民主法律時報

刑事訴訟法改正・通信傍受法改正法の危険性

弁護士 岩田 研二郎

1 通信傍受の拡大の危険性

「通信傍受制度については、不正不当な傍受が行われた場合、行われた時点で制止する仕組みは実際上全く設けられていない。事後的監視の仕組みも、犯罪関連通信がない場合には傍受対象者に傍受したことの通知がなされない制度で、不正な傍受をされた者は傍受をされた事実を知らず、異議や調査検討を行うこと自体が想定されない。不正傍受を防止、監視する仕組みがないため、次第に適正手続遵守の規律が緩み、不正傍受を生む温床となる。」
実は、これは、2016年5月19日、参議院法務委員会の締めくくりで述べられた民進党の小川敏夫議員(元裁判官)の刑訴法等一部改正案への「賛成」討論の理由です。これだけの「反対理由」をのべながら、民進党が、取り調べ可視化の一歩前進として賛成したため、法案が成立してしまいました。
改正法で認められた盗聴法の対象犯罪の拡大(従来は、薬物、銃器犯罪など暴力団関連犯罪に限定→窃盗、詐欺、恐喝など一般犯罪に拡大)と手続の緩和は、今後、飛躍的に電話、メールの盗聴案件を増加させていくことは確実です。今までは通信事業者の立会が必要であったために、警察は通信傍受をするためには、通信事業者の東京本部に地方から数名の捜査員が出張して数日間、缶詰になって傍受するという負担がありました。法改正により立会を不要とし、暗号化された通信データを通信事業者から各都道府県の警察本部に転送することで足りることとしたために、警察は東京に出張する負担はなく、とりあえず令状をとってデータ転送を受けておけば、時間のあるときに傍受すればよいので、大変使いやすくなったからです。

2 栃木今市女児殺害事件と別件起訴後勾留中の録音録画義務

参議院審議中の4月8日に、栃木県の女児殺害事件(今市事件)裁判員裁判事件の判決がなされました。同事件では、審理で、別件(偽ブランド販売の商標法違反)逮捕事件の起訴後勾留段階でなされた警察の殺人罪容疑の取調べが全く録画されておらず、警察の違法取調べを主張する弁護側の立証が不可能になるということが問題となりました。
それを受けて、4月14 日の法務委員会審議で、日本共産党の仁比聡平議員の質問に、法務省の林真琴刑事局長が、「別件の録音録画非対象犯罪で勾留されている被疑者の公訴提起後の対象犯罪の取調べの録音録画は、この改正法案では義務づけられていない」との不合理な見解を表明しました。日弁連執行部は、4月19日の河津博史日弁連司法改革調査室副室長の参考人質疑で、「まさに対象事件である殺人事件について、別件被告人として勾留されている者を対象事件の被疑者として取り調べるときに当たると考えるのが通常の読み方である」と法務省答弁の誤りを指摘し、録音録画義務があると解釈すべきと指摘しました。
法制審議会の特別部会において録画義務対象として論議されていたのは「身体拘束された」人に対する取調べで、さらに身体拘束前の任意調べでも実施すべきとの議論がなされていたもので、別件起訴後は「被疑者」から「被告人」になるので身体拘束されていても除外されるとの議論は存在しませんでした。
もし法務省のこのような解釈が通るのであれば、別件起訴して、起訴勾留中に録画なしで警察が自白を強要し、その影響下で、検察での自白調書を録画して作成し、公判で否認したら、検察の自白調書と自白録画を有罪立証の証拠として提出するという最悪のシナリオ(捜査機関にとっては都合のよい)となることが否定できません。今後、法律の見直しにあたって、その義務の明確化を求めていくことが必要です。

3 今後の課題――録音録画を有罪立証に使わせない、取調べの黙秘の意義

取調べの部分録画が事実上有罪立証に使われた今市事件の弁護人が「全過程の可視化が実現したとしても、録音録画の危険性は意識されなければならず、録音録画は自白調書の任意性を立証する目的でのみ証拠とされるべきであり、犯罪を証明する実質的証拠又は自白調書の信用性を証明する補助証拠として使用することを禁止すべき」との意見を述べています。他方、検察庁は、録音録画媒体を有罪立証に積極的に使用するよう検事にすすめています。両刃の刃といわれる可視化の持つ問題点です。
今後、部分可視化や実質証拠化への対抗手段として、可視化によって捜査官に破られにくくなった取調べの黙秘を被疑者に積極的にすすめる弁護活動が本格化していくことも考えられます。

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