民主法律時報

裁判・府労委委員会例会報告――フジ住宅ヘイトハラスメント裁判を題材として

弁護士 片山 直弥

1 はじめに
2018年7月31日、裁判・府労委委員会の例会がエル・おおさかで行われました。今回は「フジ住宅ヘイトハラスメント裁判」をテーマに、個別事件の検討を行いました。なお、出席者は20名でした。
最初に、弁護団の村田浩治弁護士及び冨田真平弁護士から事件の概要・特徴、今後の課題などの詳細なご報告を頂きました。
その後、その報告を踏まえて、出席者との間で活発な議論が交わされました。

2 フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の特徴
事案については、民主法律時報2015年10月号(2015.10.15)で弁護団の金星姫弁護士が執筆しました「『ヘイトハラスメント裁判』にご支援よろしくお願いします!」をご覧いただければよいかと思うのですが、驚いたのは、①フジ住宅の会長が業務とは関係のない人種差別的内容を含みヘイトスピーチとして違法である可能性が極めて高い新聞記事のコピーやフェイスブック記事のコピーなどを全社員に配布して業務日誌などに感想を書くよう促し、②さらに会長がその感想文に下線などを引いたもの(これにも人種差別的内容が含まれています)を全社員に配布しているという点です。

労働者の中には人種差別的言動にさらされたくないという方もいるでしょう。上記①は、そのような労働者に対し、読みたくもない人種差別的内容が書かれた資料を強いて読ませるものです。また、「同調圧力」や「認知的不協和」という言葉があるように、通常、人は、個人の認知と他人の認知との間に不一致・不調和が生じた場合、不協和を解消あるいは低減しようとするものです。会長や同僚が「すばらしい」と賛同しているものに対して「おかしい」と反対の意見を述べることは決して簡単なことではありません。そのため、上記②は、賛同したくもない人種差別的内容への賛同を強いるものといえます。このように、フジ住宅ヘイトハラスメント裁判では、職場における労働者の人格権の侵害が問題になっているのです。

例会でお聞きしてさらに驚いたのは、「被告である使用者側がネット等で積極的な動きを見せている」という点です。具体的にいいますと、フジ住宅は、その公式ホームページで「提訴に関する弊社の考えと原告支援団体の主張に対する反論」として、各期日の概要、被告提出書面及びその骨子などを書いたブログへのリンクを掲載しているのです。私の知る限り労働者との間で裁判となった使用者を支援する側も積極的に動員をかけるという事案は聞いたことがありません。通常、使用者は、その企業イメージが低下することを懸念して裁判沙汰となっていること及びその内容を隠すものだからです。

3 さいごに
昨今ではインターネットが発達して、労働者側もSNSを利用するなどの変化がありました。今後は、厚顔にも本件のように使用者側がSNSを活発に利用するようになるのかもしれません。職場における労働者の人格権を守るためにというのはもちろんですが、インターネットを利用した裁判外論争の先駆けとして運動面でもがんばって頂きたいと思います。なお、その運動の一環として労働者側は、メーリングリストの開設(info@taminzoku.comに「件名」に「フジ住宅ML参加希望」と書き「本文」に氏名、連絡先及びひとこと自己紹介を書いたメールを送信)、Twitterアカウントの開設(@HateHarassment)及びFacebookページの開設(https://www.facebook.com/HateHarassment)を行っていますので、一緒に支援の輪を広げて参りましょう。

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