民主法律時報

会社が仮処分申立を取下げ―北港観光バス・街宣活動禁止仮処分事件

弁護士 西 川  大 史

1 はじめに
 北港観光バスは、平成23年12月15日、建交労北港観光バス分会の正当な組合活動に対して申し立てた「街頭宣伝禁止の仮処分」事件について、大阪地裁に取下書を提出した。
 本件は、裁判所による不当な仮処分決定に対して、組合が保全異議を申し立て審理中であったところ、審理が終結し、裁判所の決定を待つのみというタイミングで、会社自らが仮処分申し立てを取り下げたものであり、異例の取下げであるとともに、まさに組合の勝利を意味する画期的な意義を有するものでもある。

2 事案の概要
 北港観光では、建交労を敵視し、組合を弱体化する目的で、建交労北港観光バス分会の分会員4名に対して、雇い止め、自然退職扱い、配車差別による賃金減額、出勤停止、配置転換等の違法不当な攻撃を行ったため、組合はこれらを不当労働行為であるとして団体交渉を求めていた。
 しかし、会社は、団体交渉に誠実に応じなかったため、組合は平成23年3月22日から4日間、各日約15分、本社及び営業所の周辺を、録音テープを流しながら街頭宣伝車でまわった(この宣伝内容は、虚偽の内容でも、会社の名誉等を毀損する内容でもなかった。)。
 これに対して、会社は、本社及び営業所周辺1㎞内における「街頭宣伝車による演説、放送」「ビラの配布」を禁じる仮処分を申し立てたところ、大阪地裁第1民事部(保全部)の横田典子裁判官は、平成23年5月10日、会社の主張を鵜呑みにして、理由を何ら示すことなく、会社周辺500mの範囲において、「街頭宣伝車等の車両で徘徊し、街頭宣伝車等を利用して演説を行い、あるいは放送を流すなど、債権者の業務を妨害したり、債権者の名誉、信用を棄損する一切の行為」及び「債権者の名誉及び信用を棄損する内容を記載したビラを配布する行為」を禁止するとの仮処分決定を行った(なお、組合は、テープを流しただけで、「演説」を行っていない。また、組合は、街宣活動を行うにあたって自治会長宅に挨拶に出向き、組合ニュースを渡しただけであり、「配布」もしていない。)。

3 保全異議の申し立て
 これに対して、組合では、平成23年5月20日、仮処分決定の取り消しを求めて保全異議を申し立てるとともに、新たに出田健一先生、河村学先生をはじめ多くの先生方に弁護団に加入していただいた。
 弁護団では、宣伝活動に至った経緯、組合活動としての相当性、表現内容の真実性、会社側の損害の程度等について、改めて事実整理をして詳細に主張するとともに、組合による宣伝活動に関する裁判例を整理し、組合の宣伝活動が憲法で保障された重要な権利であり、本件のような目的、内容、態様での宣伝活動が禁止された裁判例が過去にはなく、組合が負けた裁判例は、本件と事案を全く異にすること等について理論的主張を展開してきた。
 また、組合では、これまで普通に行われてきた会社周辺での宣伝活動を禁止する異常な決定に危機感を持ち、大阪労連を挙げての支援体制を組み、裁判所の不当な決定を許さない、会社からの違法、不当な攻撃を許さないとして、毎週1回の裁判所前での宣伝活動や、要請行動を展開し、その不当性を訴えてきた。

4 会社からの取下げ
 そして、保全異議申し立ての審理が集結し、裁判所の決定を待つのみという平成23年12月15日に、会社自らが仮処分申立を取り下げたのである。
 今回の会社からの仮処分申立の取下げは、組合の宣伝活動が正当であったこと、及び会社の申し立てが不当であったことについて、仮処分を申し立てた会社自身に認めさせたという点、及び本件ではすでに仮処分決定がなされているにもかかわらず、会社に申立を取り下げをさせたという点において、仮処分決定の取り消し以上に画期的意義を有するものである。
 また、今回の取下げには、裁判所からの強い説得もあったと思われる。裁判所では、11月16日の審尋において、会社側と約30分にわたって個別に話をしており、その際に、裁判所からは、本件仮処分が取り消されるとの見通しが示され、仮処分申立の取下げが強く促されたに違いない。街宣活動を禁止する不当な仮処分決定をした裁判所自身から、取下げが促されたとすれば、それは裁判所に仮処分決定がいかに不当であったかを分からせたという点で非常に重要である。
 
5 今後の教訓、展望
 仮処分決定の原因は、労働組合の権利についての担当裁判官の無理解によるものではあるが、弁護団としても、これまでの経験からすれば、これくらいの宣伝活動であれば問題ないと油断していたことも仮処分決定を許してしまった理由である。
 街宣禁止の仮処分が、労働事件の専門部である第5民事部ではなく、一般保全事件を扱う第1民事部に係属となるという大阪地裁の事件配点の現状からすれば、裁判官が労働組合運動に精通していないことを前提にした詳細な事実整理、法的主張を展開しなければならなかったのではないだろうか。この点については、弁護団としても猛省しなければならず、今回の教訓を生かして、同じ過ちを繰り返してはならないところでもある。

6 さいごに
 昨今、労働組合の正当な宣伝活動に対して、会社が宣伝活動禁止の仮処分を申し立てるという不当なケースが各地で広がりつつある中、今回の会社からの取下げは、使用者からの不当な組合攻撃に歯止めをかけたものである。これも、皆様からのご支援のおかげであり、厚く御礼申し上げる次第である。
 今後は、建交労北港観光バス分会の組合員の個別裁判、労働委員会への不当労働行為救済申立事件すべてにおいて、勝利を目指して全力を尽くす所存である。

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