民主法律時報

民法協 第68回定期総会のご報告

前事務局長 弁護士 西 川 大 史

1 はじめに

2023年8月26日、第68回定期総会を開催しました。コロナが収束しないため、会場人数を制限するなど感染対策を徹底し、グリーン会館とZoom併用で開催しました。総会参加者は95名(会場54名、Web41名)でした。

2 志賀信夫准教授の記念講演

今年の総会では、会員である志賀信夫・県立広島大学准教授から、「貧困と差別をのりこえる社会運動――貧困理論の視点から」とのテーマで記念講演をいただきました。

志賀先生からは、まず「貧困」とは何かについて整理いただきました。「貧困」とは、あってはならない生活状態を指すものであり、追求したいと考える幸福追求のための権利の不全・自由の欠如を余儀なくされている生活状態と捉えるべきであり、「絶対的貧困」(肉体的能率の維持ができないような所得の欠如状態)や、「相対的貧困」(一般的だと判断されるライフスタイルの維持ができないような所得の欠如状態)と解することは、市民としての権利主体、個人の尊厳の観点から相当ではないことを解説いただきました。ところが、日本の政治や司法は、いまだに「絶対的貧困」に極めて近い貧困観にあり、それゆえ生活保護基準引下げを容認する不当判決が出されるのでしょう。とくに、同裁判の名古屋地裁判決は、1日3食確保できていれば、健康で文化的な生活を下回っていないと判断しています。個人の尊厳や生存権の本質をまったく理解しない時代錯誤の判断というほかなく、いかに克服するかが大きな課題です。

志賀先生は、生活保護基準の引下げは私たちの自由と権利の抑圧であり、連帯での自由・平等獲得のための取組みが不可欠であること、そのためには「脱商品化」(医療、福祉、教育、保育など人間が尊厳を持った生活を送るために必要な諸々の事物については、社会全体で守るべき「富」として商品化させないこと)が重要であると強調されました。

コロナ禍や物価急騰の中、国民の多くが生活に困窮しています。志賀先生のお話は、私たちの市民運動、社会運動の活力となる問題提起でした。日々の運動に活かしていきましょう。

3 議事・討論

2023年度の活動報告と2024年度の活動方針案の提案があり、それを受けて、①労働法制、②憲法平和、③生活保護、④マイナンバーについて特別報告をいただきました。

まず、①については、山下弘毅・大教組中央執行副委員長から「教員の長時間労働」、青木克也弁護士から「フリーランス保護法」についての報告がなされました。これら以外にも労働分野における課題は多数です。解雇の金銭解決制度の導入阻止、長時間労働の温床である裁量労働制の対象拡大阻止、非正規労働者の均等待遇の実現および雇用の安定、ハラスメント規制、雇用におけるジェンダー平等の実現、最低賃金の大幅引上げと地域間格差の是正など、労働者本位の労働政策実現に向けての運動強化が欠かせません。

②については、愛須弁護士から、岸田政権の「壊憲」の動きに対する行動提起がありました。安倍政権は、憲法や平和主義を壊し続けてきましたが、岸田政権もその手法を踏襲しており、その最たるものが安保3文書の改定、敵基地攻撃能力の保有です。明文改憲の阻止、戦争できる国づくりの阻止に向けての取組みが重要です。

③については、大口耕吉郎・大生連会長から「生活保護受給者の声や実態」、清水亮宏弁護士から「生活保護基準引下げ違憲訴訟」についての報告をいただきました。市民生活が困窮する中で、生活保護の重要性はいっそう高まっていますが、生活保護基準の引下げを容認した大阪高裁の不当判決は、市民のニーズに逆行するものです。最高裁での逆転勝訴に向け、世論の後押しも不可欠であり、民法協もその喚起のために力を尽くすことが不可欠です。

④について、辰巳創史弁護士から報告をいただきました。個人情報流出などの深刻なトラブルが続発しているにもかかわらず、岸田政権はマイナンバーのさらなる拡大を狙っています。民法協でも取組みを進めていくことが必要です。

4 本多賞

2019年から始まった本多賞では、今年は、大学の専任講師への雇止めに対して、無期雇用への転換を認める勝利判決を勝ち取った羽衣学園事件を表彰し、弁護団の西川翔大弁護士、原告からスピーチをいただきました。
本多賞のスピーチについては、民主法律時報10月号に詳しく掲載する予定です。

5 決算予算、特別決議、役員の選出

その後、決算予算、会計監査についての報告があり、決算の承認、予算の採択がなされました。また、「仕事と育児・介護の両立可能な社会の実現を目指す決議」を採択しました。仕事と育児・介護の両立は雇用社会のみならず民法協の活動においても重要なテーマです。「残業のない働き方」を実現し、真の意味での両立ができ、誰もが互いに尊重し合う社会の実現を目指しましょう。

今年度は、事務局の大幅な入れ替わりがありました。事務局長の西川大史、事務局次長の藤原邦昭さん(大阪労連)、片山直弥・清水亮宏各弁護士、事務局の西川裕也・佐久間ひろみ・脇山美春・垣岡彩英各弁護士が退任し、新たに、事務局長に藤井恭子弁護士、事務局次長に遠近照雄さん(大阪労連)、吉村友香弁護士、事務局に金星姫・片桐誠二郎、榧野寛俊各弁護士が就任しました。藤井事務局長率いるフレッシュなメンバーによる民法協活動の更なる充実が期待されます。

6 さいごに

2024年度も民法協が取り組むべき課題が山積みです。物価高騰、コロナなど生活や雇用への不安は高まるばかりですが、さまざまな社会の矛盾と闘うことは民法協の永遠のテーマでもあります。引き続き民法協活動へのご参加をよろしくお願いします。

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