弁護士 喜田 崇之
1 はじめに
滋賀県で保険代理店を経営する原告が、平成16年4月から、東京海上日動火災保険株式会社(以下、単に「東京海上」という。)と損害保険代理店委託契約を締結し、その後、報酬について一定の合意をしていたにもかかわらず、令和7年度に、合意していた報酬額から一方的に約2割以上も減額する対応をされたことに対し、令和7年12月11日、大津地方裁判所に対し、2割の減額が違法であるとして損害賠償を求める提訴をした。以下、事件の背景、内容について報告する。弁護団は、吉岡良治、加苅匠、島袋博之(以上、敬称略。)、筆者である。
2 一方的なポイントの引下げ
大手保険会社各社は、平成15年に、代理店の保険料の規模(挙績)や増収率(前年からの挙績の伸び率)等に応じてポイントを設定して報酬額を設定する、いわゆるポイント制度を導入した。原告も、契約当初は、ポイント制度に基づき算出されたポイントに基づき報酬が支払われていた。ところが、ポイント制度は、保険会社の都合によりポイント項目が毎年変更され、保険会社から求められることに逐一対応しなければポイントが付かないだけでなく、挙績や、増収率がより大きくポイントに影響することとなった。そのため、挙績が小さく、増収率に大きな伸びが大きくない小規模保険代理店等は、特に大きくポイントが下がることとなっていった。原告も、ポイント減額により安定した経営が困難な状況となっていったことから、東京海上に対し、ポイントの固定化を求め続け、2014年(平成26年)度から、ポイントを固定する個別の合意を行った。そして、2020年度(令和2年度)からは、ポイント制度が導入される前の「上級代理店」の手数料水準に相当するポイントで固定する合意をした。こうすることによって、原告は、保険会社の都合に合わせたポイントを重視するのではなく、真に顧客本位の経営を継続することができてきた。しかしながら、今回、東京海上は、ポイントに関して個別に合意した事実を否定した上で、通常のポイント制度の適用した結果として報酬が2割程度減額されることは問題ないといった理由で報酬減額を強行したため、本件訴訟に至ったものである。
3 公取委の集団申告事案
本件訴訟と事案を異にするが、保険会社が一方的にポイント項目を変更・設定したり、一方的にポイント内容を変更することによって報酬を減額することが、優越的地位の濫用に該当することから、全国の保険代理店等約280名が申告人となって、令和5年7月21日、公正取引委員会に対し、しかるべき排除措置を求める申告を行った(なお、当該申告は、異例の長期間の審査の末、令和6年12月19日、現状の証拠関係では措置を講じることができないと判断されたが、保険会社のやり方に問題がないと判断されたわけではない。)。
本件訴訟は、当該公取委の申告事案と全く同じではないものの、優越的な地位を利用して一方的にポイント(報酬)を減額する保険会社の行動に対して一石を投じる点では共通点がある。多くの保険代理店は、取引関係にある保険会社に対して表立って反抗することができないのが現状であるが、保険会社の一方的なポイント制度の内容や、ポイント制度の内容が毎年一方的に変更されることに苦しめられている。
4 本件訴訟の意義
保険代理店の中には、本件訴訟の原告と同様、ポイントに関して保険会社と個別に合意をした上で報酬を設定しているものが少なくない。そういった意味で、本件訴訟の原告と同種の事例は、全国で発生していると思われる(実際にその報告もなされている)が、保険会社の契約関係に影響を及ぶことを恐れて、保険代理店がなかなか訴訟提起等に踏み切れない事情がある。本件訴訟は、保険会社の優越的な地位を濫用して一方的に報酬を減額する姿勢に対して明確に異を唱える重要な訴訟であり、本件訴訟の結果は、全国の保険代理店と保険会社のポイント制度の在り方に大きな影響を与えることとなる訴訟である。裁判を通じて、保険会社が、一方的に報酬を減額するなどその優越的な地位を濫用して保険代理店を苦しめている問題点を明らかにし、多くの保険代理店が保険会社と真に対等な立場で委託契約を継続できる環境を作っていきたいと考えている。





