民主法律時報

労働者の生活・権利擁護に背を向ける裁判所を批判する――吹田非常勤職員雇止め事件大阪高裁判決

弁護士 河 村   学

1 事案の概要

本件は、吹田市において、生活指導員として21年ないし25年間にわたって任用(任期は1年)を継続してきた非常勤職員2名が、その担っていた職務の民間委託に伴い雇止めされた事件である。担っていた職務は高齢者・障害者福祉事業(デイサービス等の事業)であり、事業廃止に伴い、同職務に従事していた正職員は転任され、当該非常勤職員は、「(最後は6か月とされた)任期が終了した」という理由で雇止めされた。

民間であれば、労働契約法19条が適用され、吹田市が雇止めを行う合理的理由は何もないので、雇止めが無効とされる事案である。この事案について、非正規公務員も、民間労働者と同じように、その仕事に誇りを持ち、その仕事で生計を立てているのに、民間の使用者なら権利の濫用とされる行為が国・自治体が使用者なら許される、こんなことが裁判所で通用するのかが問われた。

しかし、本件につき、大阪地裁(大阪地判平28・10・12。裁判官―内藤裕之・菊井一夫・新城博士)、大阪高裁(大阪高判平29・8・22。裁判官―河合裕行・永井尚子・丸山徹)は、労働者の請求を棄却した。国・自治体がすれば「こんなこと」も通用するし、労働者の誇りや生活など裁判所が気にすることではないから考慮もしないという、極めて冷淡な判決であった。

2 判決の内容

(1) 裁判所は、判断の冒頭で、「任用予定期間経過後に再び非常勤職員として採用される権利若しくは採用を要求する権利を有しているものではないし、当該非常勤職員が任用の継続を期待することは合理的であるとはいえず、控訴人らの上記期待それ自体法的保護に値する利益とは認められ」ないと断定する。

この点、別件で同様に公務非常勤職員の雇止めが問題となった守口市非常勤職員雇止め事件(大阪高判平29・4・14。裁判官―山下郁夫、杉江佳治、久末裕子。地裁判決は本件の裁判体と同じ)では、「雇止め制限や解雇に関する法理が類推適用される余地はない」「労働契約法19条を類推適用することができないことは明らか」「信義則違反又は権利濫用により違法かどうか…について判断するまでも」ないとまで述べている。

公務員には、民間労働者に認められている雇止め制限法理及びその根拠となっている労働者の雇用継続に対する期待の保護を一切認めないという内容である。

(2) では、その理由は何か。裁判所の理由は次の3つである。①公務員の任用は行政処分である。②非常勤職員の採用は地公法17条1項に基づいて行われる公法行為である。③地公法15条は職員の任用は成績・能力に基づき選考しなければならないと定めている。

細かな理屈は省略するが、これらはいずれも裁判官による断定であって、なぜその解釈が正しく・妥当なのかについては何ら述べていない。裁判所が最も強調するのは③であり、結局、裁判所が理由とするのは、選考という自治体の任用「行為」がない以上、任用は認められないという点に尽きる。極端にいえば、自治体が思想差別・男女差別等の目的で一部の非常勤職員だけ排除しても、自治体が定年まで必ず任用を更新するとの明確な約束を反故にしても、自治体の任用「行為」がない以上、労働者は職員としての地位を守ることができない、自治体の信義則違反や権利濫用があっても同じである、というものである。

本件判決では、労働者が希望すればその実績に問題がない限り当然に更新が行われてきたとの主張に対して、「選考がなされたことを否定するような事情(…)も見出せない」から選考はあった旨の判断を行っている。自らの結論に合わせるために、選考がなかったという証拠はないから選考はあったという解釈までしている。

3 公平でも人権の砦でもない裁判所

(1) この間、情報開示によって、平成27年12月11日、最高裁判所の組織である司法研修所が主催して、大阪・東京の労働部裁判官などを集め、「労働事件をめぐる実務上の諸問題」と題する研究会を行っていたことが判った。講師の一人は大阪地裁労働部の内藤裕之裁判官であった。そして、この研究会の場では、「任期付き公務員の任用が継続されるとの期待と国家賠償責任」とのタイトルで討論が行われていた。

その討論の内容や、研究会の持ち方など問題は多いが、問題の一つがその設例である。設例とされた事案は、前記守口非常勤職員事件(裁判長は内藤裁判官)と瓜二つであり、しかも、同事件は、この研究会が開催された当時、未だ争点整理の段階で、証人尋問も行われてはいなかった。そのような時期に、同事件で大きな争点となっていた労使合意の内容に関し、当局側の主張に沿った事実認定を前提に損害賠償請求の可否が議論されていたのである。労働者側の必死の訴訟活動をよそに、予断をもって結論を決め(そう見える)、これを前提に請求の可否について最高裁主催の裁判官の集まりで検討していたのであれば、およそ公平な裁判所とはいえない。

(2) 
今年5月、地公法が改正され、会計年度任用職員制度が創設された。その結果、明文上は、任期付き職員をどのような公務職場にも恒常的に利用でき、かつ、何時でも、どのような理由でも雇止めできる職員が生まれることになる。この職員は、明文上、労働契約法18~20条の保護もないため、任用継続に対する期待も全く保護されず、正職員の労働条件との不合理な相違さえ是正されない、労働基本権も制約されるため、争議権を行使できず、労働委員会への救済申立てもできない。この日本でもっとも権利・生活が保護されない労働者が誕生する。

(3) 
政府も、裁判所も、とりわけ非正規労働者に対しては、労働者の誇りや生活を顧みないということで一致し、貧困と格差を助長し、労働の商品化を推進しているのが現状である。

戦後、ある最高裁判事は、「裁判官は体制的でなければならない。体制に批判的な考えをもつ人は裁判官をやめて、政治活動をすべきだ。…。悪法といえども法は法であり、その法律に従うことが裁判官の職務上の義務でもある」と述べた。現行憲法を擁し、少数者・弱者の自由権・生存権・労働権を保障するこの国において、その保障を求める訴えを政治活動と非難し、裁判所は体制的であるべきとする体質は、現在も続いている。

本件は、上告受理申立てを行い、最高裁に係属している。

(弁護団は、豊川義明、城塚健之、中西基、谷真介、楠晋一、河村学)

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