民主法律時報

日本郵便・旧労働契約法20条近畿集団訴訟が和解解決

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに

日本郵政グループの労働者約37万人のうち、約17万人が非正規労働者である(全体の約45%)。日本の非正規労働者は約2100万人であるため、非正規労働者の1%近くが日本郵政グループで働いている。

日本郵便で働く期間雇用社員の多くは、正社員と日々の業務内容は変わらず、同じような責任と義務を課せられている。にもかかわらず、正社員と期間雇用社員の労働条件の格差は著しい。この処遇格差を打開するために、11名の郵政ユニオンの組合員が原告となって、2014年に大阪地裁及び東京地裁に労働契約法旧20条に基づき格差の是正を求めて提訴した。最高裁第一小法廷は、2020年 10月15日、夏期冬期休暇、年末年始勤務手当、病気休暇、年始期間の勤務に対する祝日給、扶養手当、住居手当につき、正社員と期間雇用社員との労働条件の相違を不合理とする判断をした。非正規労働者の格差是正の実現に向けて一歩前進の画期的判決であった。

2 大阪地裁での和解解決の内容

最高裁判決に先立つ2020年2月、郵政ユニオンに所属する全国約160名の期間雇用社員が原告となって、全国7か所の裁判所で旧労働契約法20条に基づく労働条件の格差是正を求める裁判を一斉に提訴した。

日本郵便は、最高裁判決後も、判決内容を踏まえて、日本郵便及び日本郵政グループ全体の期間雇用社員の格差を是正することはなかった。それどころか、日本郵便は、正社員の労働条件を引き下げるなど、期間雇用社員の格差是正を求める郵政ユニオンの要求をことごとく退けてきた。日本郵便に対する集団提訴は、日本郵便で働く期間雇用社員全体の労働条件の引き上げを現実に勝ち取り、社会全体における非正規格差を是正させるための闘いであった。

各裁判は、最高裁判決を土台に和解協議が進められ、長崎地裁、高知地裁、広島地裁、札幌地裁(寒冷地手当を除く)、東京地裁(寒冷地手当を除く)、福岡地裁で和解解決していた。大阪地裁においても、2023年7月28日、原告66名について和解が成立した。
大阪地裁(横田昌紀裁判長)での和解内容は、最高裁が不合理な労働条件の相違であると判断した各手当について、日本郵便が合計約2500万円の損害賠償義務を認めるというものである。また、日本郵便は、期間雇用社員の待遇改善に真摯に努めることも表明した。

3 今後の課題

本和解解決は、日本郵便における期間雇用社員の格差是正に寄与するものである。日本郵政グループにおける非正規格差の是正は、日本全体の非正規格差の是正への第一歩である。

しかし、日本郵便における正社員と期間雇用社員の格差はまだ残っている。基本給や賞与などの労働条件の格差も顕著である。日本郵便では、格差を理由に退職をする期間雇用社員も少なくない。

また、国内最大の単一労働組合でもあるJP労組は、夏期・冬期の有給休暇について、期間雇用社員に1日与える一方、正社員は1日に減らすとの会社提案を受け入れる方針を固めた。日本郵政グループの最大の労働組合であるJP労組が、本来あるべき格差の是正と逆行するような会社提案に応じたことは重大な問題であり、労働組合としての存在意義が問われる。正社員および期間雇用社員の団結により、互いの労働条件の向上が欠かせない。

労働者の実質賃金の減少が続いている。非正規労働者の待遇格差は深刻であり、低賃金での労働を強いられている。旧労働契約法20条、パート有期法は、非正規労働者の待遇改善のための強力な武器であり、これらを活用することにより非正規労働者への手当支給を勝ち取ることで、実質的な賃上げを実現することができる。非正規労働者には泣き寝入りすることなく、格差是正、労働条件改善のために声を上げていただきたい。

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