で「みなし労働契約申込み」が定められたことであろう。
 具体的には、派遣先が、
 ①派遣禁止業務への派遣
 ②無許可・無届派遣元事業主からの派遣
 ③派遣受入期間制限違反の派遣
 ④偽装請負
の各違法行為を行った場合には、その時点で、派遣先が派遣労働者に対し、労働契約の申込みをしたとみなされることになる。この「みなし申込み」に対し、派遣労働者が承諾の意思表示をすれば、派遣先との間で、派遣元事業主との労働契約と同一の労働条件を内容とする労働契約が成立することとなる。
 また、派遣先は、労働契約の申込みに係る行為が終了した日から1年を経過する日までの間は、申込みを撤回することができないとされる。したがって、例えば「派遣切り」の相談があり、事情を聴取して期間制限違反が判明した場合には、「派遣切り」に遭ってから1年以内に派遣先に対し承諾の通知を送る、といった対応をすることになろう。
 派遣先は善意無過失により免責されるとされるが、派遣先がそれなりの規模の企業である場合には、善意無過失が認定されることは考えがたいのではないかと思われる。
 問題は、この規定については施行が遅らされており、2015年とされていることである。
 改正派遣法の施行を前に、「派遣切り」や、不当な条件での有期・請負への切替えなどが横行することも予想され、今後の動きに注目する必要がある。
 この点に関し、村田弁護士からは、「切られてから慌てて動いたのでは遅い。今までの裁判例をみても、派遣就労中に組合に加入して対応を行うことが肝要で、そのようなケースでは、裁判闘争でも一定の成果を上げてきた」との話があり、施行までの期間の重要性が強調された。

 期待も大きかっただけに、「骨抜き」と評されることも多い改正労働者派遣法。しかし、派遣労働者保護という立法目的が明文化されたこと、また、限定的とはいえ、みなし雇用が認められたことの意義は決して小さくはない。
 改正労働者派遣法を最大限に活用することで解決可能も今後出てくることを考え、施行に向けて、学習・取組を進め、準備万端で施行の日を迎えたい。

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