民主法律時報

2019年第2回新人学習会のご報告

弁護士 西川 翔大

1 第2回新人学習会の概要
2019年3月27日、大阪弁護士会館1205号室において、京都第一法律事務所の渡辺輝人弁護士を講師にお招きして「労働時間法制と割増賃金請求実務」というテーマで第2回新人学習会が開催されました。

渡辺弁護士は、労働者側で労働事件に多数関与し、残業代計算ソフト「給与第一」を開発し、最高裁も使用を推奨する「きょうとソフト」の開発にも大きく寄与されるなど残業代請求事件実務で大変ご活躍され、最近では「残業代請求の理論と実務」という著書も出版されていることから、今回の勉強会は新人弁護士や司法修習生だけでなく、経験のある弁護士や労働組合、事務局の方々など総勢24名もの方々に参加していただき、注目の高さが伺われました。

2 労働時間と立証方法について
まず、労基法上の「労働時間」に関する最高裁(三菱重工長崎造船所事件(最判平成12年3月9日))の判断基準を確認した上で、具体的に労働時間該当性が争われた裁判例を複数検討しました。現時点では、出張のための休日中の移動時間や持ち帰り残業時間は労働時間該当性が否定される傾向にあるものの、渡辺先生の裁判例への疑問点や見解を受けて、今後争う余地が十分にあるように感じました。

また、「労働時間」の立証方法については、①記録の対象となる時間の労働時間近接性、②記録の正確性という2つの視点を軸に証拠の分類を行った上で、類型的な証拠の信用性を緻密に検討するものであり、今後の立証活動に参考になるものでした。また、決まりきった証拠はないという前提のもと、粘り強く証拠の収集や分析を続けることの重要性も学びました。

3 残業代の計算・固定残業代について
次に、割増賃金請求の計算式、月給制の賃金単価の算出方法や、請負制(歩合給)賃金の賃金単価の算出方法等、割増賃金請求事案に対応するために必要な知識を整理していただきました。賃金の種類をきちんと把握し、計算方法を概念的に身につけることの重要性を説かれました。

さらに、固定残業代については、制度の由来から従来の裁判例や最高裁判決、学説の状況に至るまで詳細な説明がなされました。賃金の性質の見解の対立を踏まえて、現在の固定残業代事件の実務が混乱している要因を分析されました。

4 終わりに
今回の渡辺先生による講義は、残業代請求実務のいろはを余すことなくお伝えいただき、新人弁護士にとっては残業代請求事案に関するこれ以上ない学習会となりました。民法協では、毎月各種の研究会が実施され、日々の業務にも大変参考になる議論がなされておりますので、今後も是非各種研究会にお越し下さい。

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