民主法律時報

緊急学習会「アベノミクス雇用規制緩和を斬る!」を開催

弁護士 中 村 里 香

 6月27日、大阪弁護士会館にて、大阪市立大学の根本到教授を講師として、「アベノミクス雇用規制緩和を斬る!」と題した緊急学習会が開催された。以下に、内容の概略を報告する。
 アベノミクスは、「3本の矢」として、金融緩和、財政出動、成長戦略を掲げている。
 このうち、3本目の矢である成長戦略において、「規制緩和」の1つとして、雇用規制緩和が掲げられ、経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制改革会議の各会議で議論されている。
 「規制改革に関する答申」やこれを受けた「規制改革実施計画」においては、「ジョブ型正社員」(限定正社員)や、労働時間法制の見直し(企画業務型裁量労働制など)、労働者派遣制度の見直しが掲げられている。中でも、「ジョブ型正社員」は、解雇規制緩和や、有期契約労働者の無期転換後に活用することなど労働条件の引き下げと結びつけられて論じられており、注意が必要である。

 これらの会議のメンバー構成は、不公正である。例えば、産業競争力会議の議員には、竹中平蔵氏や楽天の会長である三木谷浩史氏など大企業の経営者が名を連ねている。一方で、労働者側を代表する委員や、中小企業の経営者は、1人も選ばれていない。このようなメンバー構成では、労働者保護の視点に欠けた、企業側の構想のみが前面に出てくるのは当然といえる。しかも、単に経済界の利益が強調されるにとどまらず、新自由主義的動向が、露骨に示されている。

 これらの会議で議論されている内容は、抽象的なものばかりである。そのため、狙い、方針は一見して明確ではなく、批判は難しい面もあるが、以下のようなことが論じられている。
 まず、前記のとおり、「規制改革に関する答申」においては、「正社員改革」として、「ジョブ型正社員」が挙げられ、その「雇用ルールの整備を行うべき」とされる。また、労働時間法制については、企画業務型裁量労働制の弾力化やフレックスタイム制の見直し、管理監督者等の労働時間規制に関する適用除外制度が挙げられている。また、「民間人材ビジネスの規制改革」としては、派遣労働につき、「常用代替防止」から「派遣労働の濫用防止」への方針転換が挙げられている。

 前記の「答申」においては、解雇の金銭解決制度(違法な解雇であっても、判決で、原職復帰の代わりに、使用者が一定の金銭を支払えば労働契約を終了させる制度)については、「丁寧に検討を行っていく必要がある」とされている。
 このように解雇規制が攻撃される論拠として、日本の解雇規制が厳しいとの指摘が財界からなされる。しかし、OECDが行った2008年の調査結果においては、日本の解雇規制の強さは、30か国中24番目とされており、解雇規制が緩やかだと理解されているデンマークを下回る。正規雇用に限っても、30か国中18番目にすぎない。正規雇用のうち、「解雇の困難性」だけは1位と高いが、これは、解雇後に提訴する際の出訴期間に制限がないことが高い評価を受けている結果でしかない。このような現状において、解雇の困難性を理由に、金銭解決制度を導入する必然性は全く存在しない。金銭解決制度が存在するドイツでも、同制度は「存続保護法であって、補償法ではない」と位置づけられており、解雇規制の緩和としては位置づけられておらず、実際にも、非常に厳格に運用されている。
 一方で、日本の現行制度のもとでも、職場復帰を求めない労働者について、金銭解決によることは可能である。また、日本で金銭解決制度を認めると、違法解雇の追認になりかねないのみならず、労働契約関係に関してこれまで形成されてきた法理をゆがめる危険が大きい。使用者主導の形を容認すると、とりわけその危険は大きく、「金さえ払えば解雇可能」との理解を与えることになろう。

 また、限定正社員(ジョブ型正社員)についても、注意が必要である。
 平成23年に発足した厚労省の「『多様な形態による正社員』に関する研究会」においては、限定正社員に関する研究が進められ、特に整理解雇法理等の緩和に重点が置かれてきた。これまでの裁判例では、勤務地限定のある労働者についても、一定の解雇回避努力が必要とされている。確かに、いわゆる無限定正社員の場合よりも、解雇回避努力や人選の合理性といった要件が認められる例が多いが、人員削減の必要性や手続の相当性については、全く変わらない審査がなされている。にもかかわらず、限定正社員であれば勤務地や職種がなくなれば解雇できるかのように議論されているのは、正社員のワークライフバランスが真意ではなく、解雇規制の緩和の突破口と位置づけていることの端的なあらわれである。

 「限定正社員」を制度化する動きに対しては、立法化やそれに準ずる措置については、断固として反対すべきである。また、労働者が個別合意を求められた場合など、一部の正社員を「第二正社員」に落とし込む動きには警戒すべきであり、労使交渉で阻止することが求められる。

 さらに、企画業務型裁量労働制の拡大については、日本経団連等が緩和を求めているが、長時間労働に直結するものであり、どれ1つとして賛成できない。フレックスタイム制の規制緩和についても労働時間規制の緩和そのものであり、同様の危険がある。
 
 最後に、派遣労働規制等の緩和についても、日本商工会議所などから「常用代替防止」の見直しを求める声があるが、常用で雇用したければ直接雇用すればよく、筋違いの提案というほかない。また、民間人材ビジネスの推進による労働環境の一層の悪化も懸念される。

 総括すると、自民党右派による政権交代が実現し、ここ数年で規制の強化が進んだことへの反動として、今回のような新自由主義的改革の復権がみられるようになったといえる。
 労働者側からは、断固反対すべき内容であることに疑いはなく、規制強化を推進し、人間らしく働ける社会をこそ構想すべきである。また、正社員の多様化ではなく、非正規と正規の格差是正にこそ、力が注がれるべきであろう。

 講演後、派遣労働研究会の高橋早苗弁護士、JMIU大阪地本執行委員の林田時夫さん、大阪過労死問題連絡会の上出恭子弁護士より、それぞれの立場から会場発言がなされた。
 高橋弁護士からは、派遣労働の実態を省みない乱暴な規制緩和であり、改正派遣法を巻き戻すものであるとの発言があり、林田さんからは、徹底した雇用破壊・賃金破壊への道筋が見え、とくに現業労働者の労働条件が切り下げられる危険性を感じる、また、労働組合の弱体化に拍車がかかるとの発言がなされた。上出弁護士からは、企画業務型裁量労働制、フレックスタイム制を導入したとしても、名ばかり管理職、サービス残業の横行、杜撰な労働時間管理、といった現状を変えずして、過労死は絶対に防げないとの発言がなされた。

 最後に、民法協の増田事務局長より、雇用規制緩和を断じて許さないために、雇用規制緩和の中身とねらいについての学習と、このような動きを許さないための運動に取り組むという行動提起がなされ、採択された。

 組合の方のご参加が目立ったが、労働事件に取り組む弁護士としても、最新の情勢に目を向けることができ、非常に有意義であった。正社員の「無限定」な働き方を是正し、非正規社員の権利の底上げを図るという雇用規制の徹底に向けた運動に生かしていきたい。

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