民主法律時報

ココロちゃんのカウンセリング教室(第5回)―事例で学ぶカウンセリング―

弁護士 西田 陽子

*当連載は、弁護士西田がカウンセリング教室で学んだエッセンスを、法律相談の妖精ココロちゃんとの対話形式でご紹介するものです。

【事例】中間管理職の相談
私は今、勤め先で企画開発の課長をしているんですが、部下にどんな風に指導したらよいか、困っています。私は、いわゆる中間管理職で、私の上には次長がいて、部下が8人います。部下は4人ずつ2つのグループに分かれており、それぞれに主任がいます。最初は良かったんです。コミュニケーションも取れていて、雰囲気も良くて。ところが、最近主任になった、いわゆる「やり手」の若い主任が、成果は出すのだけど、最近、私でなく、次長に直接指示をもらいにいくんです。私にひとこと言ってくれれば状況も分かるのですが、報告も、相談もなく・・・。ところが、彼が結果を出すものだから、次長も彼を褒めるし、部署でも「よかった、よかった」と彼を褒めるわけです。仕事なので結果がすべてなのですが、何かおもしろくない感じがするんですね。彼も、「結果が出ていればいいだろ」みたいな。何か、一緒に成果が出たことを素直に喜べなくて。居心地が悪い感じなんです。私も、彼が結果を出すものだから、焦りや、妬みみたいなものもある気がして。どんな風に振る舞ったらいいのか、自分でも分からないんです。今、仕事にいくのがしんどくて、気が重い状態です。私は彼にどのように対応したらいいでしょうか。

●K先生(以下「K」):今回は、読者の方からのリクエストにお応えして、冒頭の事例を題材に、カウンセリング技法のまとめをしたいと思います。事例の検討の前に、傾聴の仕方についておさらいしましょう。

○ココロちゃん(以下「コ」):傾聴のポイントは第2回で扱いましたね。まずは、相談者の「主訴」と「ニーズ」を把握することから始まります。「主訴」は、相談者が何に対して悩んでいるかという、問題の根幹です。「ニーズ」は、その問題のある状況が、どのように変化することを望んでいるかということです。

●K:そうですね。ではココロちゃん、今回の相談者の「主訴」は何だと思いますか?

○コ:ええと・・・仕事のよくできる部下に対して、上司としてどのように振る舞えばいいか悩んでいますね。

●K:もう少し掘り下げてみましょう。なぜ、どのように振る舞えば良いかで悩んでいるのでしょうか?

○コ:その部下は、結果を出しているし、相談者の上司とも仲がよいのですが、相談者に報告をせず仕事を進めるなど、相談者を軽んじているようなところがあるからでしょうか。部署での立ち位置が分からなくなり、仕事をするのが苦痛で、「しんどくて」「気が重い」感じがするみたいです。

●K:主訴の把握としては十分だと思います。では、相談者の「ニーズ」はどこにありますか?

○コ:結果を出していることはいいことなので、部下には、報連相をきちんとしてもらって、相談者や部署の和を考えた行動をしてもらえるよう、上手に指導したいと思っています。チームで一丸となって結果を出してくれれば、相談者の今の不満や嫉妬の感情、仕事への苦痛がおさまり、部下の出す成果をみんなで喜べるようになるのではないでしょうか。

●K:なるほど。なかなか鋭い分析だと思います。分析したことを、相談者に対し「・・・だと私は感じたのですが、いかがですか」などと投げかけ、答え合わせをしていきましょう。共感的な理解を示す伝え返しを行いながら相談者に寄り添うことで、話が促進され、深化していき、感情や認識、価値観、更に深い葛藤やコンプレックスなどに気づくことができます。それらの「気づき」により、その人の本心が表出していきます。

○コ:それが、ようやくたどり着いた「心の領域」であり、そこには問題の核心と解決の糸口があるとのことでしたね。この辺りは、第3回で扱いましたね。

●K:今回の事例についても、彼の感情や葛藤について考えてみてください。それでは、次回からは、家族の問題を扱うこととします。

(第6回へ続く)

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