民主法律時報

「美しい国」異聞 《年頭のごあいさつ》 

会長 萬 井 隆 令

 安倍晋三氏はかつて「美しい国を…」と訴えていた。何を以て「美しい」というのか説明はなかったが、問題は首相になってから、実際に行なっていることである。

安倍首相(と、ブレーン)は耳触りの良い言葉を好んで使う。辺野古基地反対を掲げ、大差で当選した沖縄県知事・玉城氏と初めて会った際、沖縄に米軍基地が密集している「現状は到底、是認できるものではない。今後とも、県民の皆さまの気持ちに寄り添いながら、基地負担の軽減に向けて一つひとつ着実に結果を出していきたい」と述べた。「今後とも…」というと、何かこれまで努力してきたかのようだが、現実には、普天間基地の撤去は見通しも立たないし、沖縄だけでなく横田、岩国にもオスプレイが配備され、各地で米軍の行動は拡大し、基地負担は重くなる一方だが、地位協定を理由に黙認するだけ。沖縄では、成りふりかまわず辺野古で土砂投入へ前のめり。基地予定地の海底に厚さ mのマヨネーズ並みの軟弱地盤があり、忽ち沈下のおそれがあるが、それでも強行する。早速、川柳で、「寄り添った 顔は白い眼馬の耳」(三井正夫)、「沖縄に寄り添わないで寄り倒し」(細木豊一)と皮肉られる始末である。ほかにも、「働き方改革で、『非正規』という言葉を一掃したい」と言い、実際には戦闘が必至な事態をも「駆けつけ警護」と言い、カジノを含む理由を説明しないままIntegrated Resort(IR)推進と言う等々。自分の言葉に酔っている風もある。

安倍首相は言うこととやることが食い違うこともしばしばで、広島の原爆死没者慰霊・平和祈念式では、「非核三原則を堅持しつつ、国際社会の取り組みを主導していく決意」と言いながら、核兵器禁止条約に賛同しないのはその典型。

トップがこれだから、大臣や官僚は「倣え!」で、海上自衛隊は「いずも型」護衛艦を改修して垂直離着陸戦闘機F35Bを搭載できる「多用途運用護衛艦」にする。「何と呼ぼうと 空母は空母」(張本雅文)。言い値のまま一機150億円で100機も買い(保有は140機になる)、潜水艦も多数保有する。いずれも海外へ出かけて戦闘する武器で、「専守防衛」は顧みられもしない。

「言葉」による誤魔化しとともに深刻なのは、現実の政治の内容である。攻撃的な戦争体制作りのために、トランプ大統領から国際会議の場でわざわざ礼を言われるほど巨額の武器購入をする。「ポチではなくてカモだった」。他方で、超巨額の財政赤字を改善するまともな政策はなく、赤字を次世代に先送りするだけ。低金利政策が続き、「いざなぎ」景気以来の好況で、企業は儲けているが、労働者の実収入は減る一方。今の青年は年金が保障されなくなると言われる。挙げれば切りがないが、このままでは将来、どうなるのだろうと不安に駆られる問題が少なくない。

まともな仕事をしない官僚機構も目に付く。森友問題では売却土地の評価を偽造、記録は改ざん。「働き方改革」の柱にしていた裁量労働制についての資料は不備、財界の「労働力」需要に応えるためだけの法律制定を急ぎ、人権無視で働かされている技能実習生の実態は把握していない等々。政府は反省もしないし、責任者の懲戒処分もほとんどない。

毎年、同じようなことを言ってる気もするが、状況がそうさせる。安倍首相は言ったことももう忘れているだろうが、これでは「美しい国」ではないではないか。もう、待ってはいられない。私達が力強く闘う以外にない、本物の「美しい国」を創るために。

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