民主法律時報

東リ偽装請負事件で労働者らが完全勝利判決―神戸地裁の不当判決を乗り越え逆転勝訴 ―

弁護士 村 田 浩 治

1 はじめに

東リ株式会社伊丹工場で長年にわたる偽装請負で就労していた労働者らが、施行間もない労働者派遣法40条の6に基づいて東リに対して雇用契約上の地位確認を求め2017年9月に提訴した事件で、2021年11月4日大阪高等裁判所(裁判官:清水響・川畑正文・佐々木愛彦)は、労働者の請求を全部棄却した神戸地裁の不当判決を取消し、地位確認及び4年7ヶ月分のバックペイを命じる逆転勝訴判決を言い渡した。

2 事件の経緯

東リの伊丹工場では、巾木(部屋の床と壁の間にあるなくてはならない建材)の製造ラインと化成品(建築用接着剤)の製造ラインは1998年から、有限会社ライフイズアート(以下「ライフ社」とする)の従業員らが仕事をしてきた。当初は東リ社員とライフ社社員が混在していたが、2003年頃にライフ社だけの請負となった。しかし、常に東リ従業員が品質チェックするものであり、実態は労働者の労務提供を目的とする派遣労働であった。

ライフ社社員には賞与もなく年収300万円余りで東リ社員の半分程度であった。ライフ社社長のパワハラ問題がきっかけとなって結成された労働組合執行部は、徐々に偽装請負問題へと闘争方向を変えるところとなり、上部団体の連合兵庫ユニオンと袂を分かつ形で東リに対する直接雇用を求める闘争へと発展した。

しかし、東リがライフ社から大手派遣会社への労働者派遣契約への切り替えのタイミングで労働組合員らが突然組合を脱退し、執行部を中心に残った5名の組合員だけが採用を拒否されたため、労働者5名は、労働委員会闘争と裁判闘争をせざるを得なくなった。
裁判の争点は、労働者派遣法 条の6、1項5号による労働契約関係が認められるかであるが、一審神戸地裁は、2020年3月13日、東リ伊丹工場での労働者の就労は、偽装請負にあたらず労働者派遣法違反がないとして、40条の6の適用を否定する不当判決を下した。

3 大阪高裁判決の意義

①高裁判決は、神戸地裁を取消し東リでの長年の偽装請負をその歴史と実態に即して丁寧に認定した上で、東リが、日常的かつ継続的に、伊丹工場の他工程と同様に指示や労働時間の管理等をする偽装請負をおこなっていたと認定した。特に「東リの指揮命令」について、神戸地裁が下請会社の「主任」に対する指示は、請負会社に対する注文主からの指示だと実態とかけ離れた判断をしたのに対し、下請責任者への指示が、東リの従業員らが就労するラインへの指示と変わりなく、細かな業務遂行上の指示であったとして東リの従業員らの指示と同様ライフ社社員への指示であると明解な判断を示した。

②さらに、東リに「派遣法等の適用を免れる目的」があったかという点について、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認する」との判断を示し、東リが懸命に否定した「派遣法の適用を免れる目的」を客観的事実から推認できるとした。

③さらに、派遣先との間で成立する契約についても、契約書もない実態を踏まえ「期間の定めがない契約」の成立を認めるとともに、昇給分も含め約7800万円のバックペイも命じた。

大阪高裁の判断が、単に形式的な下請会社の責任者への指示があるだけでは注文主の指示とせず、偽装請負(違法派遣)であると積極的に認定した点は、今後、「下請」名目で、実際には労務提供をさせられている疑いのある労働者の格差是正にも繋がる重要な判断である。この判決を生かし、偽装請負を摘発する動きを強めていくよう皆さんに呼びかけたい。

(弁護団は、他に大西克彦、安原邦博の民法協会員である。)

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