民主法律時報

裁量労働制の対象拡大に反対する緊急集会

弁護士 青 木 克 也

2023年1月26日、エル・おおさか南館101会議室において、標記集会を開催しました。会場には17名、Zoomには18名の方の参加がありました。

 本集会のメインとなったのは、民法協会員の塩見卓也弁護士による「裁量労働制の問題点と濫用事例」と題する報告でした。

塩見弁護士は、裁量労働制には大きく3つの問題点があると指摘されました。

まず、①長時間労働を助長することです。厚労省が2019年に行った調査からは、裁量労働制が適用される労働者はそうでない労働者よりも実労働時時間が長く、概ね1割以上が過労死ラインを超える長時間労働に従事していることが窺われます。

次に、②濫用(違法適用)されやすい傾向があることです。裁量労働制は、適法に運用されていれば、実労働時間どおりの残業代を払わなくてよい制度であるため、それを「偽装」する使用者が後を絶ちません。しかし、労基署の事前審査は形式的なものにとどまり、労働者にもわかりにくい制度であるため、濫用の実態が表に出にくいという特性もあります。

そして、③適切でない業務が適用対象とされていることです。例えば、全適用対象者数に占める割合が最も大きいシステムエンジニアの業界は、統合されたシステムの全体を扱うのではなく、細分化された下請業務にタイトな納期管理のもとで従事している労働者が多いのが現状であり、果たしてどこに「裁量」があるのかと疑問を禁じ得ません。

塩見弁護士はまた、これらの問題点がまさに凝縮されたような事案を、代理人としての経験に基づいて紹介されました。

 前述のように大きな問題点のある裁量労働制ですが、その適用対象を拡大しようという検討が、国の労働政策審議会で行われています。すなわち、対象業務が法律で限定されている専門業務型裁量労働制について、金融機関で企業の合併・買収等の考案・助言をする業務を新たに対象に加えようというのです。

そのような「検討」の状況について、民法協事務局次長の清水亮宏弁護士から、制度の沿革を踏まえた詳しい報告がされました。

 専門業務型裁量労働制の導入には労使協定の締結が必要ですが、この点に関して、新聞労連書記次長の伊藤明弘さんからは、新聞業界での実践例を紹介しつつ、労使協定の内容や裁量労働制の運用についての主導権を組合が掌握し、会社に渡さないことが重要であるとのお話がありました。

 裁量労働制は、「働きたい時に働ける」というメリットが労働者にもあると言われることがあります。しかし、そのような目的であれば、残業代を失わなくて済むフレックスタイム制度を活用するほうが明らかに合理的です。このことから、後半の討議において、裁量労働制は廃止すべきだとの意見が、塩見弁護士から述べられました。政府や経営側の「おためごかし」を看破し、労働者本位の立法が行われるよう、力強く声を上げていかなければなりません。

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